2008年度
 理学部 物理学科 磁気物性学教室
 Magnetism and Magnetic Materials Laboratory

教授:齊藤 敏明
■ 概要
概要
磁性の研究は物性物理学の中でも重要な分野をなす。当研究室では,主に磁気相転移にからんだフラストレーション系や量子スピン系、重い電子系の問題などを取り扱っている。理学部複合物性研究センター(ハイテクリサーチセンター)にも所属し,極低温までのSQUID測定(磁化測定、交流帯磁率測定)が可能になった。また,分子磁石ネットワーク、圧力でさまざまに物性が変化する有機固体の磁性研究も共同研究で進行中である。他方で,応用面について,高密度記録媒体の熱揺らぎ問題,スピントロニクスなどの研究課題にも取り組んでいる。
1. フラストレーションを持つ系のスローダイナミクス
交換相互作用が正負競合したり,負だけであっても三角格子を組むなどする場合,あるいは,正だけであっても一軸異方性と競合する場合,すべての相互作用を満足させるスピンの配列が不可能になり,磁気フラストレーションと呼ばれる現象がおきる。このような物質は磁気的な長距離秩序が生じにくくなり,量子スピン液体という状態が期待されている。多くの場合は,完全なフラストレーションが起きず,ランダムな方向を向いて凍結するスピングラス(SG)になったりする。一軸異方性がランダムに分布し,強磁性相互作用との間でフラストレーションを起こす系(ランダム異方性を持つ磁性体,RAM)では,このような場合のひとつの秩序状態としてSGと似てはいるが,緩和時間がSGよりも非常に長くなる状態がある。このスローダイナミクスについて,典型的なRAMであるアモルファスの希土類・Feの合金薄膜を作製し,SQUIDを利用して調べている。
2. 単分子磁石ネットワークの研究
分子一つ一つが磁石のように振舞う「単分子磁石」(Single Molecule Magnet, SMM)の2次元磁気ネットワークの磁性について、特にダイナミクスについて化学科錯体研究室、東北大との共同研究で調べている。異方性の分散と強磁性的相互作用によるフラストレーションに注目し、2次元版スピンアイスやランダム異方性を持つ系の可能性がある事を示してきた。
3. 量子スピン系・フラストレーション系と圧力効果
低温でスピン液体に近い振る舞いをする、幾何学的フラストレーションを持つスピネル化合物に物理的な圧力を加え、その磁気的性質の変化を調べている。特に圧力により、フラストレーションの度合の変化を期待している。
4. 放射光を利用したMgO単結晶トンネル障壁を持つトンネル磁気抵抗多層膜界面の電子状態の研究
現在,MgOの単結晶障壁を持つトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)の中には室温で500%という高い磁気抵抗比を示すものがあり,高性能の磁気ヘッドやMRAMとよばれる新しいメモリーの素材として注目を集めている。この大きなTMR発現には素子の強磁性体電極と絶縁体層の界面の状態が重要な鍵を握る。我々は産総研のスピントロニクスグループ,北大,高エネ研との共同研究によりAl2O3層やMgO層に接したCoやFeの1層およびエッジ層,あるいはホイスラー合金超薄膜層のMnとCoの電子状態を高エネ研にて放射光でx-ray absorption spectroscopy (XAS)やx-ray magnetic circular dichroism (XMCD)を測定することにより調べた。放射光では磁性原子の内殻からの吸収を選択的に十分な強度で見ることができるので,Co,Fe,Mnなどの1原子層の電子状態が観測でき,解析により,スピンおよび軌道磁気モーメントの値が得られる。
5. 磁気多層膜の磁気的性質の研究
分子線エピタクシー(MBE)装置や高真空マグネトロンスパッタ装置により磁性体の多層膜を作製している。最近ではMgO(100)、MgO(111)基板上にエピタキシャルにFe/Cr(100)、Fe/Cr(110)層をエピタキシャルに積んで、界面フラストレーションと磁気ダイナミクスの関係を見る事を進めている。RFスパッタリング装置では重い電子系薄膜を作製中で、次元との関係を見ることを試みている。その他,磁気記録材料の関係では,SmCoCu/Smなどの多層膜を作製し,TiやCuなどの下地層なしで、大きな保磁力と垂直磁気異方性を持つ事を示した。
6. 有機伝導体の圧力下での磁気測定
有機伝導体における電荷整列,スピンパイエルス転移に伴う帯磁率の冷却速度依存性,圧力下でSQUIDによる磁化測定を行うための小型圧力セルの開発などの課題を,物性物理学教室,物性研,理研などと共同で行った。
■ Keywords
フラストレーション, 量子スピン系, ランダム異方性, スピングラス,スピントロニクス,磁気多層膜, 重い電子系, トンネル磁気抵抗効果, 放射光,有機伝導体,分子磁石ネットワーク,高密度磁気記録媒体
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  齊藤敏明 :入試委員
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  齊藤敏明 :日本磁気学会論文委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















齊藤 敏明   教授
理学博士
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(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Takeshi Kawasaki, Chihiro Kachi-Terajima, Toshiaki Saito, and Takafumi Kitazawa:  Triply Interpenetrated Structure of {MnII(L2)[AgI(CN)2]2}-{MnII(H2O)2[AgI(CN)2]2} (L = 4-CNpy or py-4-aldoxime).  Bulletin of the Chemical Society of Japan  81 :268-273 , 2008
