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 理学部 生物分子科学科 分子医学部門
 Division of Molecular Medicine

教授:
  小林 芳郎
准教授:
  永田 喜三郎
  柳内 和幸
■ 概要
アポトーシス細胞の取り込みに伴う生体の応答とその調節(小林)
(1)従来アポトーシス細胞の取り込みに伴うマクロファージの応答はLPSを刺激剤として用いて研究されてきた。そこでチオグリコレート培地で誘導されたマクロファージとアポトーシス好中球を共培養するときIFN-γを共存させ、IL-12p40, IL-6, TNF-α, IL-1β、MIP-2、KC、TGF-β、IL-10産生、一酸化窒素(NO)産生、その相互関係を調べた。結果、IFN-γ はNO, IL-12p40, IL-6 の産生を促進、初期アポトーシス好中球はその時のNO 産生を促進、後期アポトーシス好中球とその上清はその時のTNF-α 産生を促進した。IL-6 と IL-12p40 は、初期、後期いずれのアポトーシス好中球によっても産生が抑制され、TGF-βとIL-10産生は変化がなかった。IFN-γ によって産生された NO は、MIP-2 や KC 産生を抑制した。以上の結果は、アポトーシス細胞に対するマクロファージの応答はLPSと異なりIFN-γによって複雑に影響を受けることを示す。(2)マウスやラットの性サイクルは発情前期、発情期、発情後期、間期の4つのステージからなり、通常それぞれ1日、合計4日、で1回りする。これらのステージのうち発情後期には、膣に好中球が多数排出され、膣スメアによって性サイクルのステージを決める根拠の一つになっている。この好中球排出はケモカインのひとつMIP-2に依存しており、おそらく性ホルモンの制御下にあると考えられているが、好中球浸潤の生理的意義については不明な点が多く残されたままであった。膣内には好中球のほか好酸球も浸潤する。また好中球はGr-1強陽性であるのに対し、好酸球はGr-1弱陽性である。さらに抗Gr-1抗体は条件によっては好酸球も枯渇する場合が知られている。そこでまず、抗Gr-1抗体投与後、生殖器の切片について免疫組織化学的検討を加えた。その結果、好中球は枯渇されるが好酸球は枯渇されないことが明らかとなった。次に、抗Gr-1抗体を発情前期または発情期に投与すると、性サイクルは間期で一過的に停止した。一方、抗Gr-1抗体を発情後期または間期に投与すると、性サイクルは一度発情前期に戻り、その後の間期で一過的に停止した。これらの結果とその他の知見から、発情期から発情後期にかけて好中球が浸潤または存在することが性サイクルの維持に重要であると考えられた。好中球枯渇による性サイクルの停止は、膣スメアや外部形態の変化だけでなく、エストラジオールとプロゲステロンのレベルの変化ももたらした。以上より、浸潤好中球は性ホルモンの産生制御を介して性サイクルを維持していることが明らかとなった。
ネクローシス細胞に対する生体の応答(永田)
ネクローシスさせた P388細胞、および TG 誘導好中球を腹腔内へ投与すると、多量の好中球浸潤が認められ 、MIP-2および KC 産生は好中球浸潤ピーク前に多量に認められた。このとき MIP-2 よりも KC が多量に産生された。一方、ネクローシス胸腺細胞を投与すると好中球浸潤はほとんど認められず、また MIP-2およびKC 産生も認められなかった。このように、投与するネクローシス細胞の違いにより応答が異なることが分かった。投与するネクローシス細胞により生体の応答が異なるのは、ネクローシスを起こした際に放出される内容物、およびそれが好中球浸潤を伴う炎症応答を引き起こす機構に違いがあるためだと考えられた。しかし、まだ詳細は不明である。
個人の体質を左右する遺伝子多型情報の解析(柳内)
我々は、酵母を使った改良型Y1H法を開発に成功しており、抵コストで効率的なヒトゲノムの機能解析を進めている。特に、転写因子が結合する部位の遺伝的個人差に着目し、遺伝子診断の実用化に貢献できるような転写因子結合部位の解析を進めている。
再生医療に関する技術開発(柳内)
多能性幹細胞の樹立に重要な因子を厳密に発現コントロールできる新規の誘導型遺伝子発現ベクターの構築や、遺伝子導入動物の作製、新規多能性誘導関連遺伝子の探索、多能性獲得の分子メカニズムの解析などを行うことで、再生医療の発展へ貢献することを目指した研究を進めている。
■ Keywords
小林、永田:アポトーシス細胞, マクロファージ, 好中球, ケモカイン, マウス , 性周期, 柳内:SNP, 遺伝子多型, 遺伝子診断, テーラーメイド医療、再生医療、iPS細胞、ES細胞、トランスジェニック動物、モデル動物
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成22年度科学研究費補助金(基盤研究C)  (研究課題番号:21590077)
 研究課題:好中球のアポトーシスとマクロファージによる貪食応答を介した炎症の終息機  (研究代表者:小林芳郎)
 研究補助金:1000000円  (代表)
2.  平成22年度文部科学省科学研究費 基盤研究(C)  (研究課題番号:21590078)
 研究課題:ネクローシス細胞が誘発する炎症応答の発症および終息におけるDAMPsの役割  (研究代表者:永田喜三郎)
 研究補助金:1000000円  (代表)
その他
1.  平成22年度文部科学省科学研究費 挑戦的萌芽研究  (研究課題番号:30360704)
 研究課題:再生医療モデルマウスの作成  (研究代表者:柳内和幸)
 研究補助金:1700000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  小林芳郎 :日本マクロファージ分子細胞生物学研究会(幹事)、日本薬学会PHシンポジウム(世話人)
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















