薬学部 微生物学教室
Department of Microbiology
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■ 概要
Streptomyces lividans TK24のTrkAカリウム移送系について
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Streptomyces lividans TK24の染色体DNAに存在する大腸菌のK移送系trkAに類似した配列が、K移送に関わる遺伝子であることを遺伝子破壊、破壊株の相補により明らかにした。大腸菌のTrkAと比較してS. lividans には分子量が約1/2のTrkA1およびTrkA2タンパク質をコードする遺伝子trkA1,trkA2が存在した。これらのタンパク質がどのように機能するかを明らかにするために、trkA変異株Escherichia coli ME5443を用いて検討を行った。trkA1,trkA2およびtrkA1とtrkA2を大腸菌発現ベクターpET28aにクローニングし、ME5443に導入した。K濃度の異なる最少培地でそれぞれの導入株の増殖を比較したところ、trkA1とtrkA2を導入した株が最も増殖がよく、次いでtrkA2導入株で、trkA1導入株では増殖が認められなかった。この結果から、グラム陽性細菌であるS. lividans のtrkAがグラム陰性細菌であるE. coliのtrkA変異を相補すること、また、E. coliのTrkAと同等の機能を発揮するためにはTrkA1とTrkA2が共存することが必要であることを明らかにした。
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グラム陰性細菌のquorum sensing阻害物質生産菌のスクリーニング
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放線菌と呼ばれる土壌細菌には、抗生物質、免疫抑制剤、抗がん剤をはじめとする様々な構造の、様々な生理活性を持つ二次代謝産物を生産する菌株が多数含まれる。近年、新規骨格をもつ放線菌由来の生理活性物質の報告が極度に減少している。新たな有用生理活性物質生産菌の分離を目的として、腸球菌のバイオフィルム形成阻害並びに緑膿菌のピオシアニン産生阻害を指標にしたスクリーニングを行い、モンゴル土壌より分離されたバイオフィルム形成を阻害する12-102A、緑膿菌、VRE両者に抗菌性を示すG-28、VREにのみ抗菌性を示す5-1株を分離した。
Chromobacterium violaceum CV026を用いた、より簡便なquorum sensing 阻害活性のスクリーニング法を導入し、グラム陰性細菌のquorum sensing阻害物質生産菌のスクリーニングを行った。現在までに、福島のマツタケ生息土壌より分離されたStreptomyces sp. TOHO-1003より quorum sensing阻害物質SW-6を単離し、その構造を決定した。多くのquorum sensing阻害物質生産菌を見出したので、おのおのの菌株が生産する活性物質について構造を決定していく。
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雨水貯留槽中のミクロフローラとバイオフィルム
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世界の人口が急速に増加し、特に、アフリカやアジア諸国での人口の急増により、まもなく70億に達することが予測され、これらの地域では水の需要が増大することは必須であり、水不足の解消は全世界的な問題となっている。その一助として雨水を貯留し有効利用することが検討されている。公衆衛生上の観点から、雨水貯留槽中にはどのようなミクロフローラが形成されているのか、貯留槽に形成されるバイオフィルムと貯留水中の細菌の関連を明らかにするために検討を開始した。都内の雨水貯留槽から貯留水、壁に形成されたバイオフィルムをサンプリングし、浮遊細菌数、バイオフィルム中の生菌数、DGGE法を用いた16SrDNA配列の決定によりミクロフローラの解析を行った。また、実験室でバイオフィルム形成量と浮遊細菌数の関連を測定した結果、バイオフィルム量の増加とともに浮遊細菌数が減少する傾向が認められた。雨水貯留槽にバイオフィルムが形成されることにより浮遊細菌数を減少させることが可能と考えられる。また、分離株のバイオフィルム形成能を測定し、高い形成能を持つ菌株Beijerinckiaceae bacteriumを分離した。このような活性を持つ細菌を人為的に添加することにより、雨水中の浮遊細菌数を減少させることを検討中である。
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放線菌の遺伝子操作による新規物質創製
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16員環マクロライド抗生物質mycinamicinの全生合成遺伝子のクローニング、塩基配列の決定を終え、生産菌であるMicromonospora griseorubidaのmycinamicin生合成遺伝子遺伝子破壊株の作成、破壊株の代謝産物のスクリーニングを行っている。mycCI, mycG, mycE, mycFにコードされている酵素はラクトン環形成後の修飾に関わり、MycCIはmycinamicin VIIIのC21 methyl hydroxylaseであること、MycGはmycinamicin IVの水酸化、エポキシ化を触媒すること、MycE, MycFはO-methyltransferaseである。M. griseorubidaからmycCI, mycGの欠失変異株を作製し、代謝産物の解析ならびに相補試験の結果からin vivoでもこれらの遺伝子産物がP450酵素を確認した。更に、mycE+mycG, mycF+mycG二重破壊株を作成し、mycE, mycF破壊株が生産するmycinamycin誘導体がMycGにより触媒された物質であることを明らかにした。
MycinamicinはC-5にdesosamine、さらにC-21に中性糖 mycinoseが付加した構造をもつ16員環マクロライド抗生物質であるが、Micromonospora sp. FERM BP-1076の生産する16員環マクロライド抗生物質izenamicinは、C-5にアミノ糖desosamineが付加した構造を持つ。そこでM. griseorubidaのmycinose生合成遺伝子をMicromonospora sp. FERM BP-1076に導入することにより新規誘導体の作成が可能と考え、E. coli - ActinomycetesシャトルベクターpSET152にmycinose生合成遺伝子(mycCI、CII、D、E、F、mydH、I)を組み込んだpSETmycinoseを導入した接合株を作成した。接合株は、新たなマクロライド抗生物質mycinosyl-izenamicinを生産し、特に、izenamicinのラクトン環を構成する低級脂肪酸の1つであるプロピオン酸を培養液に添加することで、高い抗菌活性をもつmycinosyl-izenamicin B2 (TMC-016)を生産することを明らかにした。
