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 薬学部 生化学教室
 Department of Biochemistry

教授:
  髙橋 良哉
准教授:
  石神 昭人
■ 概要
老化および老化関連疾患の発症メカニズムとその制御
本教室では「老化および老化関連疾患の発症メカニズムとその制御」を主テーマとし、「若齢期における内外の環境因子が加齢変化に及ぼす影響」および「老齢期における食餌制限などの有益作用」について主にタンパク質に焦点を絞り分子傷害を指標に研究を行っている。また、「アルツハイマー病診断マーカーとしてのシトルリン化タンパク質の有用性」について研究を進めている。
1.「老化促進モデルマウスSAMP8の遺伝子多型と促進老化」に関する研究
老化促進モデルマウス(SAM) P8 系の遺伝子発現の加齢変化解析から促進現象が離乳期以降にはじまることを見出した。促進老化が離乳期前後に発現する遺伝子の異常による可能性が考えられたことより、離乳前後動物のプロテオーム解析を行った。その結果、SAMP8系マウスにアグマチナーゼとアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(mAST, GOT2)に1アミノ酸置換を伴う遺伝子多型が存在し、それぞれの変異はリガンドや活性部位の近傍に存在することが明らかになった。アグマチナーゼはアルギニンの脱炭酸化物であるアグマチンをプトレシンと尿素に分解する酵素である。アグマチンはポリアミン生合成中間体であり、神経伝達物質としても機能していると考えられている。SAMP8とSAMR1のアグマチナーゼのmRNA発現量の組織特異性と肝臓のタンパク質発現量の加齢変化を調べたところ、次のような事が明らかになった。アグマチナーゼmRNA発現量はSAMP8とSAMR1両系統ともに肝臓で最も高く、脳、小腸、腎臓、精巣にも発現が認められた。肺ではほとんど発現していなかった。一方、肝臓におけるアグマチナーゼのタンパク質発現量は、両系統共に加齢に伴い低下したが、その発現量はSAMR1と比べSAMP8でどの月齢でも相対的に高い傾向にあった。アミノ酸置換によりアグマチナーゼの細胞内安定性が変化している可能性がある。今後は変異アグマチナーゼのタンパク質分解に対する感受性や分子活性について調べる予定である。
2.「老化促進モデルマウスSAMP8に対する高脂肪食の影響」に関する研究
加齢に伴う肥満等の生活習慣病が社会問題となっている。本研究では、食事に起因する老化関連疾患研究における老化促進モデルマウス(SAM)の有用性について明らかにするために、高脂肪食がSAMP8系の成長や脂肪蓄積に与える影響を調べた。高脂肪食による体重増加に系統差が認められ、SAMP8が最も高い増加を示した。血糖値については、SAMP8で高脂肪食摂食による著しい上昇が認められたが、KKAyと異なり血清インスリン量の変化はわずかであった。また、脂肪蓄積量に関しては、SAMP8は皮下脂肪が、SAMR1は内臓脂肪が多く蓄積する傾向が認められた。肝重量の増加および肝脂肪の蓄積に関しては、KKAyの他にSAMP8でも認められた。特にSAMP8の高脂肪食に対する感受性は、KKAyを除く他の系統と比べて高いことがわかった。以上の結果より、系統間には消化吸収および代謝に差があると考えられる。現在、系統間での肝臓における糖脂質代謝の変化を捉えるため、さらなる検討を加えている。
3.「老化促進モデルマウスSAMP8系マウス組織における鉄蓄積」に関する研究
