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 理学部 物理学科 原子過程科学教室
 Atomic Process Science Laboratory

教授:
  酒井 康弘
講師:
  古川 武
■ 概要
概要
原子過程は,宇宙空間における分子の生成から,身近にある燃焼や化学反応など,そして核融合プラズマ中の反応においても重要な過程の1 つであり,それらを取り巻く物理学のキーを司っている。それらのうち本研究室では,主に電子衝撃による原子や分子の励起や電離,そして解離の過程を中心に研究を行っている。これらは電気通信大学レーザー新世代研究センターや中華人民共和国の中国科学技術大学(合肥)とも共同研究を行うなど積極的な外部協力体制を敷いている。また,その実験技術を活かし,新しい先端的な化学計測装置の開発にも取り組んでおり,これまでにもいくつかの助成金を受けてフラグメントフリー質量分析装置を開発し,これを呼気分析装置として完成させるべく研究を行っている。この研究については,本学医学部および薬学部との共同研究を模索中である。さらに,核融合科学研究所,原子分子データセンターとの共同研究により多価イオン衝突、イオン-表面衝突の実験的研究も行っていて,核融合研究の基礎研究として位置づけられる電荷移行の断面積の絶対測定、スパッタリング粒子の運動量測定に挑戦している。このほか、放射線医学総合研究所との共同研究によりX線蛍光分析法をアクチニド検出、分析に応用する開発研究も行っている。
1.原子・分子の励起,電離,解離過程に関する研究
電子衝撃による水素,メタン,アンモニア,さらには水など簡単な分子の解離性イオン化の実験を行っている。これらの研究には、最近完成させた散乱電子‒生成イオンの同時測定実験装置を用い、散乱電子のエネルギー分析により励起状態を選択し、その状態からイオン化解離するフラグメントイオンの種類や並進運動エネルギー、そして解離断面積を測定することで,解離過程についての知見を得ている。また、電気通信大学のレーザー新世代研究センター,及び中国合肥の中国科学技術大学,上智大学との共同研究としても行われていて、これまでに,一酸化窒素(NO)の励起微分断面積と一般化振動子強度の測定を行うとともに,希ガスの副殻励起領域,He の2 電子励起領域におけるFano効果に注目した散乱実験を行っている。
2.分子の負イオンを対象としたポアンカレ蛍光の精密分光
3.イオン付着飛行時間法による呼気分析の研究
一般の質量分析では試料をイオン化する必要があるため,その際に親分子を壊してしまうフラグメンテーション(イオン化解離)がおきることがある。本研究では試料のイオン化にイオン付着法を用い,飛行時間型質量分析器を利用したフラグメントフリー(標的親分子を壊さない)分析装置の開発を行っている。これまでの研究で,質量分解能等には不満が残るもの,フラグメントフリー計測に成功し,気相を対象としたフラグメントフリー計測法としての可能性を示すことができた。その結果を踏まえて、我々は本装置を呼気分析のための装置として本格的な開発に着手し、プロトタイプといえる装置の開発に成功した。
4.イオン衝撃による固体表面からの発光分光の研究
本研究は核融合科学研究所との共同研究である。同研究所の大強度イオン源ビームラインで実験を行っている。イオンビームを固体表面に入射させ、スパッタリングあるいは後方散乱された粒子からの発光を観測する実験で、表面からの距離を変えた実験を行っている。固体表面としてはタングステンを選んでいるが、これはタングステンが核融合炉の炉壁材料として期待されているからである。我々は、発光強度の距離依存性とスペクトルのドップラー形状から粒子の速度を求め、スパッタリングの基本的なメカニズムについての情報を得た。
5.蛍光X線分析法による創傷部アクチニド汚染評価法の開発
原子炉の廃炉現場等で想定されるアクチニドによる被ばく事故に対して,迅速,正確に体表面汚染状況を評価する方法の開発が必要である.現在は、同じ重金属である鉛を試料とし,蛍光X線分析法を用いた評価方法の研究を行っている。また、239Pu密封線源を用いて、XRFによってPuを検出可能か否か,可能ならばどのくらいの精度で測定できるかを検討している。
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















