<<< 前 2008年度 | 2009年度 | 2010年度
 理学部 物理学科 磁気物性学教室
 Magnetism and Magnetic Materials Laboratory

教授:
  齊藤 敏明
講師:
  赤星 大介
■ 概要
概要
磁性の研究は物性物理学の中でも重要な分野をなす。当研究室では,主に磁気相転移にからんだフラストレーション系や量子スピン系、強相関系の問題などを取り扱っている。バルク試料作製はもとより、薄膜試料もMBEやスパッタ装置などで作製している。理学部複合物性研究センター(ハイテクリサーチセンター)に所属し,極低温までのSQUID測定(磁化測定、交流帯磁率測定)が可能である。応用と関連してスピントロニクスなどの研究課題にも取り組んでいる。
1. フラストレーション系・量子スピン系
(1) フラストレーションがランダムに分布する系のダイナミクス
交換相互作用が正負競合したり,負だけであっても三角格子を組むなどする場合,あるいは,正だけであっても一軸異方性と競合する場合,すべての相互作用を満足させるスピンの配列が不可能になり,磁気フラストレーションと呼ばれる現象がおきる。このような物質は磁気的な長距離秩序が生じにくくなり,量子スピン液体という状態が期待されている。多くの場合は,完全なフラストレーションが起きず,ランダムな方向を向いて凍結するスピングラス(SG)になったりする。一軸異方性がランダムに分布し,強磁性相互作用との間でフラストレーションを起こす系(ランダム異方性を持つ磁性体,RAM)では,このような場合のひとつの秩序状態としてSGと似てはいるが,緩和時間がSGよりも非常に長くなる状態がある。このスローダイナミクスについて,典型的なRAMであるアモルファスの希土類・Feの合金薄膜を作製し,SQUIDを利用して調べている。

(2) 乱れによるスピン液体状態の秩序化
本来、フラストレーションを起こさないスピネルAサイトのみに磁性イオンを持つCoAl2O4は、作製の条件によって、低温でスピン液体に近い振る舞いをする。
最近では、多重経路の交換相互作用により、フラストレーションが生じ、スパイラススピン液体状態が起こるとされている。我々は、熱処理条件をさまざまにかえて作製し、条件によって低温まで磁気秩序が生じなくなったりスピングラス的なふるまいをしたりすることを見出した。これとAサイト、BサイトのCoインバージョンパラメーターとの関係を調べている。
2. 単分子磁石ネットワークの研究
分子一つ一つが磁石のように振舞う「単分子磁石」(Single Molecule Magnet, SMM)の2次元磁気ネットワークの磁性について、特にダイナミクスについて化学科錯体研究室との共同研究で調べている。異方性の分散と強磁性的相互作用によるフラストレーションに注目し、2次元版スピンアイスのモデルを構築した。また、乱れによって、ランダム異方性を持つ系に秩序化する可能性がある事を示した。
3. 強相関系
(1) Aサイト元素の配列がペロブスカイト型酸化物の機能性に及ぼす効果
ペロブスカイト型酸化物は代表的な強相関電子系物質であり、Aサイト元素の配列(規則-不規則配列)がその電子物性に大きな影響を与えることが知られている。我々は、ペロブスカイト型酸化物を構成する元素の組み合わせや焼成条件などを系統的に変化させることで元素配列の制御を試み、これらの元素配列の仕方が機能性におよぼす効果を調べている。現在はTi-V酸化物を中心に研究を行っている。

