2008年度
 理学部 物理学科 物性理論教室
 Condensed Matter Theory Laboratory

教授:
  小野 嘉之
准教授:
  河原林 透
■ 概要
1.2次元系におけるマルチモード・パイエルス状態
2次元電子-格子系で,格子構造が正方格子の場合,電子バンドが半充填ならば,電子状態を表す波数空間におけるフェルミ面(2次元なので正確には「線」)が正方形となり,ネスティングベクトルと呼ばれる波数ベクトル分だけ波数をずらすことで,フェルミ面上の異なる部分が完全に重なる。このような状況では,1次元系と同様に低温でパイエルス転移が起こり,電子格子相互作用に起因する自発的格子歪み(パイエルス歪み)が生成されることが期待されている。当研究室における研究によって,この場合の基底状態におけるパイエルス歪みは,ネスティングベクトルの成分だけでなく,それに平行な波数ベクトル成分をも含む,マルチモード型の歪みになることが明らかにされた。しかし,実験的な証拠は観測されていない。その理由の1つとして,現実の系が,等方的な正方格子モデルで記述されないことが考えられる。そこで,平成20年度には,有機導体などで見られる異方的三角格子系での可能性を調べるために,正方格子の対角方向にも電子の飛び移りが可能なモデルで,基底状態の数値解析を行い,斜め方向の結合があまり強くなければ,マルチモードパイエルス状態が基底状態として生き残ることを確認した。また,斜め方向の結合により,正方格子で見られた基底状態の縮退が解けることも示された。こうした異なる格子への拡張以外にも、正方格子模型の場合について波動関数のトポロジカルな性質についても調べた。その結果、格子歪みと波動関数の量子化されたベリー位相が対応することが明らかとなった。これは、マルチモードパイエルス状態がトポロジカルに安定であり、異なる格子歪みのパターン間には必ず量子相転移が存在することを意味している。
2.スピンパイエルス状態
電子間相互作用が強い極限では,電子格子系がハイゼンベルグスピンモデルに射影されることが知られている。電子格子相互作用は,スピン-格子相互作用に姿を変えるが,その相互作用がある程度強ければ,スピン-パイエルス状態が実現すると期待されている。この場合にも,2次元正方格子であれば,マルチモード型が最も安定であることを,これまでの研究で,明らかにした。電子格子パイエルス系と同様に,正方格子に異方性を導入した場合のマルチモードスピンパイエルス系に関する解析が行われ,弱い異方性によって,マルチモードスピンパイエルス状態が僅かに対称性の悪い状態に移ることが示された。
3.相関を持つ不規則性が輸送現象に及ぼす効果
エッジを持つ2次元電子系に,垂直な強磁場を引加した場合,エッジ状態に関連したコンダクタンスの量子化が以前から知られていた。エッジ状態は不規則ポテンシャルの影響を受けにくいため,この量子化は,不規則性があっても崩れない。しかし,不規則性に空間相関が存在する場合には,量子化振る舞いに,いろいろな影響が現れることを数値的な研究により明らかにした。特に、磁場に揺らぎが存在する場合には、揺らぎのスケールが大きくなると、量子化コンダクタンスのステップ間隔が磁場の平均値ではなく、磁場の最大値によってスケールされることを明らかにした。
はじめに
当研究室では,主として固体中の電子の挙動によって決められる物性を,理論的に研究している。特に,通常の3 次元的物質とは異なる性質を示す低次元物質(電子の運動できる空間が1 次元や2 次元に制限されているもの,構造上2 次元系として近似できる系等)の研究に力を注いでいる。物質中の不純物や不規則構造に電子が散乱されること等,物質の不規則性が物性にどの様に反映されるか,低次元物質に特有の局所的励起が物質の伝導特性にどの様な影響を及ぼすか等に関して,様々な成果を得ている。最近では,電子と結晶格子の振動モードとの間における相互作用が原因で,自発的な格子歪みが生成されるパイエルス転移に関する新しいメカニズムを,2 次元正方格子系について発見し,その性質を理論的に解析する研究が進行中である。
■ Keywords
マルチモード・パイエルス状態, 2次元スピン・パイエルス状態, 異方性,正方格子, 相関のある不純物ポテンシャル, 電子拡散
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  小野嘉之 :ハイテクリサーチセンター長(複合物性研究センター), 理学部長, 学校法人東邦大学理事, 財団法人千葉県産業振興センター理事, 千葉県立現代産業科学館展示等協力会理事, 日本インターンシップ推進協会理事・副会長, 大学評価・学位授与機構専門委員, 月刊「パリティ」編集委員長, 習志野市産業振興審議会委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















