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 理学部 物理学科 磁気物性学教室
 Magnetism and Magnetic Materials Laboratory

教授:
  齊藤 敏明
講師:
  赤星 大介
■ 概要
概要
磁性の研究は物性物理学の中でも重要な分野をなす。当研究室では,主に磁気相転移にからんだフラストレーション系や量子スピン系、強相関系の問題などを取り扱っている。バルク試料作製はもとより、薄膜試料もMBEやスパッタ装置などで作製している。理学部複合物性研究センター(ハイテクリサーチセンター)に所属し,極低温までのSQUID測定(磁化測定、交流帯磁率測定)が可能である。応用と関連してスピントロニクスなどの研究課題にも取り組んでいる。
1. フラストレーション系・量子スピン系
(1) フラストレーションがランダムに分布する系のダイナミクス
交換相互作用が正負競合したり,負だけであっても三角格子を組むなどする場合,あるいは,正だけであっても一軸異方性と競合する場合,すべての相互作用を満足させるスピンの配列が不可能になり,磁気フラストレーションと呼ばれる現象がおきる。このような物質は磁気的な長距離秩序が生じにくくなり,量子スピン液体という状態が期待されている。多くの場合は,完全なフラストレーションが起きず,ランダムな方向を向いて凍結するスピングラス(SG)になったりする。一軸異方性がランダムに分布し,強磁性相互作用との間でフラストレーションを起こす系(ランダム異方性を持つ磁性体,RAM)では,このような場合のひとつの秩序状態としてSGと似てはいるが,緩和時間がSGよりも非常に長くなる状態がある。このスローダイナミクスについて,典型的なRAMであるアモルファスの希土類・Feの合金薄膜を作製し,SQUIDを利用して調べている。

(2) 乱れによるスピン液体状態の秩序化
本来、フラストレーションを起こさないスピネルAサイトのみに磁性イオンを持つCoAl2O4は、作製の条件によって、低温でスピン液体に近い振る舞いをする。
最近では、多重経路の交換相互作用により、フラストレーションが生じ、スパイラススピン液体状態が起こるとされている。我々は、熱処理条件をさまざまにかえて作製し、条件によって低温まで磁気秩序が生じなくなったりスピングラス的なふるまいをしたりすることを見出した。これとAサイト、BサイトのCoインバージョンパラメーターとの関係を調べている。
2. 単分子磁石ネットワークの研究
分子一つ一つが磁石のように振舞う「単分子磁石」(Single Molecule Magnet, SMM)の2次元磁気ネットワークの磁性について、特にダイナミクスについて化学科錯体研究室との共同研究で調べている。異方性の分散と強磁性的相互作用によるフラストレーションに注目し、2次元版スピンアイスのモデルを構築した。また、乱れによって、ランダム異方性を持つ系に秩序化する可能性がある事を示した。
3. 強相関系
(1) Aサイト元素の配列がペロブスカイト型酸化物の機能性に及ぼす効果
ペロブスカイト型酸化物は代表的な強相関電子系物質であり、Aサイト元素の配列(規則-不規則配列)がその電子物性に大きな影響を与えることが知られている。我々は、ペロブスカイト型酸化物を構成する元素の組み合わせや焼成条件などを系統的に変化させることで元素配列の制御を試み、これらの元素配列の仕方が機能性におよぼす効果を調べている。現在はTi-V酸化物を中心に研究を行っている。

