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 医学部 医学科 生化学講座
 Department of Biochemistry

教授:
  山下 茂
講師:
  飯野 早苗
■ 概要
細胞増殖の制御機構を解明するため、アフリカツメガエル卵、酵母・哺乳類培養細胞など様々な実験系を用いて細胞周期について研究を行っている。
MPFの活性化機構と作用機構
細胞分裂機(M期)開始因子であるMPFはプロテインキナーゼ活性を持ち、その活性化には、触媒サブユニットであるCdc2のTyr15における脱リン酸化とThr161におけるリン酸化とが必要である。電気泳動上の易動度の差異から、Cdc2には、これ以外にも翻訳後修飾を受ける部位が存在することが推測されている。これらの未知の修飾の機構とMPF活性に対する影響を解明するため、二次元電気泳動とプロテインキナーゼ活性測定による解析を進めている。
DNA複製開始制御機構の解析
DNA複製開始には、Cdc6、Cdt1、MCM、GINSなどの多くの因子が関与する。これらの因子が細胞周期のG1期にDNA上の複製開始点に結合して複製前複合体を形成し、さらにCdc45蛋白質依存的にDNAポリメラーゼがロードする。現在、MCMとCdc45との相互作用に関する解析を中心として、DNA複製開始に関与するこれらの因子の機能解析を行なっている。
高等真核生物におけるチェックポイント機構の解析
DNA複製の異常やDNA損傷を感知して細胞周期の進行を一時的に停止させるチェックポイント機構を、培養細胞を使って解析している。ヒトのNdr1プロテインキナーゼは細胞周期、DNA複製の阻害、UV照射などでリン酸化状態が変化することから、この機構への関与が推測され、Ndr1のキナーゼ活性がチェックポイント機構に必要である可能性が示唆された。さらにsiRNAでNdr1の発現を抑えたときγH2AXが増加したことから、S期に自然発生的に生じるDNAの二重鎖切断(DSB)の修復のためのシグナル伝達系にNdr1が関与している可能性が考えられた。このsiRNAはNdr1に特異的であって、Ndr2の発現には変化は認められなかった。細胞をミモシン処理したときよりもHU処理したときの方が、Ndr1 siRNAによってγH2AXの強いシグナルが認められた。またNdr1 siRNA処理した細胞では、無処理の細胞に比べてp53の発現レベルの上昇が認められ、リン酸化型p53も増加していると考えられた。またNdr1 siRNAの発現で、細胞周期の変化も認められた。
ほ乳類受精卵染色体複製開始機構の解明
ほ乳類受精卵(Zygote)において、染色体複製の開始には未受精卵での蛋白質発現が必須である。マウス卵母細胞においてCdc7キナーゼの調節サブユニットであるDbf4が卵成熟依存的に発現していた。さらにマウス受精卵における染色体複製開始がDbf4の発現に依存するという研究結果から、Dbf4の発現により活性化されたCdc7キナーゼが受精後の染色体複製開始に必須であることが明らかとなった。
卵細胞のアポトーシスにおける細胞周期の停止機構
卵の生存と死を制御する分子機構について、アフリカツメガエル卵をモデルとして用い研究を進めている。卵抽出液においてアポトーシスを強制的に実行させると、サイクリンBの合成停止とCdc25Cのカスパーゼによる切断という二重の機構により、Cdc2の活性化が阻害され細胞周期が間期で停止することを見出した。
複製開始因子Cdt1の解析
Cdt1は、pre-RCと呼ばれるDNA複製開始に必要な蛋白質複合体の形成に関わる因子として知られている蛋白質である。細胞内でCdt1を人工的に過剰発現させると、S期においてDNAの重複製が生じることが知られている。このことからCdt1は細胞周期のS期の開始と共役してM期開始の抑制(チェックポイントコントロール)に関わる蛋白質であることが推定されている。Cdt1には、pre-RC蛋白質複合体に含まれるいくつかの蛋白質と結合するという報告もあり、我々は細胞周期においてCdt1の制御を行う蛋白質の同定を進めている。
■ Keywords
細胞周期, MPF(maturation-promoting factor, 卵成熟因子), DNA複製, チェックポイント機構, アポトーシス, Cdc2, cdt1, pre-RC, 遺伝子発現, Cdc7, Dbf4
■ 当該年度の研究費受入状況
その他
1.  平成22年度医学部医学科プロジェクト研究費
 研究課題:マウス着床前期胚の細胞周期進行にかかわる翻訳抑制機構の解析  (研究代表者:村井 晋)
 研究補助金:400000円  (代表)
2.  平成22年度医学部医学科プロジェクト研究費
 研究課題:卵細胞のアポトーシスにおける細胞周期の停止機構  (研究代表者:土屋勇一)
 研究補助金:400000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  山下 茂 :日本生化学会評議員, 日本薬理学会学術評議員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















