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 理学部 生物分子科学科 分子生物学部門
 Division of Molecular Biology

教授:
  渡辺 直子
准教授:
  藤崎 真吾
  岸本 利彦
講師:
  曽根 雅紀
■ 概要
細胞の機能制御における分子機構の解析(渡辺)
1. In vivo 皮膚炎症反応の発症機構の解析
 マウス耳へのクロトンオイル塗布により皮膚炎症反応が誘導されるが、クロトンオイルの塗布によって最初に作用するのは表皮のケラチノサイトであることから、マウスケラチノサイト細胞株 PAM212 を用い、クロトンオイル添加によってケモカイン (MIP-2、KC、MCP-1) の発現が増加することを明らかにし、それらの発現誘導に関わるシグナル伝達経路を解析した。
2. 細胞の機能分化制御に関わる転写因子 Dve の解析
 Dve タンパク質の DNA への結合には K50 element 配列が結合に必要であることが明らかにされたが、 SELEX 法によって単離され結合が確認されたクローンには、K50 element の周辺に ATC から成る(相補鎖は ATG)特徴的な配列が含まれていた。EMSA を用いた結合特異性の解析により、十分な結合に ATC 配列が必要である可能性が示唆された。また、K50 element を含むロドプシンや Dve プロモーター領域に in vitro で合成した Dve タンパク質が結合することを明らかにした。
大腸菌の脂質代謝の解析および非密封放射性同位元素を用いる高等学校生徒実験の教材化(藤崎)
1.大腸菌のイソプレノイド代謝の解析
 細胞表層の合成と脂質のリン酸化・脱リン酸化の関係を調べるためにプレニル一リン酸とプレニル二リン酸の分析条件を検討した。親水性相互作用カラムによる分離と質量分析計によるプロトン脱離イオンの検出の組合せにより簡便に精度よく分析できる見通しが得られた。また、ホスミドマイシンに著しい感受性を示す大腸菌変異株を解析し変異遺伝子を同定した。
2.ハーシーとチェイスの実験の教材化
 ハーシーらがT2ファージが大腸菌に感染するさいのDNAの状態変化を確認した実験を再現する条件(温度、緩衝液、時間等)の検討を行なった。
細胞の適応・進化および増殖(癌化)機構の解析(岸本)
1. 大腸菌耐熱進化過程の解析
45℃以上の高温で生育可能な耐熱性大腸菌を創出し、その適応・進化過程をゲノム、プロテオーム解析により分子レベルで解析し、適応進化過程で現れる特徴的な相互作用等を明らかとすることで、進化メカニズムを解明する。今年度は、47℃以上の適応大腸菌の創出、45℃適応進化時に現れる相互作用因子の同定と相互作用の高温適応への関与メカニズムの解析、高温適応時の分子シャペロンの機能解析を行った。
2. 微小管切断因子Kataninの機能解析
微小管切断因子Kataninの新たな細胞質分裂部での局在に関し、Katanin遺伝子機能阻害実験のタイムラプス解析により細胞質分裂への関与を明らかとした。また微小管束化因子PRC1十の相互作用について解析を行った。
3. グリシン抱合酵素ファミリーGATF-Cの解析
グリシン抱合酵素ファミリーの中で、アシル化合物の投与により誘導的に発現するGATF-Cについて解析し、強制的に発現させたGATF-Cにより、投与化合物に対する耐性が上昇することを確認した。
神経変性と神経発生の分子機構 (曽根)
1 ショウジョウバエモデルを用いた神経変性疾患関連遺伝子の研究
アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、ポリグルタミン病などの関連遺伝子の変異を導入したモデルショウジョウバエの表現型観察から、神経変性を引き起こす分子機構を明らかにし、神経変性疾患の治療法開発に結びつく生物学的治験を得ることを目的とした研究を行った。
2 神経発生、神経回路形成の分子機構
行動に異常を示すショウジョウバエ変異体原因遺伝子の解析から、脳が高度な機能を発揮するために必要な発生期の分子機構を明らかにすることを目指した。特に、細胞内小胞輸送の調節機構と脳機能との関連に着目して分子生物学的研究を行った。
■ Keywords
炎症, 転写因子, 大腸菌, 適応, 進化, 増殖, バクテリオファージ, 非密封放射性同位元素, ショウジョウバエ, 神経変性疾患
■ 特許
1.  曽根雅紀, 鍋島陽一 :アルツハイマー病発症機構に関わる遺伝子  ―4694189  (2011/02/18登録)
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成22年度科学研究費補助金 基盤研究C  (研究課題番号:22500822)
 研究課題:非密封放射性同位元素を用いた高等学校・中学校生徒実験の教材化  (研究分担者:藤崎真吾)
 研究補助金:1400000円  (分担)
2.  科学研究費補助金 基盤研究 (C)
 研究課題:耐熱進化時に発現する新規クオラムセンシング機構の解析  (研究代表者:岸本利彦)
 研究補助金:1200000円  (代表)
3.  科学研究費補助金 基盤研究 (B)
 研究課題:耐熱化過程におけるゲノムネットワークの解析  (研究分担者:岸本利彦)
 研究補助金:1700000円  (分担)
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















