2008年度
 理学部 物理学科 表面物理学教室
 Surface Physics Laboratory
■ 概要
MgO(001)面へのメタノール吸着の観察
メタノールは水と同様にOH基を持つとともに洗浄剤として広く用いられていることから、固体へのメタノール吸着は興味ある研究対象となる。本研究室では電子衝撃脱離法によりMgO表面へのメタノール吸着を観察してきた。前年度までの研究では、メタノール曝露試料を液体メタノール中での劈開により作成した。この方法では真空槽に入れる間、大気の曝露を避けられない。今年度は大気中で劈開した試料を超高真空中で加熱することにより劈開面を清浄化した後、気体メタノール曝露を行なった。700℃、12時間の試料加熱を行なう事により脱離スペクトルには、水素を除いてMgOの酸素とフッ素(不純物)以外殆ど観察されなかった。5×105(L)の曝露後12種類のメタノール由来の脱離子が観察された。この方法により、大気成分の気体吸着の影響を受けない脱離スペクトルが得られ、(001)清浄面へのメタノール吸着が明らかになった。
ゲータイト(α-FeOOH)へのカドミウム吸着の観察
重金属による土壌汚染は重大な環境問題の一つとなっており、粘土鉱物への重金属収着機構の解明は問題解決の前提として重要な意義を持っている。Cdを収着させた粘土鉱物を北里大学で作成し、本研究室でTPD(Temperature programmed desorption ) 法を用いて吸着状態の観察を行なっている。前年度までにモンモリロナイト・パイロフィライト・ハイドロアルミナムモンモリロナイト、ゲータイトを用いてTPD実験を行なった。今年度はゲータイトについて光電子分光法とアルゴンイオンスパッタリングにより吸着Cd層の内部構造と原子間力顕微鏡(AFM)による表面構造の観察を試みた。ゲータイトは約150℃から水の脱離が始まり約450℃で脱離速度は最大となる。ゲータイトは水の脱離によりヘマタイトへと構造・組成が変化する。約550℃からO2の脱離が始まり1000℃以上で急激に脱離量が増えヘマタイトの熱分解が起こり始めた事を示唆する。Cdの脱離は約300℃辺りから僅かに始まるが、700℃辺りから急激に脱離速度が増加し約1100℃でピークに達する。ゲータイトの収着サイトは{110}と{021}であるが、ヘマタイトへの転移温度領域でCd脱離量が少ないことから、{110}ならばO2-原子と結合しているか、吸着エネルギーが大きい{021}面が主な吸着サイトである可能性が高い。尚、Feの脱離は観測されなかった。今年度に行なわれたCdの深さ方向の分析からCd層は1原子より構成されていることが予想される。AFM画像より、ゲータイトの結晶粒と考えられる長さ約60nm幅約20nmの米粒状の粒子が観察された。
酸化マグネシューム(MgO)(001)劈開面への水曝露による表面構造変化
MgOは岩塩型結晶構造を持つイオン性結晶であり、(001)面で容易に劈開でき、劈開面は気体吸着が起りにくく表面構造も安定している。そのため、薄膜を生成する際の基板に使用される他、酸化物表面上の吸着・触媒作用の基礎的な研究に適し、特に水吸着の研究は多くなされている。本研究室では以前よりMgOへの水吸着について電子衝撃脱離法・昇温脱離法・X線回折法・走査型電子顕微鏡(SEM)・原子間力顕微鏡(AFM)・X線光電子分光法(XPS)を用いて研究を行なってきた。前年度までに、水曝露によりMgO(001)劈開面の構造・組成がMg(OH)2へと変化する過程をXPS・AFMを用いて観察するとともに、長時間水に漬け込むことによりMg(OH)2化がバルク深くへと進行することを確認するため、単結晶X線回折装置による観察及びスパッター用イオン銃を立ち上げ深さ方向の分析を行なってきた。本年度は引き続き、Mg(OH)2化した表面の深さ方向分析をアルゴンイオンによるスパッタリングとXPSを組み合わせて行なった。10及び30時間水に漬け込んだMgO(001)面ではそれぞれ表面下18及び25nmまでMg(OH)2化が進行しており、内部に進行するにつれ、進行速度が遅くなっている。
電界イオン顕微鏡(FIM)の製作
電界イオン顕微鏡は人類が始めて固体表面の原子配列を観察した顕微鏡であるとともに、高電場中での表面現象の観察には最適な装置である。当研究室では教育・研究面での使用を目的としてFIMの製作行なってきた。今年度初めて、タングステンティップからのFIM画像の撮影に成功した。
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















後藤 哲二   教授
              
 
 
 2
 
 
高木 祥示   准教授
工学博士
              
 
 
 2
 
 
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(0)
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研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














後藤 哲二   教授
         
 
 
高木 祥示   准教授
工学博士
         
 
 
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(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 学会発表
国際学会
1. ◎Kamijoh S., Takagi S., Gotoh T., Takamatsu R.: Cadmiun Adsorption on Goethite Surface.  The 4th Vacuum and Surface Conf. Asia and Australia,  Matsue、 Japan,  2008/11
2. ◎Okumura K., Takagi S.,Gotoh T.: Transformation of MgO to Mg(OH)2 by Water Adsorption.  The 4th Vacuum and Surface Conference of Asia and Australia,  Matsue, Japan,  2008/11
  :Corresponding Author
  :本学研究者