SAMP8の脳には加齢に伴いアミロイド前駆体タンパク質(APP)が増加することが知られている。一方、鉄はさまざまな動物種の多くの組織に蓄積する。APP の5’UTR配列とフェリチン(FT)の鉄応答配列(IRE)には高い相同性がある。本研究では加齢に伴う脳における鉄蓄積とAPP蓄積との関係を明らかにする研究の一環として、SAMP8の脳におけるFT、非ヘム(non-heme)鉄、APPの量および組織分布について調べた。SAMP8およびSAMR1の脳のFT(H鎖、L鎖)およびnon-heme 鉄の量は、いずれも加齢に伴い増加傾向にあった。脳APP量は、両系統ともに加齢でほとんど変化していなかった。SAM脳におけるAPP、FT(H鎖、L鎖)およびnon-heme鉄の組織分布を調べたところ、FT-L鎖、non-heme鉄およびAPPの組織分布が似ている箇所があったが、必ずしも一致しなかった。今後、さらに詳細に検討する予定である。
4.「老齢期における食餌制限などの有益作用」に関する研究
若齢期からの食餌制限は、寿命を延長し加齢に伴う様々な疾患の発症を抑制または遅延することが知られている。しかし、中高齢期からの食餌制限の有効性に関する研究は少ない。これまでに私達は中高齢期からの食餌制限は老齢ラット・マウスの組織に蓄積した熱不安定異常酵素蓄積量やミトコンドリアのカルボニル化酸化修飾タンパク質量を低下させること明らかにした。また、異常タンパク質分解酵素であるプロテアソーム活性が食餌制限により若齢レベルまで回復することを見出した。さらに、老齢動物のタンパク尿症が食餌制限で改善することも見出した。しかし、中高齢期からの食餌制限は加齢に伴う筋肉量低下(サルコペニア)をさらに加速する可能性がある。そこで私達は高齢期からの食餌制限がラット後肢筋の重量や線維タイプに与える影響について調べた。自由摂食群のヒラメ筋および腓腹筋の重量は28月齢から31月齢の3ヶ月間で有意に減少していたが、食餌制限による影響は認められなかった。ヒラメ筋と腓腹筋のType II線維の数や総面積は若齢と比べ老齢で低下していたが、食餌制限の大きな影響は認められなかった。Type II線維のサブタイプはヒラメ筋および腓腹筋で加齢変化を示したが、その加齢変化に対して食餌制限はほとんど影響を与えていなかった。このように高齢期からの食餌制限は調べた範囲ではラットの骨格筋の加齢変化に対して大きな影響を与えないことが明らかになった。
5.「アルツハイマー病の治療薬および診断薬の開発」に関する研究
異常タンパク質の蓄積は、アルツハイマー病をはじめ多くの神経変性疾患(神経難病)で観察される。これまでにアルツハイマー病の脳でタンパク質の塩基性のアルギニン残基が中性のシトルリン残基に変換された異常なタンパク質(シトルリン化タンパク質と総称)が多く出現することを見出した。シトルリン化タンパク質を高感度に検出するELISAシステム(酵素免疫測定法)を開発するために抗シトルリン化タンパク質抗体の作成を行った。今後、得られた抗体がアルツハイマー病の早期診断を行う臨床検査試薬になるか検討している。
■ Keywords
老化, 食事制限, 脂質代謝, 高脂肪食, 老化促進モデルマウス, 一塩基多型, ビタミンC,アルツハイマー病, 臨床検査
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  私立大学学術研究高度化推進事業オープンリサーチセンター整備事業
 研究課題:細胞機能制御システムの破綻による老化関連疾患発症の分子機構と予防・治療に関する研究  (研究分担者:高橋良哉, 石神昭人)
 研究補助金:6050000円  (分担)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  高橋 良哉 :東京都老人総合研究所協力研究員
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  髙橋 良哉 :日本基礎老化学会理事, 日本生化学会関東支部幹事, 日本微量元素学会評議員, 老化促進モデルマウス(SAM)研究協議会評議員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















