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 薬学部 公衆衛生学教室
 Department of Environmental Hygiene

教授:
  井上 義雄
講師:
  中濱 隆之
  菅野 裕一朗
■ 概要
食品、飲料水、大気を通じて人体に進入してくる様々な有害物質による健康障害を防止して、健康の維持・増進を目的として以下の研究を行っている。
1.選択的核内受容体調節薬の探索
核内レセプタースーパーファミリーは様々な生理作用をもっていることが知られている。また、核内レセプターは様々な疾患に関与していることから核内レセプターを標的とした治療薬が数多く使用されている。中でも選択的な作用をもつ核内受容体調節薬の創出は、副作用の少ない治療薬の開発に重要である。当研究室では、共同研究により、生薬成分及び新規合成化合物を用いて新たな選択的核内受容体調節薬のシード化合物の探索を行なっている。
2.細胞内レセプターリプレッサーAhRRの機能に関する研究
ダイオキシンは強力な有害物質として知られているが,その毒性発現は芳香族炭化水素受容体(AhR)により媒介されることが 明らかになっている。AhR リプレッサー(AhRR)はAhR の標的遺伝子の1 つであり,その名が示すように,マウス細胞でAhR によるCYP1A1 誘導の抑制因子として見出された。,AhRR とAhR はDNA への結合,Arnt とのヘテロダイマー形成に必要なbHLH ドメインとPAS-A 領域を共有するが,AhRR にはリガンド結合能や細胞質局在に必要なHSP90 との結合に関わるPAS-B 領域と,転写活性化に必要なコアクチベーターの結合部位であるQ-rich 領域が欠けている。現在,AhRR は無脊椎動物では線虫とショウジョウバエ,脊椎動物ではサカナ,トリ,ヒト,ラットなどで遺伝子構造が明らかにされているが,その機能についてほとんど知られていない。
 当研究室では,AhRR とエストロゲンレセプター(ER)のクロストークを明らかにしてきた。エストロゲンは標的遺伝子プロモーター上の応答配列(ERE)に結合して転写を活性化するが,AhRR はER に直接結合してこれを抑制することを見出した。これによりAhRR はAhR に対する負のフィードバックコントロールだけでなくホルモン応答にも関与していることが示唆された。
3.乳がん細胞に対するフラボノイド類のAhR依存的作用に関する研究
今日用いられている乳がん治療法としてホルモン療法が知られている。しかし、エストロゲン受容体(ER)を発現していない乳がんには効果を示さない。ER非依存的乳がんに対して新規分子標的を探求することは重要である。
当教室ではダイオキシン受容体(AhR)を新規分子標的と考え、乳がん細胞の増殖を抑制する天然由来化合物をスクリーニングし、AhRに対してアンタゴニスト活性をもつ数種のフラボノイドを選定した。、
内因性リガンドによるAhRの活性化(又はリガンド非結合型のAhR)による細胞増殖因子や酸化ストレス防御遺伝子発現に関与する転写因子Nrf2の発現に対するAhRを介したフラボノイドの影響を調べている。現在、AhRノックダウンで観察される抗酸化酵素HO-1のキサントフモールによるスーパーインダクション機構について検討している。
4.がん幹細胞仮説に基づくシグナル伝達経路の解析
がんは少数の無限増殖性のがん幹細胞と多くの有限増殖性のがん細胞から構成されていることが知られるようになってきた。したがって、がん幹細胞を標的とする根治療法が期待されている。活性化したAhRが乳癌細胞MCF-7のmannmosphere形成を抑制することを報告した。増殖因子受容体HER2を過剰発現する乳がん幹細胞モデル系を作成し、各種シグナル伝達経路の機能を解析している。
5.核内レセプターの活性化調節機構に関する研究
核内レセプターはホルモン作用を媒介するなど,生体内の恒常性維持に欠かせない。一方,CAR やPXR は生体異物を認識し,代謝酵素や輸送タンパク質の発現誘導を行なう異物センサーとしても重要である。核内レセプターの転写調節機構の一端は核-細胞質間シャトリングによることが知られている。現在CAR を対象にヒトとラットの種差も含めて,核移行シグナル(NLS)と核外輸送シグナル(NES)の解析を行っている。これまでに,CAR は核-細胞質間においてシャトリングしていること,またそのシャトリングシグナル(NLS,NES)には種差が存在することを明らかにしている。近年、CARはエネルギー代謝をコントロールすることが明らかとなってきている。本研究室では、CARによるエネルギー代謝調節機構を解析している。
■ Keywords
核内レセプター, 異物センサー, 転写調節因子, 核移行シグナル, 核外輸送シグナル, シャトルタンパク質, SARM, がん幹細胞, Mammosphere
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  科学研究費 基盤(C)
 研究課題:SCARM及びCAR/PXRデュアルリガンドによる異物代謝、エネルギー代謝調節  (研究代表者:菅野 裕一朗)
 研究補助金:1600000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  井上 義雄 :厚生労働省 医道審議会薬剤師分科会K-V部会・委員
2.  中濱 隆之 :東邦大学付属東邦中・高等学校・学校薬剤師
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  井上 義雄 :(社)日本トキシコロジー学会・評議員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















井上 義雄   教授
薬学博士
    5  1        
 10
 
 
 1
 
中濱 隆之   講師
博士(薬学)
  1            2
 
 
 