酒井 康弘   教授
    2          
 9
 
 5
 
 
古川 武   講師
    1          2
(2)
 8
 
 1
 
 
 0 0  0 0  0  2
(2)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














酒井 康弘   教授
         
 
 
古川 武   講師
         2
(2)
 
 
 0 0  0 0  0  2
(2)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Boulay F, Simpson G. S, Ichikawa Y, Kisyov S, Bucurescu D, Takamine A, Ahn D. S, Asahi K, Baba H,
Balabanski D. L, Egami T, Fujita T, Fukuda N, Funayama C, Furukawa T, Georgiev G, Gladkov A,
Hass M, Imamura K, Inabe N, Ishibashi Y, Kawaguchi T, Kawamura T, Kim W, Kobayashi Y,
Kojima S, Kusoglu A, Lozeva R, Momiyama S, Mukul I, Niikura M, Nishibata H, Nishizaka T,
Odahara A, Ohtomo Y, Ralet D, Sato T, Shimizu Y, Sumikama T, Suzuki H, Takeda H, Tao L. C,
Togano Y, Tominaga D, Ueno H, Yamazaki H, Yang X. F, Daugas J. M:  g Factor of the 99Zr (7/2+) Isomer: Monopole Evolution in the Shape-Coexisting Region.  Physical Review Letters  123 (11) :112501-1 -112501-6 , 2020
2. Ishii K, Izumoto Y, Matsuyama T, Fukutsu K, Sakai Y, Oguri Y, and Yoshii H:  Optimization of a primary X‐ray filter for X‐ray fluorescence analysis of uranium and plutonium.  X-Ray Spectrometry  48 (5) :360 -365 , 2019
3. Izumoto Y, Matsuyama T, Ishii K, Sakai Y, Oguri Y, and Yoshii H:  X-ray fluorescence analysis of samples simulating blood collected from uranium‐contaminated wounds.  X-Ray Spectrometry  48 (5) :438 -442 , 2019
■ 学会発表
国内学会
1. ◎市川弘起, 秋山芽衣子, 宮里桃, 松崎美月, 古川武: ポアンカレ蛍光精密分光に向けた透明電極イオントラップ開発.  日本物理学会第75回年次大会,  愛知,  2020/03
2. 喜馬佑妃, 楠真成, ◎古川武, 飯田進平, 松本淳, 田沼肇, 東俊行, 城丸春夫: 炭素鎖分子負イオンC8-の輻射冷却.  日本物理学会第75回年次大会,  愛知,  2020/03
3. ◎五十嵐裕雪, 坂上裕之, 加藤太治, 村上泉, 本橋健次, 剣持貴弘, 古屋謙治, 古川武, 酒井康弘: 低エネルギーAr+イオンビーム照射によるタングステン表面からの発光スペクトル.  日本物理学会第75回年次大会,  愛知(現地開催中止),  2020/03
4. ◎五十嵐裕雪,坂上裕之,加藤太治,本橋健次,野上慶祐,村上泉,剣持貴弘,古屋謙治,古川武,酒井康弘: イオンビーム照射時にタングステン表面近傍で観測される発光スペクトル.  第13回 東邦大学複合物性研究センターシンポジウム,  千葉,  2019/12
5. ◎市川弘起, 秋山芽衣子, 宮里桃, 松崎美月, 古川武: ポアンカレ蛍光精密分光のための透明電極イオントラップ開発.  第13回 東邦大学複合物性研究センターシンポジウム,  千葉,  2019/12
6. ◎古川武: 孤立分子イオンの冷却過程 ~分子は冷えるか壊れるか~.  第40回原子衝突若手の会秋の学校,  静岡, 日本,  2019/11
7. ◎高村晃大, 伊豆本幸恵, 上床哲明, 酒井康弘, 吉井裕: 海水中ウランを全反射蛍光X線分析で定量するためのウラン抽出法の検討.  第55回X線分析討論会,  福島市,  2019/10
8. ◎上床哲明, 高村晃大, 伊豆本幸恵, 酒井康弘, 吉井裕: 酸化グラフェンで捕集したウランの蛍光X線分析と全反射蛍光X線分析.  第55回X線分析討論会,  福島市,  2019/10
9. ◎古川武: 孤立分子イオンの冷却過程 ~分子は冷えるか壊れるか~.  第一回冷却原子研究会『アトムの会』,  静岡, 日本,  2019/09
10. ◎伊豆本幸恵, 福津久美子, 高村晃大, 小栗慶之, 酒井康弘, 吉井裕: 創傷部ふき取り模擬試料中ウラン及びプルトニウムの蛍光X線分析.  日本原子力学会 2019年秋の大会,  富山市,  2019/09