(2) Aサイト秩序型RBaMn2O6(R = 希土類)の薄膜試料作製
ペロブスカイト型構造を持つMn酸化物は、磁場を印加することで電気抵抗が数桁以上も減少することで知られている(超巨大磁気抵抗(CMR)効果)。ペロブスカイト型Mn酸化物の中でも、Aサイト元素が規則配列した構造を持つNdBaMn2O6は室温付近に多重臨界点を持つため、室温CMRの発現が期待されている。現在、我々はNdBaMn2O6の薄膜試料作製およびエピタキシャル歪みを利用した機能性制御を試みている。
4. 磁気多層膜の磁気的性質の研究
分子線エピタクシー(MBE)装置や高真空マグネトロンスパッタ装置により磁性体の多層膜を作製している。最近ではMgO(100)、MgO(111)基板上にエピタキシャルにFe/Cr(100)、Fe/Cr(110)層をエピタキシャルに積んで、界面フラストレーションと磁気ダイナミクスの関係を見る事を進めている。RFスパッタリング装置ではペロブスカイト系の薄膜を基板を変えて作製し、エピタキシャル歪みによる物性制御を試みている。
5. 放射光を利用したMgO単結晶トンネル障壁を持つトンネル磁気抵抗多層膜界面の電子状態の研究
MgOの単結晶障壁を持つトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)の中には室温で500%という高い磁気抵抗比を示すものがあり,高性能の磁気ヘッドやMRAMとよばれる新しいメモリーの素材として注目を集めている。この大きなTMR発現には素子の強磁性体電極と絶縁体層の界面の状態が重要な鍵を握る。我々は産総研のスピントロニクスグループ,北大,高エネ研との共同研究によりAl2O3層やMgO層に接したCoやFeの1層およびエッジ層,あるいはホイスラー合金超薄膜層のMnとCoの電子状態を高エネ研にて放射光でx-ray absorption spectroscopy (XAS)やx-ray magnetic circular dichroism (XMCD)を測定することにより調べた。放射光では磁性原子の内殻からの吸収を選択的に十分な強度で見ることができるので,Co,Fe,Mnなどの1原子層の電子状態が観測でき,解析により,スピンおよび軌道磁気モーメントの値が得られる。
■ Keywords
フラストレーション, 量子スピン系, 強相関系、ランダム異方性, スピンアイス, スピングラス,スピン液体, ペロブスカイト, スピントロニクス,磁気多層膜, トンネル磁気抵抗効果(TMR), 超巨大磁気抵抗効果(CMR), 放射光,分子磁石ネットワーク
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成22年度科学研究費 基盤研究(C)  (研究課題番号:22540351)
 研究課題:フラストレーションを持つ単分子磁石連結2次元ネットワークにおける磁気ダイナミクス  (研究代表者:齊藤敏明)
 研究補助金:1430000円  (代表)
2.  平成22年度科研費 基盤研究(C)
 研究課題:宇宙機用放射率可変型ラジエータ材料の研究  (研究分担者:赤星大介)
 研究補助金:520000円  (分担)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  齊藤敏明 :就職委員長, 就職主任, 人権およびセクシャル・ハラスメント情報委員, 自己点検評価委員
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  齊藤敏明 :日本磁気学会論文委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















齊藤 敏明   教授
理学博士
   1           
 10
 
 5
 
 
赤星 大介   講師
理学博士
    5          
 13
(5)
 
 5
(3)
 1
(1)
 
 0 1  0 0  0  0
(0)
 0
(0)
 1
(1)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