(2) Aサイト秩序型RBaMn2O6(R = 希土類)の薄膜試料作製
ペロブスカイト型構造を持つMn酸化物は、磁場を印加することで電気抵抗が数桁以上も減少することで知られている(超巨大磁気抵抗(CMR)効果)。ペロブスカイト型Mn酸化物の中でも、Aサイト元素が規則配列した構造を持つNdBaMn2O6は室温付近に多重臨界点を持つため、室温CMRの発現が期待されている。現在、我々はNdBaMn2O6の薄膜試料作製およびエピタキシャル歪みを利用した機能性制御を試みている。
4. 磁気多層膜の磁気的性質の研究
分子線エピタクシー(MBE)装置や高真空マグネトロンスパッタ装置により磁性体の多層膜を作製している。最近ではMgO(100)、MgO(111)基板上にエピタキシャルにFe/Cr(100)、Fe/Cr(110)層をエピタキシャルに積んで、界面フラストレーションと磁気ダイナミクスの関係を見る事を進めている。RFスパッタリング装置ではペロブスカイト系の薄膜を基板を変えて作製し、エピタキシャル歪みによる物性制御を試みている。
■ Keywords
フラストレーション, 量子スピン系, 強相関系、ランダム異方性, スピンアイス, スピングラス,スピン液体, ペロブスカイト, スピントロニクス,磁気多層膜, トンネル磁気抵抗効果(TMR), 超巨大磁気抵抗効果(CMR), 分子磁石ネットワーク、エピタキシャル歪み
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  科学研究費補助金 基盤研究(C)  (研究課題番号:22540351)
 研究課題:フラストレーションを持つ単分子磁石連結2次元ネットワークにおける磁気ダイナミクス  (研究代表者:齊藤敏明)
 研究補助金:1170000円  (代表)
2.  科学研究費補助金 基盤研究(C)  (研究課題番号:22560786)
 研究課題:宇宙機用放射率可変型ラジエータ材料の研究  (研究分担者:赤星大介)
 研究補助金:300000円  (分担)
3.  材料科学技術振興財団研究助成
 研究課題:秩序型ペロブスカイトRBaMn2O6(Rは希土類)の薄膜試料作製  (研究代表者:赤星大介)
 研究補助金:1000000円  (代表)
その他
1.  学内補助金 基盤研究(B)
 研究課題:秩序型ペロブスカイトマンガン酸化物の薄膜試料作製および正方晶歪みを利用した相制御  (研究代表者:赤星大介)
 研究補助金:820000円  (代表)
2.  学内補助金 基盤研究(B)
 研究課題:秩序型ペロブスカイトマンガン酸化物の薄膜試料作製および正方晶歪みを利用した相制御  (研究代表者:赤星大介)
 研究補助金:820000円  (代表)
3.  学内補助金 基盤研究(B)
 研究課題:秩序型ペロブスカイトマンガン酸化物の薄膜試料作製および正方晶歪みを利用した相制御  (研究代表者:赤星大介)
 研究補助金:820000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  齊藤敏明 :企画調整委員, 入試委員, 自己点検評価委員
2.  赤星大介 :広報委員, 排水管理委員
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  齊藤敏明 :日本磁気学会論文委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















齊藤 敏明   教授
理学博士
    2          
 11
(2)
 
 
 
 
赤星 大介   講師
理学博士
   1 3          1
 10
(2)
 
 
 
 
 0 1  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














齊藤 敏明   教授
理学博士
         
 
 
