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 薬学部 薬物学教室
 Department of Pharmacology
■ 概要
1. 心筋の性質の種差と発達変化に関する研究
マウス心室筋活動電位の発達変化について電気生理学的に検討した。受精後15日目の胎児では100msを越える持続時間の比較的長い波形が見られたが、胎生期後半から出生後に持続時間の短縮が進行し、生体マウスではヒトやモルモットなどの汎用実験動物種の心房筋のものと比べて持続時間の極めて短い独特の波形となった。胎生期では多くの標本で弛緩期に緩徐脱分極がみられ、中には自発的に活動電位を発生するものも見られた。一方、生後の心筋では急速な再分極に続く、late plateau相が出現したが、これは主に出生後に起こる筋小胞体機能の増大と相関した。
2. 蛍光プローブによる細胞構造・細胞内事象の画像化
心房細動はもっともよく見られる不整脈のひとつであるが,我々はその原因として肺静脈に存在する心筋組織の電気活動に注目している。本年度は肺静脈組織標本に共焦点レーザー顕微鏡を適用し、自発活動の原因と推測されるカルシウムオシレーションの画像化を試みた。肺静脈の内腔側から内皮細胞層、平滑筋層、心筋層、外膜を各々鮮明に画像化することに成功した。心筋細胞層ではノルアドレナリンなどの処置により、カルシウムオシレーションが惹起され、その様式は心筋細胞ごとに異なっていた。すなわち、カルシウムスパーク、リニアなカルシウムウェーブ、スパイラルなカルシウムウェーブなどが見られた。このような細胞ごとに異なるカルシウムの動きが肺静脈心筋組織の電気的不均一性につながり、肺静脈心筋由来の心房細動の発生や維持と関連していると考えられる。
3.心筋自動能の研究
モルモット及びラットの肺静脈組織標本を用いて心筋層の活動電位波形を記録した。モルモットでは多くの標本で自発的な活動電位が観測され、その頻度はノルアドレナリンにより増大した。自発活動を示さない標本では、ノルアドレナリンにより緩やかな脱分極に続いて連続的な活動電位の発生が見られた。活動電位の発生は筋小胞体機能を阻害するリアノジンにより完全に消失した。ラットでは自発的な活動電位はほとんど観測されなかったが、ノルアドレナリン投与によりまず過分極、ついで脱分極が見られ、その後に反復興奮と休止を交互に繰り返す特徴的な電気活動が出現した。電気活動はリアノジンにより部分的に消失し、残存する活動はニフェジピンにより完全に消失した。モルモットとラットの肺静脈心筋では再分極力の違いにより、様式の異なる電気活動が生じていると考えられる。
4. 心筋保護薬物の研究
心筋のミトコンドリア機能維持に深く関係するpermeability transition pore (PTP)の開口を蛍光検出する実験系を構築した。心筋細胞株H9c2に蛍光プローブを取り込ませた後、ジギトニン処理により細胞膜を透過性にし、細胞内液すなわちミトコンドリア外液の直接制御を可能にした。細胞内カルシウムイオン濃度が高まるとカルシウムイオンが、ユニポーターを介してミトコンドリア内に流入し、ナトリウムカルシウム交換機構により排出されることが判明した。ミトコンドリア内カルシウム濃度を上昇させるとPTPが開口する事がカルセイン蛍光の低下により捉えられた。この実験系を用いて各種実験的処置や薬物がPTPに及ぼす影響を観測する事が可能になった。
5. 心筋再分極の研究
クロブチノールは乾性咳嗽治療薬として多くのEU加盟国でOTC薬として販売されてきたが、心電図QT間隔延長との関連性を示唆する臨床研究結果により2007年に販売承認を一時停止されている。本研究ではhERG K+チャネル発現細胞およびモルモット心筋を用い、クロブチノールの催不整脈特性を代表的IKr阻害薬E-4031と比較した。hERG遺伝子発現HEK293細胞で観察されたK+電流はクロブチノールおよびE-4031により濃度依存的に抑制され、それぞれのIC50は1.6 µMおよび7.9 nMであった。ハロセン麻酔モルモットより閉胸下で右心室より単相性活動電位(MAP)を記録した。クロブチノールおよびE-4031は心拍数を低下させ、洞調律下のMAP持続時間と心電図QT間隔を用量依存的に延長させた。右心室ペーシング条件下(刺激間隔250および300 ms)においてもMAP持続時間の延長が認められ、両薬物による延長作用の程度は300msの刺激条件のほうが大きかった。催不整脈指標として有用性が確立しているMAP持続時間のbeat-to-beat variability(再分極時間の時間的ばらつき)を算出したところ、クロブチノールおよびE-4031で有意なばらつきの増大が認められた。以上より、クロブチノールはhERG電流抑制作用を有し、IKr阻害薬と類似した催不整脈特性を示すことが明らかとなった。
■ Keywords
心臓, 血管, 自律神経, 種差と発達変化, 電気生理学, 画像化解析, 治療薬開発, 自動能, 活動電位, 興奮収縮連関, 催不整脈作用, 抗不整脈薬, 抗高血圧薬, 虚血再灌流障害, 心筋保護
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















田中 光   教授
薬学博士
   1 1          1
(1)
 19
(1)
 
 2
 
 
行方 衣由紀   講師
博士(薬学)
   1 1          2
(1)
 13
(1)
 1
 1
 
 
 0 2  0 0  0  3
(2)
 1
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














田中 光   教授
薬学博士
  1       1
(1)
 