齊藤 敏明   教授
理学博士
  1       
 
 
赤星 大介   講師
理学博士
         
 
 1
(1)
 0 1  0 0  0  0
(0)
 0
(0)
 1
(1)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. M. Akaki, J. Tozawa, M. Hitomi, D. Akahoshi, H. Kuwahara:  Magnetoelectric properties of (Ca1-xSrx)2CoSi2O7 crystals.  J. Physics: Conference Series  200 :012003 , 2010
2. Y. Miyauchi, S. Fukushima, J. Tozawa, M. Akakai, H. Kuwahara, D. Akahoshi:  R-site randomness effect in double-perovskite RBaMn2O6.  J. Physics: Conference Series  200 :012123 , 2010
3. J. Tozawa, M. Akaki, D. Akahoshi, H. Kuwahara, K. Itatani:  A-site substitution effect on physical properties of Sr3Fe2−xCoxO7−δ.  J. Physics: Conference Series  200 :012209 , 2010
4. I. Katakura, M. Tokunaga, A. Matsuo, K. Kawaguchi, K. Kindo, M. Hitomi, D. Akahoshi, H. Kuwahara:  Development of the High-Field Imaging System in Pulsed-High Magnetic Fields and Its Application to Manganites.  Journal of Low Temperature Physics  159 (1-2) :319-323 , 2010
5. M. Hitomi, M. Ehara, M. Akaki, D. Akahoshi, H. Kuwahara:  The Effect of fd Magnetic Coupling in Multiferroic RMnO3 Crystals.  Journal of the Physical Society of Japan  79 (5) :054704 , 2010
6. Toshiaki Saito, Toshikazu Katayama, Takayuki Ishikawa, Masafumi Yamamoto, Daisuke Asakura, Tsuneharu Koide, Yoshio Miura and Masafumi Shirai:  Interface structure of half-metallic Heusler alloy Co2MnSi thin films facing an MgO tunnel barrier determined by x-ray magnetic circular dichroism.  Physical Review B  81 :1444171-1444176 , 2010
■ 学会発表
国内学会
1. ◎加知千裕、中村健太、赤星大介、齊藤敏明、北澤孝史、宮坂等: 単分子磁石の2次元ネットワーク錯体における磁化緩和ダイナミクス.  日本化学会第91春季大会,  横浜,  2011/03
2. ◎中村健太、加知千裕、山岸晧彦、赤星大介、齊藤敏明、北澤孝史: 粘土鉱物層間にインターカレートした単分子磁石の磁性.  日本化学会第91春季大会,  横浜,  2011/03
3. ◎花島健太郎,児玉悠太,赤星大介,齊藤敏明: スピネル化合物Co(Al1-xBx)2O4 (B = Co, Rh) の磁気的フラストレーションに及ぼすBサイトの乱れの影響.  日本物理学会第66回年次大会,  新潟,  2011/03
4. ◎野村昌弘,木場智哉,中村隆一,赤星大介,齊藤敏明: エピタキシャルFe/Cr二層膜の界面フラストレーションと熱残留磁化の緩和.  日本物理学会第66回年次大会,  新潟,  2011/03
5. 中村亮太, 赤木暢, 赤星大介, 板谷清司, 桑原英樹: Sr3Fe2-xCoxO7-δの酸素欠損量制御による物性変化II.  日本物理学会,  新潟大学,  2011/03
6. ◎三橋賢,奥谷彰吾,小林晴香,赤星大介,齊藤敏明: RFスパッタリング法によるペロブスカイト型基板を用いた秩序型Nd0.5Ba0.5MnO3の薄膜作製.  日本物理学会第66回年次大会,  新潟,  2011/03
7. ◎加知千裕、石井恵美、齊藤敏明、金谷親英、北澤孝史: アキラルなCu(II)錯体から構築するらせん型キラル一次元集積体の構造とその磁性.  第60回錯体化学討論会・国際会議,  大阪,  2010/09
8. ◎花島健太郎,児玉悠太、赤星大介,金谷親英,齊藤敏明: スピネル化合物CoAl2O4のインバージョン制御と幾何学的フラストレーション.  日本物理学会 2010年秋季大会,  大阪,  2010/09
9. ◎野村昌弘,木場智哉,中村隆一,赤星大介,齊藤敏明: エピタキシャルFe(110)/Cr(110)多層膜における界面の乱れとフラストレーション.  日本物理学会 2010年秋季大会,  大阪,  2010/09
10. 井土ゆかり, 眞下優, 赤木暢, 赤星大介, 板谷清司, 桑原英樹: 高ドープNd1-xSrxMnO3結晶(x > 0.5)のBサイト不純物置換による軌道秩序相制御II.  日本物理学会,  大阪府立大学,  2010/09
11. 大原泰明, 久保田正人, 赤木暢, 赤星大介, 桑原英樹: Nd0.33Sr1.67MnO4の磁気構造III.  日本物理学会,  大阪府立大学,  2010/09
12. 中山隼吾, 渡邊拓郎, 中村亮太, 赤木暢, 赤星大介, 桑原英樹: Fe2Mo3O8の遷移金属置換による磁気特性変化.  日本物理学会,  大阪府立大学,  2010/09
13. ◎三橋賢,奥谷彰吾,小林晴香,赤星大介,齊藤敏明: RFスパッタリング法による秩序型ペロブスカイトMn酸化物の薄膜作製.  日本物理学会 2010年秋季大会,  大阪,  2010/09