赤星 大介   講師
理学博士
  1       1
 
 
 0 1  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Yasuhiro MIYAUCHI, Mitsuru AKAKI, Daisuke AKAHOSHI1, Hideki KUWAHARA:  Electron- and Hole-Doping Effects on A-Site Ordered NdBaMn2O6.  Journal of the Physical Society of Japan  80 (7) :074708 , 2011
2. Shungo Nakayama, Ryouta Nakamura, Mitsuru Akaki, Daisuke Akahoshi, Hideki Kuwahara:  Ferromagnetic Behavior of (Fe1-yZny)2Mo3O8 (0 ≤ y ≤ 1) Induced by Nonmagnetic Zn Substitution.  Journal of the Physical Society of Japan  80 :104706 , 2011
3. Daisuke Akahoshi, Jun-ichiro Tozawa, Ryouta Nakamura, Mitsuru Akaki, Hideki Kuwahara:  Magnetic and transport properties of quasi two-dimensional ferromagnet Sr3Fe2-xCoxO7-d (x = 0.2 and 0.5).  Journal of the Physical Society of Japna  80 :124702 , 2011
4. Takafumi KITAZAWA, Hitomi Sato Chihiro KACHI-TERAJIMA, Kazuki YOSHIDA, Hidesugu TAKAGAKI, Chikahide KANADANI Toshiaki SAITO:  Aqua cadmium cyanide coordination polymer with nitronyl nitroxide radical.  Polyhedron  30 (18) :3054 , 2011
5. Kazuki YOSHIDA, Takashi KOSONE, Chikahide KANADANI, Toshiaki SAITO, Takafumi KITAZAWA:  Crystal structure and magnetic property of spin crossover complex FeII(3-phenylpyridine)2[AuI(CN)2]2.  Polyhedron  30 (18) :3062 , 2011
その他
1. Mitsuru AKAKI, Masaaki HITOMI, Mizuaki EHARA, Daisuke AKAHOSHI1, Hideki KUWAHARA:  Anomalous Coexistence of Ferroelectric Phases (P // a and P // c) in Orthorhombic Eu1-yYyMnO3 (y > 0.5) Crystals.  Journal of the Physical Society of Japan  80 :094706 , 2011
■ 学会発表
国内学会
1. ◎坂井慎吾, 納谷麻衣子, 堀江弘樹, 赤星大介, 齊藤敏明: Aサイト欠損型ペロブスカイトRE1-xTiO3(RE = La,Pr,Nd)の化学置換による構造と物性変化II.  日本物理学会,  西宮市,  2012/03
2. ◎児玉悠太, 鶴田宏輔, 赤星大介, 齊藤敏明: Bサイトを乱したDy2(Ti1-xZrx)2O7におけるスピンアイスの融解.  日本物理学会,  西宮市,  2012/03
3. ◎中村隆一, 橋本拓馬, 中村洋文, 峰野祐輔, 野村昌弘, 赤星大介, 齊藤敏明: 界面フラストレーションを持つエピタキシャルFe/Cr二層膜におけるスローダイナミクスの機構.  日本物理学会,  西宮市,  2012/03
4. ◎赤星大介, 坂井慎吾, 納谷麻衣子, 堀江弘樹, 齊藤敏明: R1–xTiO3(Rは希土類)のAサイト欠損制御.  日本セラミックス協会,  京都市,  2012/03
5. ◎坂井慎吾, 納谷麻衣子, 堀江弘樹, 赤星大介, 齊藤敏明: Aサイト欠損型ペロブスカサイトRE 1-xTiO3(RE = La,Pr,Nd)の化学置換による構造と物性変化.  日本磁気学会,  富山市,  2011/09
6. ◎花島健太郎, 大熊雄貴, 児玉悠太, 赤星大介, 齊藤敏明: スピネル化合物Co(Al1-xBx )2O4 (B = Co, Rh) の磁気的フラストレーションに及ぼすBサイトの乱れの効果 Ⅱ.  日本物理学会,  富山市,  2011/09
7. ◎三橋賢, 天田祥太, 横須賀伸, 赤星大介, 齊藤敏明: RFスパッタリング法による秩序型Nd0.5Ba0.5MnO3の薄膜作製と評価.  日本物理学会,  富山市,  2011/09
8. ◎児玉悠太, 加知千裕, 中村健太, 石井梨夏子, 赤星大介, 宮坂等, 齊藤敏明: 2次元スピンアイス的な単分子磁石ネットワークにおける乱れの磁気転移に与える影響.  日本磁気学会,  富山市,  2011/09
9. ◎中村隆一, 中村洋文, 橋本拓馬, 峰野祐輔, 野村昌弘, 赤星大介, 齊藤敏明: エピタキシャルFe/Cr二層膜の界面フラストレーションと熱残留磁化の緩和Ⅱ.  日本物理学会,  富山市,  2011/09
10. ◎中村健太、山岸晧彦、田村堅志、加知千裕、齊藤敏明、赤星大介: 粘土鉱物層間への単分子磁石インターカレーションとその磁性.  第61回錯体化学討論会,  岡山,  2011/09
11. ◎中村健太、山岸晧彦、田村堅志、加知千裕、齊藤敏明、赤星大介: 層状ケイ酸塩への単分子磁石インターカレーション.  第55回粘土科学討論会,  鹿児島,  2011/09
  :Corresponding Author
  :本学研究者