髙橋 良哉   教授
薬学博士
              
 14
 
 1
(1)
 1
 5
石神 昭人   准教授
薬学博士
              
 1
 
 
 
 
大寺 恵子   助教
博士(薬学)
              1
 9
 
 1
(1)
 1
 4
 0 0  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 2
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














髙橋 良哉   教授
薬学博士
         
 
 1
石神 昭人   准教授
薬学博士
         
 
 
大寺 恵子   助教
博士(薬学)
         1
 
 1
 0 0  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 2
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 学会発表
国内学会
1. 鈴木英治, ◎今井雅之, 松山明弘, 奥野友哉梨, 中越雅道, 高橋良哉, 石神昭人, 氷川英正, 横山祐作: アルツハイマー病治療薬を指向したアミロイドベータ凝集阻害剤の開発:アリー
ルベンゾフラン誘導体.  日本薬学会第131年会,  静岡,  2011/03
2. ◎王冠男、大寺恵子、高橋良哉: 老化促進モデルマウスSAMP8系のアグマチナーゼの組織特異的発現と肝発現量の加齢変化.  日本薬学会第131年会,  静岡,  2011/03
3. ◎大寺恵子、高橋良哉: 老齢ラット腎尿細管細胞におけるアルブミン蓄積に関する研究.  日本薬学会第131年会,  静岡,  2011/03
4. ◎松山明弘, 中越雅道, 横山祐作, 奥野洋明, 奥野友哉梨, 石神昭人, 高橋良哉, 鈴木英治: アルツハイマー病治療薬を指向したアミロイドβ 凝集阻害剤の開発.  第29回 メディシナルケミストリーシンポジウム,  京都,  2010/11
5. ◎王冠男、大寺恵子、高橋良哉: SAMP8 系とSAMR1 系マウスのアグマチナーゼの遺伝子多型と組織別発現.  第54回日本薬学会関東支部会,  八王子,  2010/10
6. ◎戸辺慎也、大寺恵子、高橋良哉: 中高齢ラットに対する食餌制限が筋組織タンパク質構成に与える影響.  第54回日本薬学会関東支部会,  八王子,  2010/10
7. ◎劉思圓、大寺恵子、高橋良哉: 加齢に伴いSAMP8 系マウス脳に蓄積する非ヘム鉄、フェリチンとAPP の局在.  第54回日本薬学会関東支部会,  八王子,  2010/10
8. ◎浜口亜也, 福澤翔太, 石神昭人, 成末憲治, 高橋良哉, 長濱辰文: アメフラシ中枢において老化とともに蓄積するアミロイドβ様物質.  第33回日本神経科学大会 (Neuro2010),  神戸,  2010/09
9. ◎劉思圓、大寺恵子、高橋良哉: SAMP8系の脳における加齢に伴う非ヘム鉄蓄積とアミロイド前駆体タンパク質の発現.  第25回老化促進モデルマウス(SAM)研究協議会研究発表会,  金沢,  2010/07
10. ◎劉思圓、大寺恵子、高橋良哉: 加齢に伴うSAMP8系の脳における鉄蓄積とアミロイド前駆体タンパク質の発現.  第33回日本基礎老化学会,  名古屋,  2010/06
11. ◎趙勝楠、大寺恵子、高橋良哉: SAMP8 系の肝ミトコンドリア型GOT のアミノ酸変異が分子機能に与える影響.  第54回日本薬学会関東支部会,  八王子,  2010/10
12. ◎趙勝楠、大寺恵子、高橋良哉: SAMP8系の肝ミトコンドリア型アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素活性に対する遺伝子多型の影響.  第25回老化促進モデルマウス(SAM)研究協議会研究発表会,  金沢,  2010/07
13. ◎趙勝楠、大寺恵子、高橋良哉: SAMP8系のミトコンドリア型アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子多型.  第33回日本基礎老化学会,  名古屋,  2010/06
国際学会
1. ◎Zhao S, Odera K, Takahashi R: Genetic Variation and Enzymatic Activity of Mitochondrial Aspartate Aminotransferase in Senescence Accelerated Mouse, SAMP8 strain.  Asian Aging Core for Longevity Research and Education 2010 Jeju Conference,  Jeju, Korea,  2010/08
その他
1. ◎Liu S, Odera K, Takahashi R: Age-related accumulation of non-heme iron, ferritin and APP in the brain of senescence accelerated mouse, SAMP8 strain.  7th Joint Academic Meeting of the three Faculties of Toho University,  Funabashi, Japan,  2010/10
2. ◎Odera K, Takahashi R: Age-related increase in the expression of megalin and cubilin in rat kidney glomeruli.  7th Joint Academic Meeting of the three Faculties of Toho University,  Funabashi, Japan,  2010/10
3. ◎Takahashi R: Activation of heat shock response in tissues of unstressed rats during aging.  7th Joint Academic Meeting of the three Faculties of Toho University,  Funabashi, Japan,  2010/10
4. ◎Tobe S, Odera K, Takahashi R: Effect of dietary restriction initiated from old on rat skeletal muscle fiber types.  7th Joint Academic Meeting of the three Faculties of Toho University,  Funabashi, Japan,  2010/10
5. ◎Wang G, Odera K, Takahashi R: Analysis of cDNA sequences and mRNA expression of agmatinase in senescence accelerated mouse P8 and R1 strains.  7th Joint Academic Meeting of the three Faculties of Toho University,  Funabashi, Japan,  2010/10
6. ◎Zhao S, Odera K, Takahashi R: A single amino acid substitution of GOT2 modulate the molecular enzyme activity in senescence accelerated mouse, SAMP8 strain.  7th Joint Academic Meeting of the three Faculties of Toho University,  Funabashi, Japan,  2010/10
  :Corresponding Author
  :本学研究者