医学部 医学科 生化学講座/生化学分野
Department of Biochemistry Division of Medical Biochemistry
教授:
中野 裕康
准教授:
森脇 健太
講師:
土屋 勇一
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■ 概要
1. IL-11産生線維芽細胞による大腸がんの再発への関与
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これまでにヒトおよびマウスの胃がんや大腸がんでIL-11と呼ばれるサイトカインの発現が亢進していることが報告されていた。しかしこれまでの報告ではIL-11を産生する細胞がどのような細胞なのかは明らかにされておらず、大腸がんの予後とIL-11の発現との関係についても不明だった。そこで今回我々は、生体内でIL-11の発現を可視化できるマウスを新たに作製した。このマウスを使って大腸がんモデルならびに大腸炎モデルを作製して解析したところ、IL-11陽性細胞は大部分が線維芽細胞であり通常の組織には存在しないものの、大腸炎や大腸がんの進展に伴い局所に出現することが分かった。そこでIL-11陽性の線維芽細胞とIL-11陰性の線維芽細胞の遺伝子発現を、RNA-seq解析により解析したところ、IL-11陽性細胞では約350個の遺伝子が高発現し、これらの遺伝子の中には組織修復や細胞増殖を制御する遺伝子が含まれることが明らかとなった。ヒト大腸がんのデータベースを用いた解析から、腫瘍におけるIL-11の発現は大腸がんの再発とは無関係なものの、IL-11陽性細胞で発現の高い一群の遺伝子と大腸がんの再発には有意な正の相関があることが明らかとなった。大腸がんを制御する治療法を開発する上で、IL-11陽性細胞が新たな治療標的となる可能性が示された (Nishina et al, Nat Commun 2022)。
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2. SMARTトランスジェニックマウスを用いた解析
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我々はこれまでにSMARTと命名したネクロプトーシスを選択的に可視化することのできるFRETバイオセンサーを開発し、培養細胞を用いて解析を行ってきた (Murai et al, Nat Commun 2018)。今年度はSMARTを発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作成し、まずそのマウス由来のマクロファージや胎児線維芽細胞を用いてネクロプトーシスをモニタリングすることができるかを検討した。その結果ネクロプトーシス特異的にFRET/CFP比が上昇することを見出した。さらにSMART TgマウスとRipk3欠損マウスを交配し、SMART Tg;Ripk3-/-マウスを樹立し、そのマウス由来の初代培養細胞では予測通りネクロプトーシスもFRET/CFP比の上昇も認められなかった。最後にネクロプトーシスのin vivoでのイメージングをするために、シスプラチン投与による腎障害モデルを用いて2光子顕微鏡によるイメージングを行った。その結果シスプラチン投与2 日後のマウスの腎臓では、非投与個体のマウス腎臓と比較してFRET/CFP比が上昇していることを見出した。以上よりSMART Tgマウスはin vitro及びin vivoでのネクロプトーシス実行細胞をイメージングする上で非常に有用なツールとなることが示された(投稿中)。
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■ 当該年度の研究費受入状況
1.
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国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業
(研究課題番号:21gm1210002s0103)
研究課題:NASHにおける肝リモデリングを制御する細胞間相互作用の解明と革新的診断・治療法創出への応用
(研究分担者:中野 裕康)
研究補助金:14000000円 (分担)
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2.
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2021年度文部科学省科学研究費 基盤研究(B)
(研究課題番号:20H03475)
研究課題:新規細胞死ネクロプトーシスの新たな制御機構の解明
(研究代表者:中野 裕康)
研究補助金:5300000円 (代表)
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3.
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2021年度文部科学省科学研究費 基盤研究(C)
(研究課題番号:19K07399)
研究課題:新規炎症性細胞死ネクロプトーシスを可視化する生体イメージング技術の開発
(研究代表者:森脇 健太)
研究補助金:1200000円 (代表)
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4.
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2021年度文部科学省科学研究費 基盤研究(B)
(研究課題番号:21H02658)
研究課題:細胞の極性を制御する遺伝子の組織、個体での機能とその分子機構の解明
(研究分担者:森脇 健太)
研究補助金:500000円 (分担)
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5.
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2021年度文部科学省科学研究費 基盤研究(C)
(研究課題番号:20K11589)
研究課題:非アルコール性脂肪性肝炎に対する増殖因子を介した肝臓修復機構の解明と治療への応用
(研究代表者:土屋 勇一)
研究補助金:1100000円 (代表)
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6.