2. Takashi Kosone, Chihiro Kachi-Terajima, Chikahide Kanadani, Toshiaki Saito, Takafumi Kitazawa:  Isotope Effect on Spin-crossover Transition in New Two-Dimensional Coordination Polymer [FeII(C5H5N)2][AuI(CN)2]2, [FeII(C5D5N)2][AuI(CN)2]2, and [FeII(C5H515N)2][AuI(CN)2]2.  Chemistry Letters  37 (7) :754-755 , 2008
3. Takashi Kosone, Chihiro Kachi-Terajima, Chikahide Kanadani, Toshiaki Saito, and Takafumi Kitazawa:  A Two-step and Hysteretic Spin-crossover Transition in New Cyano-bridged Hetero-metal FeIIAuI 2-Dimensional Assemblage.  Chemistry Letters  37 :422-423 , 2008
■ 学会発表
国内学会
1. ◎金谷親英,齊藤敏明,田畑吉計: 圧力下磁化測定から見た重い電子系Ce(Ru0.9Rh0.1)2(Si1-yGey)2の局在-遍歴相転移.  日本物理学会第64回年次大会,  東京,  2009/03
2. ◎齊藤敏明, 加知千裕, 金谷親英, 西尾 豊, 北澤孝史, 宮坂 等: 異方性と交換相互作用の競合によるフラストレーションを持つ層状2次元分子
磁石ネットワーク化合物のダイナミクスII.  日本物理学会第64回年次大会,  東京,  2009/03
3. ◎金谷親英, 齊藤敏明, 西尾豊, 梶田晃示, 山本浩史, 田嶋尚也, 加藤礼三: alpha-ET2I3のゼロギャップ近傍における磁性.  日本物理学会2008年秋季大会,  盛岡,  2008/09
4. ◎森本雄也、齊藤敏明、金谷親英: アモルファス(Zr1-xDyx)33Fe67におけるランダム異方性のダイナミクスに与える影響.  日本物理学会2008年秋季大会,  盛岡,  2008/09
5. ◎齊藤敏明、加知千裕、金谷親英、北澤孝史、宮坂 等: 異方性と交換相互作用の競合によるフラストレーションを持つ層状2次元分子磁石ネットワーク化合物のダイナミクス.  日本物理学会2008年秋季大会,  盛岡,  2008/09
6. ◎岸田貴範、小曾根 崇、金谷親英、齊藤敏明、北澤孝史: ホフマン型スピンスロスオーバー錯体Fe(pyridine)2M(CN)4(M =Pd, Pt)の磁気挙動.  第2回分子科学討論会,  福岡,  2008/09
7. ◎持田智行、稲垣尭、高橋正、金谷親英、齊藤敏明: フェロセン系イオン液体(2):電子物性.  第2回分子科学討論会,  福岡,  2008/09
8. ◎岸田貴範、小曾根 崇、金谷親英、齊藤敏明、北澤孝史: Spin Crossover挙動を示すFe(II)-M(II)系(M=Pd, Pt) 配位高分子錯体の合成と特性評価.  第58回錯体化学討論会,  金沢,  2008/09
9. 稲垣尭・持田智行・金谷親英・齊藤敏明: メタロセン系磁性イオン液体の合成と物性.  第58回錯体化学討論会,  金沢,  2008/09
国際学会
1. ◎Kachi-Terajima C, Saito T, Kanadani C, Kitazawa T, Miyasaka H: MnIII salen-type single-molecule magnet fixed in a two-dimensional network.  The 11th International Conference on Molecule-based Magnets,  Florence, Italy,  2008/09
その他
1. ◎加知千裕, 齊藤敏明, 金谷親英, 北澤孝史, 宮坂等: 二次元ネットワーク構造に埋め込まれたMnサレン錯体の単分子磁石挙動.  第2回 東邦大学複合物性研究センターシンポジウム(新規多機能有機素材の創成と評価),  船橋,  2008/10
2. ◎金谷親英, 齊藤敏明, 西尾豊, 梶田晃示, 山本浩史, 田嶋尚也, 加藤礼三: 分子性導体a-(BEDT-TTF)2I3のゼロギャップ状態における磁性.  第2回 東邦大学複合物性研究センターシンポジウム(新規多機能有機素材の創成と評価),  船橋,  2008/10
3. ◎小山路子, 金谷親英, 齊藤敏明, 西尾豊, 梶田晃示, 森初果: 圧力下における有機伝導体θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4の磁化率測定より見た電荷秩序転移.  第2回 東邦大学複合物性研究センターシンポジウム(新規多機能有機素材の創成と評価),  船橋,  2008/10
4. ◎齊藤敏明,加知千裕,金谷親英,北澤孝史,宮坂等: フラストレーションを持つ2次元強磁性的分子磁石ネットワークのダイナミクス.  第2回 東邦大学複合物性研究センターシンポジウム(新規多機能有機素材の創成と評価),  船橋,  2008/10
  :Corresponding Author
  :本学研究者