16員環マクロライド抗生物質rosamicin を生産するMicromonospora rosariaにpSETmycinoseを導入した接合株は種々のmycinosyl-rosamicinを生産する。これら物質の生産にはrosamicin生合成に関与する2種類のP450酵素RosC, RosDが利用されていると推定した。そこで、rosamicin生合成遺伝子クラスターのクローニング、塩基配列の決定を行い、rosC, rosDを含む約10kbの塩基配列を決定した。更に、rosC, rosD遺伝子の欠失変異株を作製し、代謝産物の解析ならびに相補試験の結果から、RosCはrosamicinのC20のホルミル基の形成、RosDはC12-13のエポキシ基の形成を触媒することを明らかにした。
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■ Keywords
放線菌, マクロライド, Micromonospora, カリウム移送系, バイオフィルム, quorum sensing
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■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.
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加藤 文男
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:日本薬学会関東支部 幹事 千葉県製薬協会 理事
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■ 当該年度の主催学会・研究会
1.
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2010年度 日本放線菌学会大会
(大会長
:
加藤文男 )
,東京
2010/09
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■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.
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加藤 文男
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:日本放線菌学会 副会長
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2.
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安齊洋次郎
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:日本放線菌学会 学術企画委員
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■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 |
刊行論文 |
著書 |
その他 |
学会発表 |
その他 発表 |
和文 | 英文 |
和文 | 英文 |
国内 | 国際 |
筆 頭 | 共 著 | 筆 頭 | 共 著 |
筆 頭 | 共 著 | 筆 頭 | 共 著 |
筆 頭 | 共 著 |
演 者 | 共 演 | 演 者 | 共 演 |
演 者 | 共 演 |
加藤 文男
教授
薬学博士
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| | | 2 |
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8
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安齊 洋次郎
講師
博士(農学)
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| | 1 | 1 |
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3
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5
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入江 庸公
助教
薬学士
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計 |
0 | / | 1 | / |
0 | / | 0 | / |
0 | / |
3 (0) | / |
0 (0) | / |
0 (0) | / |
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研究者名 |
刊行論文 |
著書 |
その他 |
学会発表 |
その他 発表 |
和 文 | 英 文 |
和 文 | 英 文 |
国 内 | 国 際 |
筆 頭 | 筆 頭
| 筆 頭 | 筆 頭
| 筆 頭 |
演 者 | 演 者
| 演 者 |
加藤 文男
教授
薬学博士
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安齊 洋次郎
講師
博士(農学)
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| 1 |
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3
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入江 庸公
助教
薬学士
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計 |
0 | 1 |
0 | 0 |
0 |
3 (0) |
0 (0) |
0 (0) |
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( ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
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( ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
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■ 刊行論文
原著
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1.
