2008年度
 理学部 物理学科 原子過程科学教室
 Atomic Process Science Laboratory

准教授:
  酒井 康弘
■ 概要
1.原子・分子の励起,電離,解離過程に関する研究
電子衝撃による水素,メタン,アンモニア,さらには水など簡単な分子の解離性イオン化の実験を行っている。これらの研究には、最近完成させた散乱電子‒生成イオンの同時測定実験装置を用い、散乱電子のエネルギー分析により励起状態を選択し、その状態からイオン化解離するフラグメントイオンの種類や並進運動エネルギー、そして解離断面積を測定することで,解離過程についての知見を得ている。また、電気通信大学のレーザー新世代研究センター,及び中国合肥の中国科学技術大学,上智大学との共同研究としても行われていて、これまでに,一酸化窒素(NO)の励起微分断面積と一般化振動子強度の測定を行うとともに,希ガスの副殻励起領域,He の2 電子励起領域におけるFano効果に注目した散乱実験を行っている。
2.イオン付着飛行時間法による有機分子のフラグメントフリー計測の研究
一般の質量分析では試料をイオン化する必要があるため,その際に親分子を壊してしまうフラグメンテーション(イオン化解離)がおきることがある。本研究では試料のイオン化にイオン付着法を用い,飛行時間型質量分析器を利用したフラグメントフリー(標的親分子を壊さない)分析装置の開発を行っている。これまでの研究で,質量分解能等には不満が残るもの,フラグメントフリー計測に成功し,気相を対象としたフラグメントフリー計測法としての可能性を示すことができた。
 今後は,この装置を医療用の「呼気分析装置」として開発し,近い将来本学の医学部や薬学部との共同研究へと育てていく予定である
3.多価イオン‒レーザー励起原子衝突における電荷交換反応の研究
半導体レーザーを利用して標的原子を励起させての多価イオン衝突実験である。核融合プラズマ中では,多価イオンと励起原子の関わる衝突過程はプラズマの冷却機構として重要であり,またプラズマ診断のひとつとしても使われていることから,本研究は核融合科学研究所との共同研究として行われている。我々は,励起原子の生成のパートを受け持ち,励起原子生成部を半導体レーザーと共に核融合研究所の多価イオンビームラインへ接続し,励起原子を対象とした多価イオン衝突実験を行っている。励起したルビジウム(Rb)を標的としたヨウ素の30 価以上の多価イオンとの衝突実験では,励起原子からの電荷交換信号が基底状態のそれよりも増加することを定性的に示す結果を得た。
4.(e, 2e)実験による原子・分子の電子状態の研究
標記研究は,東北大学多元物質研究所において行われている共同研究である。(e,2e)実験とは,電子をプロジェクタイルとして入射させ,散乱電子と放出電子の2 つの電素を同時計測する実験を指し,実験条件によりEMS(電子運動量分光法)とも呼ばれる。この実験では,運動量移行の関数として3 重微分断面積(TDCS)と呼ばれる物理量が得られるが,これと空間に対する電子密度(波動関数の2 乗)とはフーリエ変換により結び付けられていることから,軌道ごとの波動関数を直接観測できるといってもよく,電子相関や標的の波動関数のゆがみなどに鋭敏な実験方法である。これまでに,Xe やKrの内殻4s,4p,4d 電子に注目した3 重微分断面積の測定を行い,歪曲波近似等による計算との比較などを行った。
概要
原子過程は,宇宙空間における分子の生成から,身近にある燃焼や化学反応など,そして核融合プラズマ中の反応においても重要な過程の1 つであり,それらを取り巻く物理学のキーを司っている。それらのうち本研究室では,主に電子衝撃による原子や分子の励起や電離,そして解離の過程を中心に研究を行っている。これらは電気通信大学レーザー新世代研究センターや東北大学多元物質研究所,そして中華人民共和国の中国科学技術大学(合肥)とも共同研究を行うなど積極的な外部協力体制を敷いている。また,その実験技術を活かし,新しい先端的な化学計測装置の開発にも取り組んでおり,これまでにもいくつかの助成金を受けてフラグメントフリー質量分析装置を開発し,これを呼気分析装置として完成させるべく研究を行っている。この研究については,本学医学部および薬学部との共同研究を模索中である。さらに,核融合科学研究所,原子分子データセンターとの共同研究により多価イオン衝突の実験的研究も行っていて,核融合研究の基礎研究として位置づけられる多価イオン―励起原子の電荷移行の断面積の絶対測定に挑戦している。
■ Keywords
電子衝突,イオン化解離,解離過程,同時計測,質量分析,フラグメントフリー,呼気分析,先端計測装置開発,多価イオン衝突,電子運動量分光
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成20 年度核融合科学研究所一般共同研究  (研究課題番号:NIFS08KYAM016)
 研究課題:多価イオン-アルカリ土類金属原子衝突による多電子捕獲過程の 研究  (研究代表者:酒井康弘)
 研究補助金:350000円  (代表)
2.  各大学の特色を生かせるきめ細かな支援(知の拠点としての地域貢献支援メニュー群)平成19年度 「地域共同研究支援」(研究課題別)
 研究課題:電子衝突による希ガスの光学的禁制励起におけるFano効果  (研究代表者:酒井康弘)
 研究補助金:1498000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  酒井康弘 :核融合科学研究所共同研究員, 電気通信大学レーザー新世代研究センター共同研究員
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  酒井康弘 :日本物理学会領域1原子分子分科世話人, 原子衝突研究協会運営委員会委員, TMS研究会運営委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