小林 芳郎   教授
薬学博士
    2          
 
 
 1
 
 
永田 喜三郎   准教授
薬学博士
    2          
 
 1
 1
 
 
柳内 和幸   准教授
農学博士
    1          
 3
 
 
 
 3
 0 0  0 0  0  0
(0)
 1
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














小林 芳郎   教授
薬学博士
         
 
 
永田 喜三郎   准教授
薬学博士
         
 1
 
柳内 和幸   准教授
農学博士
         
 
 
 0 0  0 0  0  0
(0)
 1
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Shibata T, Nagata K, Kobayashi Y.:  Apoptotic neutrophils and nitric oxide regulate cytokine production by IFN-γ-stimulated macrophages.  Cytokine  53 :191-195 , 2011
2. Ito K, Higai K, Sakurai M, Shinoda C, Yanai K, Azuma Y, Matsumoto K.:  Binding of natural cytotoxicity receptor NKp46 to sulfate- and α2,3-NeuAc-containing glycans and its mutagenesis.  Biochem, Biophys. Res. Commun.  406 :377-382 , 2011
3. Shibata T, Nagata K, Kobayashi Y.:  The mechanism underlying the appearance of late apoptotic neutrophils and subsequent TNF-α production at a late stage during Staphylococcus aureus bioparticle-induced peritoneal inflammation in inducible NO synthase-deficient mice.  Biochimica Biophysica Acta  1802 :1105-1111 , 2010
4. Nakayama, E., Shiratsuchi, Y., Kobayashi, Y., and Nagata, K.:  The importance of infiltrating neutrophils in SDF-1 production leading to regeneration of the thymus after whole-body X-irradiation.  Cellular Immunol.  268 :24-28 , 2011
5. Dateki M1, Kunitomo M, Yoshioka K, Yanai K, Nakasono S, Negishi T.:  Adaptive gene regulation of pyruvate dehydrogenase kinase isoenzyme 4 in hepatotoxic chemical-induced liver injury and its stimulatory potential for DNA repair and cell proliferation.  Journal of Receptors and Signal Transduction  31 (1) :85 -95 , 2011
6. Taniguchi-Yanai K, Koike T, Hasegawa Y, Furuta M, Serizawa N, Oshima N, Kato N, Yanai K:  Idenitification and characterization og glucocortical receptor-binding sites in the human genome.  Journal of Receptors and Transduction Research  30 (2) :88-105 , 2010
7. Yamaguchi, Y., Takabatake, T., Kakinuma, S., Amasaki, Y., Nishimura, M., Imaoka, T., Yamauchi, K., Shang, Y., Miyoshi-Imamura, T., Nogawa, H., Kobayashi, Y., Shimada, Y:  Complicated biallelic inactivation of Pten in radiation-induced thymic lymphomas.  Mutation research  686 :30-38 , 2010
総説及び解説
1. Kobayashi Y.:  Mini-Review: The regulatory role of nitric oxide in proinflammatory cytokine expression during the induction and resolution of inflammation.  Journal of leukocyte biology  88 :1157-1162 , 2010
2. Kobayashi Y.:  Review: Mechanism underlying silent cleanup of apoptotic cells.  Microbiology and Immunology  55 :71-75 , 2011
■ 学会発表
国内学会
1. 古田裕一, 柳内圭子, 柳内和幸: ヒト・レチノイドX受容体βのスプライシング・バリアントの解析.  BMB2010(第32回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会・合同年会),  神戸ポートアイランド,  2010/12
2. 鶴岡孝祥、柳内圭子、古田裕一、渡邉未知也、池嶋真奈、今井友里香、中山美佳、伊藤真弓、高橋磨理子、柳内和幸: レチノイドX受容体ホモダイマーのヒトゲノムにおける結合配列の系統的な同定とその解析.  BMB2010(第32回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会・合同年会),  神戸ポートアイランド,  2010/12
3. 柳内圭子, 村崎亜起子, 長谷川貴士, 渡邉未知也, 中山美佳, 柳内和幸: ヒトゲノムからのHepatocyte Nuclear Factor 4結合配列の系統的な同定と解析.  BMB2010(第32回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会・合同年会),  神戸ポートアイランド,  2010/12
国際学会
1. Iwasa, T., Nagata, K., and Kobayashi Y.: The role of annexins I and IV in macrophage response to apoptotic
cells.  14th International Congress of immunology.,  神戸,  2010/08
2. ◎Nagata, K., Takahashi, R., Yamaguchi, M., Totsuka S., Ishigami, A., and Kobayashi Y.: Effect of aging on inflammatory responses to dead cells.  14th International Congress of immunology.,  Kobe, Japan,  2010/08
その他
1. ◎Shoi Yamauchi, Hideaki Yamagishi, Takuya Toyoshima, Keiko Yanai, Takashi Hasegawa, Kazuyuki Yanai, Soichiro Watanabe: Synthesis and Properties of New Crosslinking Reagents to Detect DNA-Protein Interaction.  The 4th High-Tech Research Center Symposium,  船橋, 日本,  2010/11
2. ◎Shoi Yamauchi, Hideaki Yamagishi, Takuya Toyoshima, Keiko Yanai, Takashi Hasegawa, Kazuyuki Yanai, Soichiro Watanabe: Synthesis and Properties of New Crosslinking Reagents to Detect DNA-Protein Interaction.  第7回 東邦大学3学部合同学術集会,  船橋, 日本,  2010/10
  :Corresponding Author
  :本学研究者