医学部 医学科 生化学講座/生化学分野
Department of Biochemistry Division of Medical Biochemistry
教授:
中野 裕康
講師:
土屋 勇一
三宅 早苗
|
|
■ 概要
|
Cellular FLICE-inhibitory protein (cFLIP)はアポトーシスを抑制する分子であり、CFLARと呼ばれる遺伝子によりコードされている。CFLAR遺伝子のオルタナテイブプライシングによりlong formのcFLIPLとshort formのcFLIPsが産生される。これまでの研究からcFLIPLはアポトーシスとネクロプトーシス(制御されたネクローシス)を抑制するのに対して、cFLIPsはアポトーシスは抑制するものの、ネクロプトーシスを促進することが報告されていた。本研究ではcFLIPsを過剰に発現するトランスジェニック(Tg)マウスを樹立し、生体内に置いてネクロプトーシスが誘導された後の生体応答を解析することを目的とした。cFLIPsを過剰に発現するマウス(CFLARs-Tgマウス)にを樹立したところ、胎児期から重篤な回腸炎を発症し、一部のマウスは子宮内で死亡することが判明した。組織学的解析ではネクロプトーシスだけでなく、予想外なことに小腸上皮細胞が大量にアポトーシスに陥っている像が観察された。そこでアポトーシスとネクロプトーシスとのクロストークを解析するために、ネクロプトーシスに関与する遺伝子の欠損マウスと交配を行った。Ripk3やMlkl遺伝子欠損マウスとCFLARs-Tgマウスを交配することで、完全ではないものの胎生致死の表現型がレスキューされ、回腸炎も劇的に改善した。小腸上皮細胞のネクロプトーシスだけではなく、アポトーシス細胞も消失していた。このことはネクロプトーシス細胞が何らかのメカニズムでアポトーシスを誘導していることを示している。回腸炎局所でどのような遺伝変化が起こっているかを解析するために、網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、3型自然リンパ球(ILC3s)の活性化に伴い発現の誘導されるReg3bやReg3gの遺伝子の高発現が見られた。そこでILC3sやILC3sが産生しReg3b/gの発現に関与するインターロイキン(IL)-22の回腸炎への役割を検討したところ、ILC3sを除去(ILC3sの分化に必須の転写因子Rorc遺伝子欠損マウスとの交配)あるいはIL-22を欠損させることで、CFLARs-Tgマウスの回腸炎の改善が見られた。以上より、成獣の腸管においては様々なストレスに対して防御的に働くと考えられているILC3sやIL-22が胎児期においては、何らかの要因で小腸上皮細胞にネクロプトーシスが誘導された場合には、異常に活性化され重篤な回腸炎を引き起こすことが示された。
|
|
■ 当該年度の研究費受入状況
1.
|
平成31年文部科学省科学研究費 基盤研究(B)
(研究課題番号:17H04069)
研究課題:新生児期における上皮バリア維持機構の解明
(研究代表者:中野 裕康)
研究補助金:5300000円 (代表)
|
2.
|
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業
(研究課題番号:19gm1210002s0102)
研究課題:NASHにおける肝リモデリングを制御する細胞間相互作用の解明と革新的診断・治療法創出への応用
(研究分担者:中野 裕康)
研究補助金:18000000円 (分担)
|
3.
|
平成31年文部科学省科学研究費 基盤研究(C)
(研究課題番号:17K08994)
研究課題:肝細胞死亢進マウスを用いた非アルコール性脂肪性肝炎のバイオマーカーと治療法の開発
(研究代表者:土屋 勇一)
研究補助金:900000円 (代表)
|
|
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.
|
中野 裕康
|
:日本Cell Death学会理事長
|
2.
|
中野 裕康
|
:日本免疫学会評議委員
|
3.
|
中野 裕康
|
:日本生化学会代議員
|
|
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 |
刊行論文 |
著書 |
その他 |
学会発表 |
その他 発表 |
和文 | 英文 |
和文 | 英文 |
国内 | 国際 |
筆 頭 | 共 著 | 筆 頭 | 共 著 |
筆 頭 | 共 著 | 筆 頭 | 共 著 |
筆 頭 | 共 著 |
演 者 | 共 演 | 演 者 | 共 演 |
演 者 | 共 演 |
中野 裕康
教授
|
| 2 | | 5 |
| 3 | | |
| |
6
(1)
|
9
(1)
|
1
|
1
|
2
|
1
|
土屋 勇一
講師
|
| | | 1 |
| | | |
| |
2
|
2
|
1
|
|
1
(1)
|
1
|
三宅 早苗
講師
|
| | | 1 |
| | | |
| |
1
|
|
|
|
|
|
出口 裕
助教
|
| | | 1 |
| | | |
| |
|
|
|
|
|
2
|
中林 修
助教
|
| | | |
| | | |
| |
1
(1)
|
|
|
|
|
|
村井 晋
助教
|
2 | | | |
| | | |
| |
|
1
(1)
|
|
1
|
|
|
計 |
2 | / | 0 | / |
0 | / | 0 | / |
0 | / |
10 (2) | / |
2 (0) | / |
3 (1) | / |
|
研究者名 |
刊行論文 |
著書 |
その他 |
学会発表 |
その他 発表 |
和 文 | 英 文 |
和 文 | 英 文 |
国 内 | 国 際 |
筆 頭 | 筆 頭
| 筆 頭 | 筆 頭
| 筆 頭 |
演 者 | 演 者
| 演 者 |
中野 裕康
教授
|
| |
| |
|
6
(1)
|
1
|
2
|
土屋 勇一
講師
|
| |
| |
|
2
|
1
|
1
(1)
|
三宅 早苗
講師
|
| |
| |
|
1
|
|
|
出口 裕
助教
|
| |
| |
|
|
|
|
中林 修
助教
|
| |
| |
|
1
(1)
|
|
|
村井 晋
助教
|
2 | |
| |
|
|
|
|
計 |
2 | 0 |
0 | 0 |
0 |
10 (2) |
2 (0) |
3 (1) |
|
( ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
|
( ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
|
|
■ 刊行論文
原著
|
1.