渡辺 直子   教授
理学博士
              1
 1
 
 
 
 
岸本 利彦   准教授
理学博士
   1           1
 13
 
 
 1
 
藤崎 真吾   准教授
理学博士
              1
 1
 
 
 
 
曽根 雅紀   講師
理学博士
    3          1
 1
 
 
 1
(1)
 2
 0 1  0 0  0  4
(0)
 0
(0)
 2
(1)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














渡辺 直子   教授
理学博士
         1
 
 
岸本 利彦   准教授
理学博士
  1       1
 
 1
藤崎 真吾   准教授
理学博士
         1
 
 
曽根 雅紀   講師
理学博士
         1
 
 1
(1)
 0 1  0 0  0  4
(0)
 0
(0)
 2
(1)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. T. Kishimoto, L. Iijima, M. Tatsumi, N. Ono, A. Oyake, T. Hashimoto, M. Matsuo, M. Okubo, S. Suzuki, K. Mori, A. Kashiwagi, C. Furusawa, Bei-Wen Ying, T. Yomo:  Transition from positive to neutral in mutation fixation along with continuing rising fitness in thermal adaptive evolution.  PLoS Genetics,  6 (10) :e1001164 , 2010
2. Hiroki Shiwaku, Natsue Yoshimura, Takuya Tamura, Masaki Sone, Soichi Ogishima, Kei Watase, Kazuhiko Tagawa, Hitoshi Okazawa:  Suppression of the novel ER protein Maxer by mutant ataxin-1 in Bergman glia
contributes to non-cell-autonomous toxicity.  The EMBO journal  29 :2446-2460 , 2010
3. Enokido Y, Tamura T, Ito H, Arumughan A, Komuro A, Shiwaku H, Sone M, Foulle R, Sawada H, Ishiguro H, Ono T, Murata M, Kanazawa I, Tomilin N, Tagawa K, Wanker EE, Okazawa H.:  Mutant huntingtin impairs Ku70-mediated DNA repair.  The Journal of cell biology  189 :425-443 , 2010
4. Takuya Tamura, Daisuke Horiuchi, Yi-Chung Chen, Masaki Sone, Tomoyuki Miyashita, Minoru Saitoe, Natsue Yoshimura, Ann-Shyn Chiang, Hitoshi Okazawa:  Drosophila PQBP1 regulates learning acquisition at projection neurons in aversive olfactory conditioning.  The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience  30 :14091-14101 , 2010
■ 学会発表
国内学会
1. ◎大野浩平,岸本利彦,四方哲也,渡邊総一郎: 大腸菌高温適応過程で機能する相互作用分子の探索.  日本化学会第91春季年会,  日本化学会第91春季年会(2011)講演予稿集,  2011/03
2. ◎鈴木文仁,渡邊総一郎,岸本利彦: rat GATF-Cの基質候補物質の合成と酵素活性解析による機能解析.  日本化学会第91春季年会,  日本化学会第91春季年会(2011)講演予稿集,  2011/03
3. Bei-Wen Ying,北原和樹,飯島玲王,小野直亮,鈴木真吾,古澤力,岸本利彦,四方哲也: Genome-wide mutation and transcriptional reorganization in the thermal adaptive Escherichia coli from laboratory evolution.  BMB2010,  神戸,  2010/12