14. 宮内康宏, 赤木暢, 赤星大介, 板谷清司, 桑原英樹: 秩序型RBaMn2O6におけるBaサイトへのR置換効果.  日本物理学会,  大阪府立大学,  2010/09
15. ◎Y. Miura, M. Shirai, T. Saito, T. Katayama, T. Ishikawa, M. Yamamoto, D. Asakura, T. Koide: Investigation of Interface Structures of Co2MnSi/ MgO(001) by X-ray Magnetic Circular Dichroism and Firstprinciples calculations.  日本磁気学会学術講演会,  つくば市,  2010/09
国際学会
1. ◎Masahiro Nomura, Tomoya Koba, Ryuichi Nakamura, Chikahide Kanadani, Daisuke Akahoshi and Toshiaki Saito: Interfacial disorder and magnetic frustration in epitaxial Fe/Cr/Fe trilayers studied by thermoremanent magnetization.  International Conference on Frustration in Condensed Matter (ICFCM),  仙台,  2011/01
2. M. Akaki, M. Ehara, D. Akahoshi, H. Kuwahara: Electric polarization induced by the spin-dependent p-d hybridization in A2CoSi2O7 (A=Ca, Sr) crystals.  3rd APCTP Workshop on Multiferroics 2011 January 17-19,  Waseda University, Tokyo, Japan,  2011/01
3. M. Ehara, H. Iwamoto, M. Akaki, D. Akahoshi, H. Kuwahara: Electric polarization coupled with ferrimagnetic transition in ABaCo4O7 with noncentrosymmetric structure.  3rd APCTP Workshop on Multiferroics 2011 January 17-19,  Waseda University, Tokyo, Japan,  2011/01
4. Y. Izuchi, S. Mashimo, M. Akaki, D. Akahoshi, H. Kuwahara: Control of Orbital-ordered Phases by Impurity Substitution in Heavily-doped Nd1-xSrxMnO3.  2010 Materials Research Society Fall Meeting November 29-December 3, 2010,  Boston, Massachusetts,  2010/12
5. ◎Y. Miura, M. Shirai, T. Saito, T. Katayama, T. Ishikawa, M. Yamamoto, D. Asakura, and T. Koide: Structural and magnetic properties at Co2MnSi/MgO(001) interfaces studied by x-ray magnetic circular dichroism and first-principles calculations.  55th Annual Conference on Magnetism & Magnetic Materials (MMM2010),  Atlanta, USA,  2010/11
6. ◎Chihiro Kachi-Terajima,Tasuku Eiba, Toshiaki Saito, Chikahide Kanadani, Daisuke Akahoshi,Takafumi Kitazawa and Hitoshi Miyasaka: SLOW RELAXATION OF MAGNETIZATION ON A TWO-DIMENSIONAL NETWORK BASED ON Mn(III) SALEN-TYPE SINGLE MOLECULE MAGNET.  The 12th International Conference on Molecule-Based Magnets (ICMM),  Beijing, China,  2010/10
7. ◎Takafumi KITAZAWA, Hitomi SATO, Chihiro KACHI-TERAJIMA, Hidetsugu TAKAGAKI, Chikahide KANADANI, Toshiaki SAITO: Cadmium Cyanide Coordination Polymer with Nitronyl Nitroxide Radical.  第60回錯体化学討論会・国際会議,  大阪,  2010/09
8. ◎C. Kachi-Terajima, Y. Kuboki, N. Kimura, C. Kanadani, T. Saito, T. Kitazawa: Solvent-Dependent Coordination Structures of Dinuclear Lanthanide Complexes with TCNQ Radicals.  the 39th International Conference on Coordination Chemistry (ICCC39),  Adelaide, Australia,  2010/07
その他
1. D. Akahoshi: Colossal Magnetoresistance Effect of Cation Ordered Perovskite Manganite.  The 4th High-Tech Research Center Symposium "Recent Topics in Material and Life Sciences,  Toho University,  2010/11
  :Corresponding Author
  :本学研究者