 
 
菅野 裕一朗   講師
博士(薬学)
   3 2          2
 8
 
 
 
 
 0 3  1 0  0  4
(0)
 0
(0)
 1
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














井上 義雄   教授
薬学博士
    1     
 
 1
中濱 隆之   講師
博士(薬学)
         2
 
 
菅野 裕一朗   講師
博士(薬学)
  3       2
 
 
 0 3  1 0  0  4
(0)
 0
(0)
 1
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. T. Kusakabe, T. Takahashi, R. Shen, A. Ikeda, Y. D. Dhage, Y. Kanno, Y. Inouye, H. Sasai, T. Mochida, K. Kato:  Carbonylation of Propargyl Carbamates with Palladium(II)-Bisoxazoline Catalysts: Efficient Synthesis of 5-Methoxy-3(2H)-furanones.  Angewandte Chemie (International ed. in English)  52 :7845 -7849 , 2013
2. Kanno Y, Ota R, Someya K, Kusakabe T, Kato K, Inouye Y:  Selective androgen receptor modulator, YK11, regulates myogenic differentiation of C2C12 myoblasts by follistatin expression.  Biological and pharmaceutica bulletin  36 (9) :1460 -1465 , 2013
3. Huanjie Guo, Huanxin Zhao, Yuichiro Kanno, Wei Li, Yanling Mu, Xinzhu Kuang, Yoshio Inouye, Kazuo Koike, Haipeng Jiang, Hong Bai:  A dihydrochalcone and several homoisoflavonoids from Polygonatum odoratum are activators of adenosine monophosphate-activated protein kinase.  Bioorganic & medicinal chemistry letters  23 (11) :3137 -3139 , 2013
4. Kanno Y, Tanuma N, Yatsu T, Li W, Koike K, Inouye Y:  Nigramide J is a novel potent inverse agonist of the human constitutive androstane receptor.  Pharmacology research & perspectives  2 (1) :e00018 , 2014
5. Kanno Y, Tanuma N, Takahashi A, Inouye Y:  T0901317, a potent LXR agonist, is an inverse agonist of CAR.  The Journal of Toxicological Sciences  38 (3) :309 -315 , 2013
■ 著書
1. 井上義雄:  第59章 抗レトロウイルス薬とHIV感染症の治療.  グッドマン・ギルマン 「薬理書」 第12版、下巻  2108-2163.  廣川書店,  東京, 2013
■ 学会発表
国内学会
1. ◎匡薪竹, 李巍, 菅野 裕一朗, 井上義雄, 小池一男: 狼毒大戟のトリテルペン成分研究.  日本薬学会第134年会,  熊本,  2014/03
2. ◎宮本 康平,後藤 小百合,鈴久名 成美,上原 萌,武道 涼平,趙 帥,菅野 裕一朗,井上 義雄: HER2による芳香族炭化水素受容体(Ah2)の機能調節.  日本薬学会第134年会,  熊本,  2014/03
3. ◎山下 直哉,菅野 裕一朗,佐藤 ちひろ,若井 将志,遠藤 慎平,李 巍,小池 一男,浅田 善久,井上 義雄: がん幹細胞抑制作用を示すSaururus chinensisの活性成分の同定及び作用機序の解明.  日本薬学会第134年会,  熊本,  2014/03
4. ◎菅野 裕一朗,巨田 瑠美,染谷 幸祐,日下部 太一,加藤 恵介,井上 義雄: 選択的アンドロゲン受容体調節薬YK11によるC2C12細胞筋分化促進機構.  日本薬学会第134年会,  熊本,  2014/03
5. ◎谷津 智史,菅野 裕一朗,鹿島 真奈美,劉 洋華,李 巍,小池 一男,井上 義雄: Alisma plantagoaquatica含有成分のpregnane X receptor (PXR)アゴニスト作用.  日本薬学会第134年会,  熊本,  2014/03
6. ◎中濱 隆之,菅野 裕一朗,青木 理子,高橋 智寛,齊藤 昂志,井上 義雄: XanthohumolによるHO-1誘導におけるAhRの関与.  日本薬学会第134年会,  熊本,  2014/03
7. ◎中濱 隆之、菅野 裕一朗、桑名 真央、柳澤 大樹、新井 淳太、今泉 隼人、井上 義雄: XanthohumolによるNrf2活性化におけるAhRの関与.  フォーラム2010 衛生薬学・環境とキシコロジー,  福岡,  2013/09
8. ◎吉種尚之, 後藤小百合, 菅野裕一朗, 井上義雄: AhE/ERαクロストークにおけるHER2の役割.  フォーラム2013:衛生薬学・環境トキシコロジー,  福岡,  2013/09
9. ◎菅野 裕一朗、矢沢 幸紀、加藤 さやか、松本 茉衣華、田沼 信明、井上 義雄: デュアルリガンドによる核内受容体CAR・PXRのクロストーク.  フォーラム2013:衛生薬学・環境トキシコロジー,  福岡,  2013/09
10. ◎李巍 , 菅野裕一朗 , 井上義雄 , 小池一男 , 白虹: アマドコロの化学成分およびAMPK 活性化作用.  日本生薬学会第60回年会,  北海道,  2013/09
  :Corresponding Author
  :本学研究者