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2021年度文部科学省科学研究費 基盤研究(C)
(研究課題番号:20K05238)
研究課題:敗血症モデルにおける計画的ネクローシスのFRETイメージング
(研究代表者:村井 晋)
研究補助金:1560000円 (代表)
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7.
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2021年度文部科学省科学研究費 若手研究
(研究課題番号:20K16151)
研究課題:自己免疫疾患にかかわる胸腺樹状細胞の成熟機構の解明
(研究代表者:関 崇生)
研究補助金:2470000円 (代表)
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■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.
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中野 裕康
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:日本Cell Death学会理事長
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2.
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中野 裕康
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:日本免疫学会評議委員
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3.
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中野 裕康
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:日本生化学会代議員
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4.
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森脇 健太
|
:日本Cell Death学会評議委員
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■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 |
刊行論文 |
著書 |
その他 |
学会発表 |
その他 発表 |
和文 | 英文 |
和文 | 英文 |
国内 | 国際 |
筆 頭 | 共 著 | 筆 頭 | 共 著 |
筆 頭 | 共 著 | 筆 頭 | 共 著 |
筆 頭 | 共 著 |
演 者 | 共 演 | 演 者 | 共 演 |
演 者 | 共 演 |
中野 裕康
教授
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| 1 | 1 | 2 |
| | | 1 |
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6
(2)
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1
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1
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森脇 健太
准教授
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2 | | 2 | 1 |
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4
(4)
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3
(3)
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|
3
(3)
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土屋 勇一
講師
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| | | |
| | | |
| |
1
|
1
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|
2
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関 崇生
助教
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| | | |
| | | |
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|
2
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1
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村井 晋
助教
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| | | 1 |
| | 1 | |
| |
1
(1)
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計 |
2 | / | 3 | / |
0 | / | 1 | / |
0 | / |
6 (5) | / |
0 (0) | / |
5 (3) | / |
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研究者名 |
刊行論文 |
著書 |
その他 |
学会発表 |
その他 発表 |
和 文 | 英 文 |
和 文 | 英 文 |
国 内 | 国 際 |
筆 頭 | 筆 頭
| 筆 頭 | 筆 頭
| 筆 頭 |
演 者 | 演 者
| 演 者 |
中野 裕康
教授
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| 1 |
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森脇 健太
准教授
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2 | 2 |
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4
(4)
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3
(3)
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土屋 勇一
講師
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| |
| |
|
1
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|
2
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関 崇生
助教
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| |
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|
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|
|
村井 晋
助教
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| |
| 1 |
|
1
(1)
|
|
|
計 |
2 | 3 |
0 | 1 |
0 |
6 (5) |
0 (0) |
5 (3) |
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( ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
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( ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
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■ 刊行論文
原著
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1.
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Moriwaki K, Park C, Koyama K, Balaji S, Kita K, Yagi R, Komazawa-Sakon S, Semba M, Asuka T, Nakano H, Kamada Y, Miyoshi E, Chan FKM:
The scaffold-dependent function of RIPK1 in dendritic cells promotes injury-induced colitis.
Mucosal Immunology
15
(1)
:84
-95
, 2022
|
2.
|
Nishina T, Deguchi Y, Ohshima D, Takeda W, Ohtsuka M, Shichino S, Ueha S, Yamazaki S, Kawauchi M, Nakamura E, Nishiyama C, Kojima Y, Adachi-Akahane S, Hasegawa M, Nakayama M, Oshima M, Yagita H, Shibuya K, Mikami T, Inohara N, Matsushima K, Tada N, Nakano H.:
Interleukin-11-expressing fibroblasts have a unique gene signature correlated with poor prognosis of colorectal cancer.
Nature Communications
12
:2281
, 2021
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総説及び解説
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1.
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森脇健太、中野裕康:
ネクロプトーシスの制御機構と病理的意義.
細胞
53
(12)
:667
-670
, 2021
|
2.
|
森脇健太:
RIPキナーゼによる細胞死と炎症の制御.
生化学
93
(4)
:451
-465
, 2021
|
3.
|
Nakano H, Murai S, Moriwaki K.:
Regulation of the release of damage-associated molecular patterns from necroptotic cells.
Biochemical Journal
479
:677
-685
, 2022
|
4.
|
Moriwaki K, Chan FKM, Miyoshi E:
Sweet modification and regulation of death receptor signalling pathway.
