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 医学部 医学科 生化学講座/生化学分野
 Department of Biochemistry Division of Medical Biochemistry

教授:
  中野 裕康
准教授:
  森脇 健太
講師:
  村井 晋
■ 概要
1. FGF18の高感度ELISA系の開発
Fibroblast growth factor 18 (FGF18)は、FGFファミリーに属するサイトカインであり、これまにFGF18を先天的に欠損したマウスは骨形成や軟骨形成の異常が生じ、かつ肺胞の形成不全のために出生直後に致死となることが報告されていた。また大腸がんや卵巣がんで発現が亢進していることも報告されていた。しかしながら、我々は市販のFGF18 を測定するためのELISAキットが信頼性が乏しいことに気がついた。そこで我々は独自にモノクローナル抗体を樹立して、高感度かつ特異性の高いヒトFGF18のELISAシステムの構築を行なった。構築したELISAシステムは数十pg/mLのヒトFGF18を検出でき、複数の腫瘍細胞株の培養上清中でFGF18を検出することができた。さらに健常人の血清中ではFGF18が1例も検出されなかったにも関わらず、一部のがん患者の血清中でFGF18を検出された。このことからFGF18がある種のがんの血清バイオマーカーとなる可能性が示唆された(Biochem Biophys Res Commun 2023).
2. FGF18の肝線維化における役割の解析
肝臓の線維化はウイルス感染、アルコール過剰摂取、代謝異常、自己免疫異常などによる誘導される。そのメカニズムとしては酸化ストレス、脂肪毒性や細胞死などの関与が示唆されているが、そのメカニズムの詳細は明らかとなっていない。そこで我々は肝細胞で細胞死の亢進しているマウスに、コリン欠乏エチオニン添加(CDE)食を投与するモデルを用いて、新たに肝線維化に関与する因子の同定を試みた。肝細胞死亢進マウスではCDE食投与により誘導される肝臓の線維化が著明に増悪していた。Bulk RNA-seq解析により線維化に関与する遺伝子を絞り込み、最終的にFibroblast growth factor 18 (FGF18)に注目した。FGF18は通常の肝臓ではほとんど発現は認められなかったものの、野生型マウスおよび肝細胞死亢進マウスにCDE食を投与することで発現が誘導された。FGF18の産生細胞を同定するためにRNAscopeを行い、Fgf18は肝細胞と肝星細胞でCDE食投与により発現が上昇していることを見出した。さらにFgf18を肝細胞で過剰発現したマウス(Fgf18 Tgマウス)を樹立したところ、肝臓に線維化が誘導され、single cell RNA-seq解析から、Fgf18 Tgマウスでは肝星細胞が増加していた。そのメカニズムを解析するために野生型マウスから肝星細胞を採取し、FGF18で刺激したところ肝星細胞の増殖を促進することが明らかとなった。さらにヒトの肝生検サンプルを用いた解析から、肝臓でのFGF18の発現はCOL1A1やACTA2の発現と相関していることを見出した。以上より、FGF18は肝星細胞の細胞増殖を促進することで肝臓の線維化を促進することが明らかとなり、肝線維化を治療するための新たな標的となる可能性が示された(Nat Commun 2023)。
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業  (研究課題番号:23gm1210002s0103)
 研究課題:NASHにおける肝リモデリングを制御する細胞間相互作用の解明と革新的診断・治療法創出への応用  (研究分担者:中野 裕康)
 研究補助金:14000000円  (分担)
2.  2023年度文部科学省科学研究費 基盤研究(B)  (研究課題番号:23H02707)
 研究課題:細胞膜崩壊性細胞死によるDAMPs放出のメカニズムの解明  (研究代表者:中野 裕康)
 研究補助金:4600000円  (代表)
3.  国立研究開発法人日本医療研究開発機構 新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)  (研究課題番号:23wm0325050h0003)
 研究課題:制御性ネクローシスから挑む感染防御機構と感染症発症機構の真の理解  (研究代表者:森脇 健太)
 研究補助金:2000000円  (代表)
4.  2023年度文部科学省科学研究費 基盤研究(B)  (研究課題番号:22H02835)
 研究課題:炎症性細胞死ネクロプトーシスを制御するタンパク質複合体の時空間的制御機構の解明  (研究代表者:森脇 健太)
 研究補助金:4500000円  (代表)
5.  2023年度文部科学省科学研究費 基盤研究(B)  (研究課題番号:21H02658)
 研究課題:細胞の極性を制御する遺伝子の組織、個体での機能とその分子機構の解明  (研究分担者:森脇 健太)
 研究補助金:500000円  (分担)
その他
1.  東邦大学 ダイバーシティ推進センター共同研究強化支援
 研究課題:細胞分泌実時間イメージング法によるDAMPs放出メカニズムの解明  (研究代表者:村井 晋)
 研究補助金:300000円  (代表)
2.  東邦大学 2023年度プロジェクト研究費
 研究課題:Caspase-8のT細胞における非酵素的機能の役割の解明  (研究代表者:関 崇生)
 研究補助金:500000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  中野 裕康 :日本Cell Death学会理事, 日本免疫学会評議委員, 日本生化学会評議委員
2.  森脇 健太 :日本Cell Death学会評議委員・ニュースレター編集長, 日本生化学会「生化学」企画協力委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