|
Shindo R, Katagiri T, Komazawa-Sakon S, Ohmuraya M, Takeda W, Nakagawa Y, Nakagata N, Sakuma T, Yamamoto T, Nishiyama C, Nishina T, Yamazaki S, Kameda H, Nakano H.:
Regenerating islet-derived protein (Reg)3beta plays a crucial role in attenuation of ileitis and colitis in mice.
Biochemistry and Biophysics Reports
21
:100738
, 2020
|
2.
|
Tsurusaki S, Tsuchiya Y, Koumura T, Nakansone M, Sakamoto T, Matsuoka M, Imai H, Kok C, Okochi H, Nakano H, Miyajima A, Tanaka M.:
Hepatic ferroptosis plays a potential role as the trigger for initiating inflammation in nonalcoholic steatohepatitis.
Cell Death Dis
10
(6)
:449
, 2019
|
3.
|
Katagiri T, Yamazaki S, Fukui Y, Aoki K, Yagita H, Nishina T, mikami T, Katagiri S, Shiraishi A, Kimura S, Tateda K, Sumimoto H, Endo S, Kameda H, Nakano H:
JunB plays a crucial role in development of regulatory T cells by promoting IL-2 signaling.
Mucosal Immunology
12
:1104
-1117
, 2019
|
4.
|
Ishifune C, Tsukumo S, Maekawa Y, Hozumi K, Chung D, Motozono C, Yamasaki S, Nakano H, Yasutomo K.:
Regulation of membrane phospholipid asymmetry by Notch-mediated flippase expression controls the number of intraepithelial TCRαβ+CD8αα+ T cells.
PLoS Biolology
17
(5)
:e3000262
, 2019
|
5.
|
Shindo R, Ohmuraya M, Komazawa-Sakon S, Miyake S, Deguchi Y, Yamazaki S, Nishina T, Yoshimoto T, Kakuta S, Koike M, Uchiyama Y, Konishi H, Kiyama H, Mikami T, Moriwaki K, Araki K, Nakano H.:
Necroptosis of Intestinal Epithelial Cells Induces Type 3 Innate Lymphoid Cell-Dependent Lethal Ileitis.
iScience
15
:536
-551
, 2019
|
総説及び解説
|
1.
|
村井 晋†, 白崎善隆、中野裕康†:
Live cell imaging of necroptosis with FRET analysis and LCI-S.
実験医学
37
(8)
:1315
-1321
, 2019
|
2.
|
村井晋†, 中野裕康†:
ネクロプトーシスのイメージング.
臨床免疫・アレルギー
72
:87
-94
, 2019
|
3.
|
森脇健太,中野裕康:
TNFレセプターを介するシグナル伝達経路.
臨床免疫・アレルギー科
73
(1)
:51
-57
, 2020
|
|
■ 著書
1.
|
進藤 綾大、森脇 健太、中野 裕康:
デスリガンドを介したアポトーシス.
細胞死
35-45.
化学同人,
京都,
2019
|
2.
|
森脇 健太、中野 裕康:
ネクロプトーシスー制御されたネクローシスとはー.
細胞死
79-85.
化学同人,
京都,
2019
|
3.
|
仁科隆史、中野裕康:
非アポトーシス関連薬剤.
阻害剤・活性化剤ハンドブック
322-339.
羊土社,
東京、日本,
2019
|
4.
|
第,章 進藤綾大,森脇健太,中野裕康,第,章 森脇健太,中野裕康:
細胞死〜その分子機構、生理機能、病態制御
化学同人,
2019
|
|
■ 学会発表
国内学会
|
1.
|
◎中野 裕康:
細胞死抑制タンパク質cFLIPによる細胞死抑制のメカニズム.
日本薬学会第140年会,
京都、日本,
2020/03
|
2.
|
◎村井晋:
A FRET biosensor for necroptosis uncovers two different modes of the release of DAMPs.