11. ◎吉井裕, 伊豆本幸恵, 高村晃大, 酒井康弘: ウラン汚染瓦礫酸溶出液の全反射蛍光X線分析によるスクリーニング.  日本原子力学会 2019年秋の大会,  富山市,  2019/09
12. ◎飯田進平, 久間晋, 松本淳, 古川武, 田沼肇, 城丸春夫, 東俊行, Zhaunerchyk Vitali, Hansen Klavs: Si2の振動・回転励起状態を経由した遅延電子脱離.  日本物理学会2019年秋季大会,  岐阜,  2019/09
13. ◎五十嵐裕雪,坂上裕之,加藤太治,本橋健次,野上慶祐,村上泉,剣持貴弘,古屋謙治,古川武,酒井康弘: Ar+イオンビーム照射によりタングステン表面から反跳されるAr+イオンからの発光スペクトル.  原子衝突学会第44回年会,  調布市,  2019/09
14. ◎高村晃大, 伊豆本幸恵,永井宏樹,酒井康弘,吉井裕: 瓦礫中ウランの分析に適した全反射蛍光X線分析装置の開発.  原子衝突学会第44回年会,  調布市,  2019/09
15. ◎市川弘起, 秋山芽衣子, 宮里桃, 古川武: ポアンカレ蛍光精密分光のためのイオントラップ整備.  原子衝突学会第44回年会,  東京,  2019/09
16. ◎松山嗣史, 伊豆本幸恵, 高村晃大, 辻幸一, 酒井康弘, 吉井裕: 飲料水基準レベルウランの全反射蛍光X線分析.  日本分析化学会第79回分析化学討論会,  北九州市,  2019/05
国際学会
1. ◎Izumoto Y, Fukutsu K, Takamura K, Sakai Y, Oguri Y, and Yoshii H: Evaluation of uranium and plutonium in simulated blood extracted from wounds by X-ray fluorescence analysis.  Denver X-ray Conference & The 25th International Conference on X-ray Optics and Microanalysis (DXC & ICXOM-25),  Lombard, USA,  2019/08
2. ◎Yoshii H, Izumoto Y, Matsuyama T, Takamura K, and Sakai Y: TXRF analysis for the screening of uranium surface contamination on demolition debris with sample condensation technique.  Denver X-ray Conference & The 25th International Conference on X-ray Optics and Microanalysis (DXC & ICXOM-25),  Lombard, USA,  2019/08
3. ◎Iida S, Hansen K, Zhaunerchyk V, Kuma S, Matsumoto J, Furukawa T, Azuma T, Tanuma T, Shiromaru H: High-resolution excitation spectroscopy of delayed detachment of Si2-.  31st International Conference on Photonic, Electronic and Atomic Collisions (ICPEAC XXXI),  Deauville, France,  2019/07
4. ◎Matsuyama T, Izumoto Y, Sakai Y, Tsuji K, and Yoshii H: Rapid and effective sample preparation for TXRF analysis of drinking water containing uranium at reference level of risk.  18th International Conference on Total Reflection X-ray Fluorescence Analysis and Related Methods (TXRF-2019),  Girona, Spain,  2019/06
5. ◎Yoshii H, Izumoto Y, Matsuyama T, and Sakai Y: Screening of uranium surface contamination on demolition debris by TXRF analysis.  18th International Conference on Total Reflection X-ray Fluorescence Analysis and Related Methods (TXRF-2019),  Girona, Spain,  2019/06
6. ◎Izumoto Y, Matsuyama T, Takamura K, Nagai H, Sakai Y, Oguri Y, and Yoshii H: TXRF analysis of uranium in the presence of competing elements.  18th International Conference on Total Reflection X-ray Fluorescence Analysis and Related Methods (TXRF-2019),  Girona, Spain,  2019/06
  :Corresponding Author
  :本学研究者