山下 茂   教授
医学博士
    2          
 5
 
 
 
 1
三宅 早苗   講師
理学博士
              
 
 
 
 
 
土屋 勇一   助教
博士(理学)
   1           2
 1
 
 
 
 
出口 裕   助教
薬学博士
              1
 
 
 
 
 
中林 修   助教
農学博士
              2
 
 
 
 
 
村井 晋   助教
理学博士
   1           2
 
 
 
 1
 
 0 2  0 0  0  7
(0)
 0
(0)
 1
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














山下 茂   教授
医学博士
         
 
 
三宅 早苗   講師
理学博士
         
 
 
土屋 勇一   助教
博士(理学)
  1       2
 
 
出口 裕   助教
薬学博士
         1
 
 
中林 修   助教
農学博士
         2
 
 
村井 晋   助教
理学博士
  1       2
 
 1
 0 2  0 0  0  7
(0)
 0
(0)
 1
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Murai S, Stein P, Buffone MG, Yamashita S, Schultz RM:  Recruitment of Orc6l, a dormant maternal mRNA in mouse oocytes, is essential for DNA replication in 1-cell embryos.  Developmental Biology  341 (1) :205-212 , 2010
2. Tsuchiya Y, Yamashita S.:  Anti-apoptotic activity and proteasome-mediated degradation of Xenopus Mcl-1 protein in egg extracts.  The Journal of biological chemistry  286 (18) :15806-15814 , 2011
■ 学会発表
国内学会
1. ◎中林 修, 深谷 暁: DNA複製開始におけるSPB構成因子cdc31pの機構解析.  第137回 東邦医学会例会,  東京,  2011/02
2. ◎村井 晋, 片桐由起子: マウス受精卵の染色体複製開始機構.  第137東邦医学会例会,  東京,  2011/02
3. ◎土屋勇一、山下茂: アフリカツメガエル卵抽出液のアポトーシスにおけるCdc2活性化の阻害.  第33回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会合同大会,  神戸,  2010/12
4. ◎中林 修 ,山下 茂: 細胞周期におけるSPB構成因子cdc31pの細胞内局在の解析.  第33回分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会合同大会,  神戸,  2010/12
5. ◎Yutaka Deguchi, Shigeru Yamashita: Characterization of function of Ndr1 protein kinase.  第33回日本分子生物学会年会、第83回日本生化学会大会合同大会,  神戸,  2010/12
6. ◎木野内忠稔、土屋勇一、 山下茂、藤井紀子: D-アスパラギン酸エンドペプチダーゼ活性の進化的考察.  第33回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会合同大会,  神戸,  2010/12
7. ◎土屋勇一、齋藤智博: アフリカツメガエル卵抽出液におけるxMcl-1のアポトーシス抑制作用とプロテアソームによる分解.  第64回東邦医学会総会,  東京,  2010/11
8. ◎Shin Murai, Paula Stein, Mariano Buffone, Richard M Schultz, Shigeru Yamashita: Molecular mechanism of the initiation of DNA replication in mammalian zygote.  第7回 東邦大学3学部合同学術集会,  習志野,  2010/10
その他
1. ◎村井 晋, 山下 茂Dbf4 mRNA Recruitment Required for the Initiation of DNA Replication in Mouse Zygote.  第43回 日本発生生物学会年会,  京都,  2010/06
  :Corresponding Author
  :本学研究者