酒井 康弘   准教授
理学博士
              
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発表














酒井 康弘   准教授
理学博士
         
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(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
総説及び解説
1. 酒井康弘:  イオン付着飛行時間法を用いた万能型呼気分析装置の開発.  財団法人中谷電子計測技術振興財団 年報  22 :36-42 , 2008
その他
1. Sakai Y, Iiyama, K, Jin WG, Takagi S, Sakaue, HA, Yamada, I:  Excited Atomic Processes as Fundamental Reseaches for New Plasma Diagnostic.  Annual Report of NIFS April 2007-March 2008  :447 , 2008
■ 学会発表
国内学会
1. ◎高谷一成, 森田圭介, 酒井康弘: イオン付着飛行時間型質量分析計によるフラグメントフリー計測.  日本物理学会2008秋季大会,  盛岡,  2008/10
2. ◎山本果林, 杉原卓伺, 酒井康弘: 散乱電子-イオン同時測定による分子の一般化振動子強度分布の測定.  日本物理学会2008秋季大会,  盛岡,  2008/10
3. ◎高谷一成, 森田圭介, 酒井康弘: イオンアタッチメント法を用いた飛行時間型質量分析装置の応用2.  原子衝突研究協会第33回研究会,  札幌,  2008/08
4. ◎山本果林, 酒井康弘, 杉原卓伺, 花嶋賢太朗, 永谷清信, 杉島明典, 山﨑優一, 足立純一, 柳下明: S2p光励起・電離によるOCS分子の解離ダイナミクス.  原子衝突研究協会第33回研究会,  札幌,  2008/08
5. ◎渡辺昇, 浅野佑策, 酒井康弘, 向山毅, 高橋正彦: 電子運動量分光を用いたXeの内殻イオン化の研究:電子衝突ダイナミクスの入射電子エネルギー依存性.  第24回化学反応討論会2007,  札幌,  2008/06
その他
1. 酒井康弘: 科学作品展の審査、科学論文指導について.  平成20年度 千葉県児童生徒・教職員科学作品展 予備審査会,  千葉,  2008/10
2. 酒井康弘: 科学論文どうすればいいの?テーマ:「温度を測る」.  平成20年度科学作品展指導者研修講座「わくわく自由研究2008」科学論文コース,  船橋,  2008/06
  :Corresponding Author
  :本学研究者