 
行方 衣由紀   講師
博士(薬学)
  1       2
(1)
 1
 
 0 2  0 0  0  3
(2)
 1
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
総説及び解説
1. Tanaka H, Tsuneoka Y, Namekata I:  Electropharmacological properties of the pulmonary vein myocardium.  Current topics in pharmacology  15 (2) :19 -24 , 2011
2. Namekata I, Tanaka H:  Cardioprotective effects of Na+-Ca2+ exchanger inhibition.  Recent Research Developments in Pharmacology  2 :115 -126 , 2011
■ 学会発表
国内学会
1. ◎行方衣由紀、恒岡弥生、田中光: 肺静脈心筋の電気的自発活動の発生機序:心房細動治療標的としての可能性.  日本薬学会第132年会,  札幌,  2012/03
2. ◎中村裕二, 北原健, 佐々木梨江子, 赤羽悟美, 田中光, 高原章, 杉山篤: オセルタミビルはQT延長症候群を誘発しない.  第85回日本薬理学会年会,  京都,  2012/03
3. ◎北原健, 中村裕二, 恒岡弥生, 鈴木早苗, 赤羽悟美, 田中光, 高原章, 山崎純一, 杉山篤: オセルタミビルの生体に対する電気薬理学的作用.  第85回日本薬理学会年会,  京都,  2012/03
4. ◎濱口正悟、本多頼子、行方衣由紀、田中光: 新生仔および成体マウス心室筋における興奮収縮メカニズムに対するα受容体刺激の影響.  第85回日本薬理学会年会,  京都,  2012/03
5. ◎岡貴之、大槻篤史、高橋由紀子、行方衣由紀、田中光: hERG チャネルの電流及び細胞内移動に対する terfenadine および pentamidine の作用.  第85回日本薬理学会年会,  京都,  2012/03
6. ◎恒岡弥生、小林由佳、杉本貴彦、行方衣由紀、田中光: モルモット肺静脈心筋の電気的自発活動とカリウム電流.  第85回日本薬理学会年会,  京都,  2012/03
7. ◎恒岡弥生,行方衣由紀,川西徹,田中光: モルモット肺静脈心筋自発活動における細胞内Ca2+動態と電気生理学的性質.  第125回日本薬理学会関東部会,  千葉,  2011/10
8. ◎疋田康,恒岡弥生,行方衣由紀,田中光: 伸展刺激に起因するモルモット肺静脈心筋の高頻度自発活動について.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋,  2011/10
9. ◎本間 邦恵 , 田中 光 , 高原 章: マウス心筋の再分極過程の特徴:心電図と単相性活動電位を用いた評価.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋,  2011/10
10. ◎行方衣由紀, 恒岡弥生, 小川亨, 中瀬古寛子, 赤羽悟美, 田中光: Efonidipine光学異性体を用いた洞房結節緩徐脱分極に関与するCa2+チャネル分子種(Cav1.2、Cav1.3、Cav3.1)の薬理学的検討.  生体機能と創薬シンポジウム2011,  東京,  2011/09
11. ◎田中光、濱口正悟、川上悠子、本多頼子、行方衣由紀: こどもの心臓からおとなの心臓へ-心筋興奮収縮機構の発達変化-.  生体機能と創薬シンポジウム2011,  東京,  2011/09
12. ◎伊香賀玲奈、行方衣由紀、田中光、田中直子: アクアポリン8ノックダウン脂肪細胞を用いたミトコンドリア機能の可視化.  第20回日本バイオイメージング学会学術集会,  北海道 千歳市,  2011/09
13. ◎藤原 香織, 木村 伊都紀, 松尾 和廣, 田中 光, 高原 章: シプロフロキサシンの心臓電気薬理学的作用:ハロセン麻酔モルモットモデルによる検討.  次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム 2011,  東京,  2011/08
14. ◎鈴木 早苗, 恒岡 弥生, 田中 光, 高原 章: モルモット心房におけるoseltamivirの電気生理作用特性.  次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム 2011,  東京,  2011/08
15. ◎秋葉明子,恒岡弥生,行方衣由紀,田中光: モルモットおよびラット肺静脈心筋の自発活動における細胞内Ca2+の役割.  次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム2011,  東京,  2011/08
16. ◎疋田康,恒岡弥生,行方衣由紀,田中光: モルモット肺静脈心筋の自発活動に対する伸展刺激の影響.  次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム2011,  東京,  2011/08
17. ◎本多頼子,濵口正悟,行方衣由紀,田中光: マウス心室筋活動電位波形の発達変化.  次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム2011,  東京,  2011/08
18. ◎濵口正悟,廣田佳孝,大原皆人,川西徹,行方衣由紀,田中光: SERCA 活性化薬はstreptozotocin 誘発糖尿病マウス心筋の弛緩機能を改善する.  次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム2011,  東京,  2011/08
19. 藤原 香織, 大槻 篤史, 岡 貴之, 行方 衣由紀, 田中 光, ◎高原 章: ハロセン麻酔モルモットモデルにおけるジフェンヒドラミンおよびクロペラスチンの心臓電気薬理学的作用.  第124回日本薬理学会関東部会,  東京,  2011/06
20. ◎金澤温子,行方衣由紀,田中光: Mitochondrial Permeability Transition Pore(mPTP)開閉観察系の構築.  次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム2011,  東京,  2011/08
国際学会
1. ◎大槻篤史、岡貴之、行方衣由紀、田中光: オートパッチクランプ法のための細胞分散法の開発と評価.  第85回日本薬理学会年会,  京都,  2012/03
2. ◎Namekata I, Tsuneoka Y, Akiba A, Nakamura H, Shimada H, Tanaka H.: Membrane Potential and Intracellular Calcium Oscillations in the Guinea-Pig and Rat Pulmonary Vein Myocardium.  The 28th Annual Meeting of the International Society for Heart Research Japanese Section,  Tokyo, Japan,  2011/12
  :Corresponding Author
  :本学研究者