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 薬学部 微生物学教室
 Department of Microbiology

教授:
  加藤 文男
講師:
  安齊 洋次郎
■ 概要
土壌細菌のセシウム蓄積機構の解明
チェルノブイリ原発事故以降、東ヨーロッパを中心とした放射性セシウムによる環境汚染が報告された。特に野生キノコに高濃度の137Csが蓄積され、汚染キノコの摂取による内部被爆が大きな問題となった。国立保健医療科学院生活環境部との共同研究でキノコのセシウム高度蓄積性と土壌中のCsリザーバーとしての土壌細菌の役割について検討を行っている。土壌細菌の中でも放線菌が乾燥菌体重量あたりのCs蓄積量が多いことを明らかにし、土壌放線菌におけるCs取り込み機構の検討を行った。大腸菌で明らかにされているカリウム移送系と類似のタンパク質をコードする配列を用いて変異株を作成し、K蓄積、Cs蓄積を調べた。Streptomyces lividansのKdp破壊株では、通常の培養ではK,Cs蓄積量に明らかな相違は認められなかった。Kを制限した最少培地での培養では、破壊株のK蓄積量は約8時間の間野生株に比べて低く、24時間の培養後には相違が見られなかった。また、Kdp変異株への完全長kdpオペロンの導入により、野生株と同等のK蓄積量を示した。また、Cs蓄積量には野生株、Kdp破壊株、相補株の間で相違が認められなかった。この結果から、S. lividansのKdp移送系は外部環境のK濃度の低下により誘導発現するK移送系であること、Csの取込への関与が殆ど無いことが明らかとなった。ゲノム配列を基に1価陽イオン輸送系に関わる蛋白質をコードするすると推定されるtrkA類似配列、KdpA類似配列の破壊によりK蓄積量に変化が認められることから、これらの配列は、大腸菌で明らかにされているtrkAkdpAと類似の機能を持つK移送系をコードする遺伝子であることを確認した。
更に、S. lividans よりtrkA1trkA2遺伝子を分離し、大腸菌発現ベクタ-pET28にクローン化し、E. coli MEを含むDNA断片をしかしながら、Streptomycesに代表される土壌放線菌のCs高蓄積性に関与する移送系は見いだすことが出来ていない。
放線菌の遺伝子操作による新規活性物質の創製
16員環マクロライド抗生物質mycinamicinの全生合成遺伝子のクローニング、塩基配列の決定を終え、生産菌であるMicromonospora griseorubidaのmycinamicin生合成遺伝子遺伝子破壊株の作成、破壊株の代謝産物のスクリーニングを行っている。ラクトン環形成後の修飾に関わる酵素をコードするmycC1, mycGmycE, mycFのクローニング、および大腸菌で発現させたタンパク質について検討を行い、MycC1はmycinamicin VIIIのC21 methyl hydroxylaseであること、MycGはmycinamicin IVの水酸化、エポキシ化を触媒すること、MycE, MycFはO-mrthyltransferaseであることを明らかにした。更に、M. griseorubidaからmycE, mycFの欠失変異株を作製し、代謝産物の解析ならびに相補試験の結果からin vivoでもこれらの遺伝子産物がP450酵素あるいはO-methyltransferaseとして機能していることを確認した。また、破壊株の代謝産物中には新規物質と推定されるmycinamycin誘導体も蓄積された。