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Kuwahara C*, Fukumoto A†, Nishina M, Sugiyama H, Anzai Y†, Kato, F†:
Characteristics of cesium accumulation in the filamentous soil bacterium Streptomyces sp. K202.
Journal of environmental radioactivity
102
:138-144
, 2011
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2.
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Anzai Y†*, Sakai A, Li W†, Iizaka Y, Koike K†, Kinoshita K, Kato F†:
Isolation and characterization of 23-O-mycinosyl-20-dihydro-rosamicin—a new rosamicin analogue derived from engineered Micromonospora rosaria.
The Journal of antibiotics
63
:325-328
, 2010
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■ 学会発表
国内学会
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1.
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◎安齊洋次郎†, 古川実佳, 三森暁, 酒井彩美, 木下健司, 加藤文男†:
mycinose生合成遺伝子導入放線菌Micromonospora sp. TPMA0041によるmycinose付加マクロライド抗生物質の生産.
日本薬学会 第131年会,
静岡,
2011/03
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2.
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◎匡薪竹,本村加織,李巍†,大岡和広,小池一男†,安齊洋次郎†,加藤文男†:
Streptomyces sp. 由来のクオラムセシング抑制活性物質について.
日本薬学会 第131年会,
静岡,
2011/03
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3.
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◎東徳子,飯坂洋平,石田雅也,大岩礼奈,諏訪大介,李巍†,木下健司,安齊洋次郎†,加藤文男†:
Micromonospora rosaria IFO13697 のCytochrome P450酵素RosC の機能解析.
日本薬学会 第131年会,
静岡,
2011/03
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4.
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諏訪友里加,◎桑原千雅子,鈴木晶子,盛川敬介,椎野佑麻,金子憲太郎,前田千佳,安齊洋次郎†,杉山英男,加藤文男†:
Streptomyces lividans TK24 のK+輸送系Trk の機能解析.
日本薬学会 第131年会,
静岡,
2011/03
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5.
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◎安齊洋次郎†, 原田千恵, 増田怜平, 木下健司, 加藤文男†:
Mycinamicin生合成に関与するcytochrome P450遺伝子 mycCI, mycGの遺伝学的解析.
第25回 日本放線菌学会大会,
東京,
2010/09
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6.
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◎諏訪友里加, 桑原千雅子, 鈴木晶子, 盛川敬介, 椎野佑麻, 金子憲太郎, 前田千佳, 安齊洋次郎†, 加藤文男†:
Streptomyces lividans TK24のK+輸送系Trkに関する研究.
第25回 日本放線菌学会大会,
東京,
2010/09
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7.
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◎東徳子, 飯坂洋平, 井手本直樹, 石田雅也, 大岩礼奈, 諏訪大介, 安齊洋次郎†, 加藤文男†:
Micromonospora rosaria IFO13697のrosamicin生合成遺伝子の解析.
第25回 日本放線菌学会大会,
東京,
2010/09
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8.
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酒井彩美, ◎安齊洋次郎†, 古川実佳, 三森暁, 木下健司, 加藤文男†:
マクロライド抗生物質生産放線菌へのmycinose生合成遺伝子の導入.
第25回 日本放線菌学会大会,
東京,
2010/09
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