4. ◎岸本 利彦,島田 彩子,小宅 綾菜,橋本 智美,四方 哲也: Construction of high temperature genetic engineering system for thermo-tolerant E. coli.  BMB2010,  神戸,  2010/12
5. ◎松尾 萌,下平 哲大,功力 慶子,猪又 史子,岸本 利彦: Katanin p60 function in cytokinesis.  BMB2010,  神戸,  2010/12
6. 飯島玲生,小宅綾菜,橋本智美,金子冬郎,鈴木真吾,岸本利彦,應蓓文,四方哲也: 複数系列の大腸菌の高温適応進化過程におけるゲノム変異解析.  BMB2010,  神戸,  2010/12
7. 北原和樹,岸本利彦,小野直亮,古澤力,鈴木真吾,イン ベイウェン,四方哲也: 高温適応進化における大腸菌の発現パターンの再編.  BMB2010,  神戸,  2010/12
8. ◎佐々木 亨規, 依光 武志, 坂本 豊仁, 庄 遼太郎, 渡辺直子, 中越 英樹: ショウジョウバエ翅形成における Dve と Scalloped の協調的制御.  第 33 回日本分子生物学会年会・第 83 回日本生化学会大合同大会,  神戸,  2010/12
9. 橋本 亜実, 岡部 結希, 尾崎 美奈, ◎渡辺直子: 皮膚炎症反応におけるクエルセチンの影響.  第 33 回日本分子生物学会年会・第 83 回日本生化学会大合同大会,  神戸,  2010/12
10. 應蓓文、北原和樹、飯島玲生、小野直亮、鈴木真吾、古澤力、岸本利彦、四方哲也: 大腸菌の耐熱進化における細胞内状態の最適化―細胞内DNA、RNA、タンパク質の適応変化.  「細胞を創る」研究会 3.0,  東京,  2010/11
11. ◎鈴木惠介, 谷恵栄子, 飯島葵, 冨山美智子, 吾郷友亮, 藤崎真吾: 大腸菌BacAタンパク質およびYnbDタンパク質の酵素活性.  第20回ドリコールおよびイソプレノイド研究会例会,  名古屋,  2010/10
12. ◎田村 拓也,堀内 大輔, Yi-Chung Chen, 曽根 雅紀, 宮下 知之, 齊藤 実, 吉村 奈津恵, Ann-Shyn Chiang, 岡澤 均: dPQBP1 is involved in a memory trace at projection neurons.  第33回日本神経科学大会・第53回日本神経化学会大会・第20回日本神経回路学会大会合同大会,  神戸,  2010/09
13. ◎橋本 智美、小宅 綾菜、岸本 利彦、四方 哲也: 大腸菌高温適応時にみられる細胞挙動の解析.  第12回日本進化学会大会,  東京,  2010/08
14. ◎小宅綾菜、岸本利彦、四方哲也: 大腸菌の耐熱進化時に見られる相互作用の解析.  第12回日本進化学会大会,  東京,  2010/08
15. 北原和樹、岸本利彦、小野直亮、古澤力、鈴木真吾、應蓓文、四方哲也: 高温適応進化における大腸菌の発現プロフィールのスナップショット.  第12回日本進化学会大会,  東京,  2010/08
16. 應 蓓文, 北原和樹, 飯島玲生, 小野直亮, 古澤 力, 鈴木真吾, 岸本利彦, 四方哲也: 長期実験室内進化からみた大腸菌の変異と発現の変遷.  第12回日本進化学会大会,  東京,  2010/08
17. ◎曽根雅紀, 岡澤均: 細胞内蛋白質輸送と神経変性:ショウジョウバエモデルを用いた解析.  2010年度包括脳ネットワーク夏のワークショップ,  札幌,  2010/07
18. ◎塩飽裕紀, 田村拓也, 曽根雅紀, 渡瀬啓, 岡澤均: 脊髄小脳変性症1型原因遺伝子Ataxin-1のnon-cell autonomous毒性はMAXERを介する.  2010年度包括脳ネットワーク夏のワークショップ,  札幌,  2010/07
19. ◎田村拓也、堀内大輔、曽根雅紀、齋藤実、宮下知之、岡澤均: PQBP1関連精神遅滞モデルショウジョウバエにおける学習障害.  2010年度包括脳ネットワーク夏のワークショップ,  札幌,  2010/07
20. ◎藤崎真吾, 長谷川友美, 辻平裕子, 長谷川正人, 金成博子, 林秀美, 岸本利彦: 高カルシウム濃度におけるバイオフィルム形成に関与する外膜タンパク質.  第9回微生物研究会,  小金井,  2010/06
21. ◎曽根雅紀, 鍋島陽一, 岡澤均: ショウジョウバエAPPの細胞内輸送を制御する新しい分子yataの同定と解析.  第51回日本神経学会学術大会,  東京,  2010/05
その他
1. 飯島玲生、小宅綾菜、橋本智美、金子冬朗、鈴木真吾、岸本利彦、應蓓文、四方哲也: 複数系列の大腸菌の高温適応進化過程におけるゲノム変異解析.  第12回日本進化学会大会,  東京,  2010/08
  :Corresponding Author
  :本学研究者