Journal of biochemistry
169
(6)
:643
-652
, 2021
|
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■ 著書
1.
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Shin Murai, Yoshitaka Shirasaki, Hiroyasu Nakano:
Live cell imaging: Methods in Protocols; Chapter 29, Time-Lapse Imaging of Necroptosis and DAMP Release at Single-Cell Resolution.
Methods in Molecular Biology
353-363.
Springer,
Switzerland,
2021
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■ 学会発表
国内学会
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1.
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Kenta Moriwaki:
Lewis glycolipids augment TRAIL-induced cell death by promoting complex II formation.
第94回日本生化学会大会,
コロナ禍のためオンライン,
2021/11
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2.
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◎土屋勇一†、小林謙太、関崇生†、駒澤幸子†、西山千春、三上哲夫†、今村亨、田中稔、中野裕康†:
肝細胞特異的cFLIP欠損はチオアセトアミド投与による慢性肝障害と肝線維化を亢進させる.
第94回日本生化学会大会,
オンライン,
2021/11
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3.
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福岡智哉、森脇健太、高松真二、小松未稀、近藤純平、宮本泰豪 、井上正宏、三善英知:
Lewis糖鎖はTRAIL受容体標的薬の治療効果を予測する因子となり得る.
第41回日本分子腫瘍マーカー研究会,
オンライン,
2021/09
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4.
|
森脇健太:
制御性ネクローシスから迫る医学・生物学の真の理解.
第32回 日本比較免疫学会 学術集会,
コロナ禍のためオンライン,
2021/08
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5.
|
◎村井晋, 隅山健太, 森脇健太, 高倉加奈子, 山口良文, 駒澤幸子, 寺井健太, 三浦正幸, 松田道行, 中野裕康:
SMART Tgマウス由来細胞を用いたネクロプトーシスのライブセルイメージング.
第29回日本Cell Death学会学術集会,
東京,
2021/07
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6.
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◎小林謙太、土屋勇一†、関崇生†、駒澤幸子、西山千春、三上哲夫†、今村亨、田中稔、中野裕康†:
FGF18はNASH における肝線維化に関与する.
第29回日本Cell Death学会学術集会,
オンライン,
2021/07
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7.
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福岡智哉、森脇健太、高松真二、小松未稀、近藤純平、宮本泰豪 、井上正宏、三善英知:
TRAIL(TNF-related apoptosis-inducing ligand)の感受性を制御する糖鎖構造とそのメカニズムの解明.
第21回関西グライコサイエンスフォーラム,
オンライン,
2021/05
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8.
|
◎Kenta Moriwaki, Hiroyasu Nakano, Francis Chan:
The scaffold-dependent function of RIPK1 in dendritic cells promotes injury-induced colitis.
第50回 日本免疫学会学術集会,
オンライン,
2021/12
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9.
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Kenta Moriwaki:
Lewis glycolipids as critical determinants of TRAIL sensitivity in cancer cells.
第44回 日本分子生物学会年会,
横浜,
2021/12
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国際学会
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1.
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◎Takashi Nishina, Hiroyasu Nakano:
Interleukin-11-producing fibroblasts promotes the development of colorectal cancer.
Cytokines 2021,
Web (UK),
2021/10
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その他
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1.
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◎土屋 勇一†, 小林 謙太, 関 崇生†, 仁科 隆史†, 駒澤 幸子†, 山﨑 創†, 三上 哲夫†, 西山 千春, 中野 裕康†:
FGF18は肝星細胞を活性化して肝線維化を誘導する.
第18回東邦大学5学部合同学術集会,
オンライン,
2022/03
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2.
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◎土屋勇一†:
細胞死促進マウスを用いた肝線維化誘導因子の同定.
第2回細胞死コロキウム,
オンライン,
2021/11
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3.
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Kenta Moriwaki:
Differential Roles of RIP kinases in Dendritic Cells in Intestinal Homeostasis and Inflammation.
第二回細胞死コロキウム,
オンライン,
2021/11
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4.
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森脇健太:
ハイコンテント・イメージングシステム.
TUGRIPテクニカルセミナー,
オンライン,
2021/11
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5.
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Kenta Moriwaki:
Lewis glycolipids as critical determinants of TRAIL sensitivity in cancer cells.
Australasian Cell Death Society Seminar,
オンライン,
2021/12
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