第73回 東邦医学会総会,
東京,
2019/11
|
3.
|
◎土屋勇一†, 鶴崎慎也, 永井英成†, 及川彰, 三上哲夫†, 田中稔, 中野裕康†:
FGF18は非アルコール性脂肪性肝炎において傷害を受けた肝細胞が産生する「ダイイングコード」である.
第92回日本生化学会大会,
横浜、日本,
2019/09
|
4.
|
◎中野 裕康:
ネクロプトーシス実行因子MLKL活性化の時空間的制御機構の解析.
第92回日本生化学会大会,
横浜、日本,
2019/09
|
5.
|
◎鶴崎慎也, 土屋勇一†, 今井浩孝, 大河内仁志, 中野裕康†, 田中稔:
フェロトーシスによる肝細胞死が非アルコール性脂肪性肝炎の初期炎症の起点として重要である.
第92回日本生化学会大会,
横浜、日本,
2019/09
|
6.
|
◎中野 裕康:
非アルコール性脂肪性肝炎の発症やその疾患バイオマーカーとなるサイトカインの探索.
第84回日本インターフェロン・サイトカイン学会学術集会,
神戸,
2019/08
|
7.
|
◎中林修†, 高橋宏隆, 大竹史明, 徳永文稔, 吉田雪子, 佐伯泰, 澤崎達也, 中野裕康†:
MIND BOMB-2はcFLIPLを安定化することにより細胞死を抑制する.
第28回日本Cell Death学会学術集会,
東京,
2019/07
|
8.
|
◎鶴崎慎也, 土屋勇一†, 今井浩孝, 大河内仁志, 中野裕康†, 田中稔:
フェロトーシスによる肝細胞死が非アルコール性脂肪性肝炎の初期炎症の起点として重要である.
第28回日本Cell Death学会学術集会,
東京、日本,
2019/07
|
9.
|
◎土屋勇一†, 鶴崎慎也, 永井英成†, 及川彰, 三上哲夫†, 田中稔, 中野裕康†:
cFLIPは肝細胞において非アルコール性脂肪性肝炎の増悪を防ぐ.
第28回日本Cell Death学会学術集会,
東京、日本,
2019/07
|
10.
|
◎三宅早苗、角田宗一郎、内山安男、中野裕康:
ネクロプトーシスの微細形態の解析.
第28回日本CellDeath学会学術集会,
東京 日本,
2019/07
|
11.
|
◎中野 裕康:
ネクロプトーシスによる生体応答機構の解明.
第28日本Cell Death学会,
東京,
2019/07
|
12.
|
◎中野 裕康:
ネクロプトーシスのライブセルイメージング.
日本薬学会 第20回Pharmaco-Hematologyシンポジウム,
東京、日本,
2019/06
|
13.
|
◎Soh Yamazaki, Takaharu Katagiri, Hiroyasu Nakano:
JunB facilitates development of regulatory T cells by up-regulating IL-2 signaling.
第48回日本免疫学会学術集会,
浜松,
2019/12
|
国際学会
|
1.
|
◎Tsuchiya Y†, Komazawa-Sakon S, Oikawa A, Mikami T†, Nagai H†, Tanaka M, Nakano H†:
cFLIP prevents exacerbation of non-alcoholic steatotic hepatitis by inhibiting apoptosis of hepatocytes.
17th TNF Conference,
Asilomar, USA,
2019/06
|
2.
|
◎Hiroyasu Nakano, Yoshifumi Yamaguchi, Yoshitaka Shirasaki, Joanne M. Hildebrand, John Silke, Masayuki Miura, Shin Murai.:
Development of novel methods that monitor necroptosis and the release of DAMPs at the single cell resolution.
17th TNF Conference,
Asilomar, Monterey, CA, USA,
2019/06
|
その他
|
1.
|
◎土屋勇一†:
肝細胞死亢進マウスを用いた非アルコール性脂肪性肝炎のバイオマーカーと治療法の開発.
Expert seminar of immunology (Vol.8),
東京、日本,
2019/06
|
2.
|
Takashi Nishina, Yutaka Deguchi, Wakami Takeda, Masato Ohtsuka, Daisuke Ohshima, Satomi Adachi-Akahane, Kazutoshi Shibuya, Tetuo Mikami, Naohiro Inohara, Norihiro Tada, ◎Hiroyasu Nakano:
Interleukin-11 is a Marker for Both Cancer- and Inflammation-Associated Fibroblasts that Contribute to Colorectal Cancer Progression.
AMED-CREST/PRIME Joint International Symposium,
宮崎市、日本,
2020/02
|
3.
|
Yuichi Tsuchiya, Kenta Kobayashi, Shinya Tsurusaki, Sachiko Komazawa-Sakon, Minoru Tanaka, ◎Hiroyasu Nakano.:
Fibroblast growth factor (FGF)18 is a biomarker of non-alcoholic steatotic hepatitis.
AMED-CREST/PRIME Joint International Symposium,
宮崎市、日本,
2020/02
|
|