中野 裕康   教授
    2     1     2
(1)
 5
(2)
 1
 1
(1)
 
 1
森脇 健太   准教授
   1 1          1
(1)
 
 1
 
 2
(2)
 1
村井 晋   講師
              
 
 
 
 
 
関 崇生   助教
   1 1          1
 
 
 
 1
 
 0 2  0 0  0  4
(2)
 2
(0)
 3
(2)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














中野 裕康   教授
         2
(1)
 1
 
森脇 健太   准教授
  1       1
(1)
 1
 2
(2)
村井 晋   講師
         
 
 
関 崇生   助教
  1       1
 
 1
 0 2  0 0  0  4
(2)
 2
(0)
 3
(2)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Tsuchiya Y, Komazawa-Sakon S, Tanaka M, Kanokogi T, Moriwaki K, Akiba H, Yagita H, Okumura K, Entzminger KC, Okumura CJ, Maruyama T, Nakano H:  A high-sensitivity ELISA for detection of human FGF18 in culture supernatants from tumor cell lines.  Biochemical and biophysical research communications  675 :71 -77 , 2023
2. Wu J, Moriwaki K, Asuka T, Nakai R, Kanda S, Taniguchi M, Sugiyama T, Yoshimura SI, Kunii M, Nagasawa T, Hosen N, Miyoshi E, Harada A:  EHBP1L1, an apicobasal polarity regulator, is critical for nuclear polarization during enucleation of erythroblasts.  Blood Advances  :3382 -3394 , 2023
3. Tsuchiya Y, Seki T, Kobayashi K, Komazawa-Sakon S, Shichino S, Nishina T, Fukuhara K, Ikejima K, Nagai H, Igarashi Y, Ueha S, Oikawa A, Tsurusaki S, Yamazaki S, Nishiyama C, Mikami T, Yagita H, Okumura K, Kido T, Miyajima A, Matsushima K, Imasaka M, Araki K, Imamura T, Ohmuraya M, Tanaka M, Nakano H.:  Fibroblast growth factor 18 stimulates the proliferation of hepatic stellate cells, thereby inducing liver fibrosis.  Nature Communications  14 (1) : , 2023
4. Takakura Y, Machida M, Terada N, Katsumi Y, Kawamura S, Horie K, Miyauchi M, Ishikawa T, Akiyama N, Seki T, Miyao T, Hayama M, Endo R, Ishii H, Maruyama Y, Hagiwara N, Kobayashi TJ, Yamaguchi N, Takano H, Akiyama T & Yamaguchi N:  Mitochondrial protein C15ORF48 is a stress-independent inducer of autophagy that regulates oxidative stress and autoimmunity.  Nature Communications  953 (15) : , 2024
■ 著書