 MycinamicinはC-5にdesosamine、さらにC-21に中性糖 mycinoseが付加した構造をもつ16員環マクロライド抗生物質であるが、Micromonospora rosariaの生産する16員環マクロライド抗生物質rosamicinは、C-5にアミノ糖desosamineが付加した構造を持つ。そこでM. griseorubidaのmycinose生合成遺伝子をM. rosariaに導入することにより新規誘導体の作成が可能と考え、E. coli - ActinomycetesシャトルベクターpSET152にmycinose生合成遺伝子(mycCⅠ、CⅡ、D、E、F、mydH、I)を組み込み接合株を作成した。その代謝産物より3種の新規マクロライド抗生物質IZI, IZII, IZIIIを単離し、IZIは23-O-mycinosyl-20-deoxo-20-dihydro-12,13-deepoxyrosamicin,IZIIは23-O-mycinosyl-20-dihydro-12,13-deepoxyrosamicin、IZIIIは23-O-mycinosyl-20-dihydro-rosamicinであることを明らかにした。また、M. rosariaのマクロライド生合成に関与するP450遺伝子のクローニングと大腸菌での発現を行った。
放線菌を中心とした土壌微生物の有効利用
放線菌と呼ばれる土壌細菌には、抗生物質、免疫抑制剤、抗がん剤をはじめとする様々な構造の、様々な生理活性を持つ二次代謝産物を生産する菌株が多数含まれる。近年、新規骨格をもつ放線菌由来の生理活性物質の報告が極度に減少している。新たな有用生理活性物質生産菌を分離するため、モンゴル国立大学生物学部微生物学教室と共同研究を行い、モンゴルのアルカリ性土壌より分離された放線菌のスクリーニングを行った。分離株を液体培地または寒天培地で培養し、多剤耐性バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、緑膿菌に対する抗菌性、VREのバイオフィルム形成阻害、緑膿菌のピオシアニン産生を指標としたquorum sensing 阻害活性について検討した。調べた796株中VREに対する抗菌性を示す株は118株、緑膿菌には52株であった。更に、VREのバイオフィルム形成阻害活性は391株中24株にれ、ピオシアニン産生阻害活性は391株中20株に認められた。これらの株の中からバイオフィルム形成を阻害する12-102A、緑膿菌、VRE両者に抗菌性を示すG-28、VREにのみ抗菌性を示す5-1株について活性物質の単離精製を行っている。
 環境微生物を有効に利用した家畜糞尿の浄化システムを取り入れた畜産農家との共同研究を行い、浄化システムにおける細菌叢の変動、処理液を利用して作成した堆肥を施肥した土壌の細菌叢について検討を行った。家畜排泄物へ3段階の曝気処理により、処理液の脱臭、pH上昇などの変化がみられ、処理液中の細菌叢の変化をDGGE法により解析した。Bacillus属、Pseudomonas属などの細菌がpH上昇に関与し、曝気処理の過程でProvidencia属の細菌が優位に増加することを明らかにした。更に、家畜排泄物の曝気処理液を用いて作成した堆肥には放線菌を含む一部の土壌細菌に対して増殖促進効果が示されることを確認した。このような一部の土壌細菌に対する増殖促進効果が土壌の浄化・肥沃化に関与していると考えられる。
■ Keywords
放線菌, マクロライド, Micromonospora, mycinamicin, K チャネル, セシウム
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  大学院教育研究高度化支援メニュー 研究科特別経費
 研究課題:環境変化に対する細胞応答にかかわる細胞内分子の機能の解析  (研究代表者:加藤 文男、井手 速雄、 井上 義雄)
 研究補助金:11000000円  (代表)
その他
1.  東邦大学薬学部奨励研究
 研究課題:希少放線菌Micromonospora属菌株の系統的遺伝子操作法の確立とその応用  (研究代表者:安齊洋次郎)
 研究補助金:500000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  加藤 文男 :日本薬学会関東支部 幹事 千葉県製薬協会 理事
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  安齊洋次郎 :日本放線菌学会 学術企画委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