小野 嘉之   教授
理学博士
    3          
 4
 1
 
 
 
河原林 透   准教授
理学博士
   2           2
 4
 1
 
 
 
 0 2  0 0  0  2
(0)
 2
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














小野 嘉之   教授
理学博士
         
 1
 
河原林 透   准教授
理学博士
  2       2
 1
 
 0 2  0 0  0  2
(0)
 2
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Tohru Kawarabayashi, Yoshiyuki Ono, Chiduru Watanabe:  Berry's Phase in the Multimode Peirels States.  Journal of the Physical Society of Japan  77 (6) :065002 , 2008
2. Y. Horita, Y. Ono:  Peierls State in a Modified Square-Lattice SSH Model.  Journal of the Physical Society of Japan  78 (2) :024711 , 2009
3. Tohru Kawarabayashi, Yoshiyuki Ono, Tomi Ohtsuki, Stefan Kettemann, Alexander Struck, Bernhard Kramer:  Conductance-plateau transitions in quantum Hall wires with spatially correlated random magnetic fields.  Physical Review B  78 :205303 , 2008
■ 学会発表
国内学会
1. ◎大槻 東巳, Keith Slevin, 河原林 透: Conductance distributions at the quantum Hall transitions.  日本物理学会第64回年会,  東京, 日本,  2009/03
2. ◎河原林 透, 初貝 安弘, 青木 秀夫: 強磁場中のグラフェン量子ホール効果におけるランダムネスのレンジの効果.  日本物理学会第64回年会,  東京, 日本,  2009/03
3. ◎国分 敦史, 河原林 透, 小野 嘉之: 二次元六角格子模型における強磁場中の電子拡散.  日本物理学会第64回年会,  東京, 日本,  2009/03
4. ◎河原林 透, 初貝 安弘, 青木 秀夫: グラフェンランダウ準位におけるランダムネスの効果.  日本物理学会2008年秋季大会,  盛岡, 日本,  2008/09
5. ◎国分 敦史, 河原林 透, 小野 嘉之: 二次元六角格子上における電子拡散.  日本物理学会2008年秋季大会,  盛岡, 日本,  2008/09
6. ◎米井 浩之, 河原林 透, 小野 嘉之: 二次元強磁場下の不規則系における臨界準位統計.  日本物理学会2008年秋季大会,  盛岡, 日本,  2008/09
7. ◎堀田佑策, 小野嘉之: Pd(dmit)2系における2次元パイエルス状態の可能性II.  2008年秋季大会,  盛岡,  2008/09
国際学会
1. Y. Horita, ◎Y. Ono: Competition of different types of electron-lattice coupling in 2D Peierls transition.  25th International Conference on Low Temperature Physics,  Amsterdam, The Netherlands,  2008/08
その他
1. ◎Tohru Kawarabayashi, Yoshiyuki Ono, Tomi Ohtsuki, Stefan Kettemann, Alexander Struck, Bernhard Kramer: Conductance Plateau Transitions in quantum Hall wires with Correlated Disorder.  the 411 WE-Heraeus Seminar and School on “Network Models in Quantum Physics”,  Bremen, Germany,  2008/07
  :Corresponding Author
  :本学研究者