1. Hiroyasu Nakano:  Necroptosis and its involvement in various diseases.  Basic Immunology and Its Clinical Application  129-143.  Springer Nature,  Switzerland, 2024
■ 学会発表
国内学会
1. ◎仁科 隆史、出口 裕、大塚 正人、三上 哲夫、中野 裕康: Interleukin-11 を介した大腸がん形成機構の解明.  2024 年 がん関連三学会 Rising Star ネットワーキング,  川崎、神奈川,  2024/01
2. 中野 裕康: Fibroblast growth factor 18 (FGF18)は肝臓の線維化に関与する.  第37回 肝類洞壁細胞研究会 学術集会,  東京,  2023/12
3. 中野 裕康: FRETバイオセンターSMARTを用いたネクロプトーシスの生体イメージング.  第46回日本分子生物学会年会,  神戸,  2023/12
4. ◎山﨑 創, 猪原 直弘, 大村谷 昌樹, 恒岡 洋右, 八木田 秀雄, 片桐 翔治, 仁科 隆史, 三上 哲夫, 中野 裕康: 腸上皮細胞におけるIκBζの役割:IL-17応答性の遺伝子発現を介した腸内細菌叢の調節と自己免疫疾患の抑制.  第96回日本生化学会大会,  福岡国際会議場・マリンメッセ福岡B館,  2023/10
5. Kenta Moriwaki: Evolutionary origin and conservation of the core molecular machinery for necroptosis.  第25回 日本進化学会大会,  那覇,  2023/09
6. ◎中野 裕康: 細胞死による生体応答制御.  第38回 老化促進モデルマウス学会学術大会,  千葉県船橋市,  2023/09
7. ◎仁科 隆史、出口 裕、河内 美香、陳 茜愉、山﨑 創、三上 哲夫、中野 裕康: Interleukin-11を介した大腸恒常性維持機構の解明.  第31回日本 Cell Death 学会学術集会,  東京,  2023/07
8. ◎Takao Seki, Yuichi Tsuchiya, Shigeyuki Shichino, Takashi Nishina, Soh Yamazaki, Kouji Matsushima, Hideo Yagita, Ko Okumura, Minoru Tanaka, Hiroyasu Nakano: Fibroblast growth factor 18 stimulates the proliferation of hepatic stellate cells, thereby inducing liver fibrosis.  第52回免疫学会学術集会,  幕張メッセ,  2024/01
国際学会
1. ◎Takashi Nishina, Yutaka Deguchi, Hidemi Eguchi, Maika Ozeki, Xiyu Chen, Soh
Yamazaki, Tetsuo Mikami, Hiroyasu Nakano: Unraveling the Role of IL-11-Producing Fibroblasts in Colon Homeostasis.  The 46th Annual Meeting of the Molecular Biology Society of Japan,  Kobe, Japan,  2023/12
2. ◎Hiroyasu Nakano: Live cell imaging of necroptosis.  3rd Japan-Australia meeting on cell death,  Melbourne,  2023/08
3. Kenta Moriwaki: Lewis glycosphingolipids as critical determinants of TRAIL sensitivity in cancer cells.  Japan Australia Meeting on Cell Death 2023,  Melbourne,  2023/08
その他
1. 森脇健太: 制御性ネクローシスから考える炎症誘導機構.  「集え、多分野研究者!」感染症キャンプ in 宮崎,  宮崎,  2024/01
2. ◎関崇生、三好嗣臣、森脇健太、山崎創、中野裕康: 細胞死不全マウスの免疫制御異常の解析.  令和5年度 適応・修復領域 若⼿主体の会議,  くまもと県⺠交流館パレア,  2023/09
3. 森脇健太: 赤血球形成における細胞内膜輸送系の役割.  赤血球研究シンポジウム ー基礎から応用へー,  東京,  2023/05
  :Corresponding Author
  :本学研究者