加藤 文男   教授
薬学博士
    3          
 8
 
 
 
 
安齊 洋次郎   講師
博士(農学)
   1 3          2
 5
 
 
 
 
入江 庸公   助教
薬学士
              
 
 
 
 
 
 0 1  0 0  0  2
(0)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














加藤 文男   教授
薬学博士
         
 
 
安齊 洋次郎   講師
博士(農学)
  1       2
 
 
入江 庸公   助教
薬学士
         
 
 
 0 1  0 0  0  2
(0)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Yanaka A, Fahey JW, Fukumoto A, Nakayama M, Inoue S, Zhang S, Tauchi M, Suzuki H, Hyodo I, Yamamoto M.:  Dietary sulforaphane-rich broccoli sprouts reduce colonization and attenuate gastritis in Helicobacter pylori-infected mice and humans.  Cancer Prevention Research  2 (4) :353-360 , 2009
2. Li S, Anzai Y, Kinoshita K, Kato F, Sherman DH:  Functional analysis of MycE and MycF, two O-methyltransferases involved in the biosynthesis of mycinamicin macrolide antibiotics.  Chembiochem : a European journal of chemical biology  10 :1297-1301 , 2009
3. Carlson JC, Fortman JL, Anzai Y, Li S, Burr DA, Sherman DH:  Identification of the Tirandamycin Biosynthetic Gene Cluster from Streptomyces sp. 307-9.  Chembiochem : a European journal of chemical biology  11 :564-572 , 2010
4. Tsukada S, Anzai Y, Li S, Kinoshita K, Sherman DH, Kato F:  Gene targeting for O-methyltransferase genes, mycE and mycF, on the chromosome of Micromonospora griseorubida producing mycinamicin with disruption cassette containing bacteriophage øC31 attB attachment site.  FEMS microbiology letters  304 :148-156 , 2010
5. Anzai Y, Iizaka Y, Li W, Idemoto N, Tsukada S, Koike K, Kinoshita K, Kato F:  Production of rosamicin derivatives in Micromonospora rosaria by introduction of D-mycinose biosynthetic gene with phiC31-derived integration vector pSET152.  Journal of industrial microbiology & biotechnology  36 :1013-1021 , 2009
■ 学会発表
国内学会
1. ◎桑原千雅子, 山崎翠, 諏訪友里加, 前田千佳, 杉山英男, 加藤文男: Streptomyces lividans TK24の K+輸送系に関わるtrkA、kdpA破壊株の増殖とK取込に及ぼす外部環境の影響.  日本薬学会第130年会,  岡山,  2010/03
2. ◎安齊洋次郎, 木下健司, 加藤文男: Mycinamicin生合成に関与するcytochrome P450遺伝子 mycCI, mycGの遺伝学的解析.  日本薬学会 第130年会,  岡山,  2010/03
3. ◎酒井彩美, 安齊洋次郎, 木下健司, 加藤文男: マクロライド抗生物質生産放線菌へのmycinose生合成遺伝子の導入.  日本薬学会 第130年会,  岡山,  2010/03
4. ◎安齊洋次郎, 井手本直樹, 加藤文男: Rosamicin生産菌Micromonospora rosaria IFO13697のΦC31 attB siteの同定.  第24回 日本放線菌学会大会,  秋田,  2009/07
5. ◎酒井彩美, 安齊洋次郎, 飯坂洋平, 李巍, 木下健司, 加藤文男Micromonospora rosariaへのmycinamicin生合成遺伝子の導入によるrosamicin誘導体の単離および構造解析.  第24回 日本放線菌学会大会,  秋田,  2009/07
6. ◎塚田秀一, 安齊洋次郎, 木下健司, 加藤文男: Mycinamicin生産菌Micromonospora griseorubidaのO-methyltransferase遺伝子mycE, mycF欠損変異株について.  第24回 日本放線菌学会大会,  秋田,  2009/07
7. ◎塚田秀一, 安齊洋次郎, 木下健司, 加藤文男: Mycinamicin生合成遺伝子mycE, mycF の遺伝学的機能解析.  日本薬学会 第130年会,  岡山,  2010/03
8. 井手本直樹, ◎東徳子, 石津早織, 酒井紀美, 安齊洋次郎, 加藤文男Micromonospora rosaria IFO13697のP450タンパク遺伝子rosCのクローニング.  日本薬学会 第130年会,  岡山,  2010/03
  :Corresponding Author
  :本学研究者