2008年度
 薬学部　公衆衛生学教室
 Department of Environmental Hygiene

教授：
　　井上　義雄
講師：
　　中濱　隆之
　　菅野　裕一朗
■ 概要
食品、飲料水、大気を通じて人体に進入してくる様々な有害物質による健康障害を防止して、健康の維持・増進を目的として以下の研究を行っている。
1．細胞内レセプターの機能に関する研究
ダイオキシンは強力な有害物質として知られているが，その毒性発現は芳香族炭化水素受容体（AhR）により媒介されることが 明らかになっている。AhR リプレッサー（AhRR）はAhR の標的遺伝子の1 つであり，その名が示すように，マウス細胞でAhR によるCYP1A1 誘導の抑制因子として見出された。そのメカニズムは（i）AhR とのArnt の奪い合い，（ii）AhR/Arnt とAhRR/Arnt 両ヘテロダイマーのXRE 配列への結合の拮抗に基づくことが明らかにされている。このようなAhRR によるAhR 抑制は両者のタンパク質構造の違いによるものである。すなわち，AhRR とAhR はDNA への結合，Arnt とのヘテロダイマー形成に必要なbHLH ドメインとPAS-A 領域を共有するが，AhRR にはリガンド結合能や細胞質局在に必要なHSP90 との結合に関わるPAS-B 領域と，転写活性化に必要なコアクチベーターの結合部位であるQ-rich 領域が欠けている。現在，AhRR は無脊椎動物では線虫とショウジョウバエ，脊椎動物ではサカナ，トリ，ヒト，ラットなどで発見されているが，その機能についてほとんど知られていない。
　当研究室では，AhRR とエストロゲンレセプター（ER）のクロストークを明らかにしてきた。エストロゲンは標的遺伝子プロモーター上の応答配列（ERE）に結合して転写を活性化するが，AhRR はER に直接結合してこれを抑制することを見出した。これによりAhRR はAhR に対する負のフィードバックコントロールだけでなくホルモン応答にも関与していることが示唆された。
2．核内レセプターの発現調節機構に関する研究
核内レセプターはホルモン作用を媒介するなど，生体内の恒常性維持に欠かせない。一方，CAR やPXR は生体異物を認識し，代謝酵素や輸送タンパク質の発現誘導を行なう異物センサーとしても重要である。核内レセプターの転写調節機構の一端は核-細胞質間シャトリングによることが知られている。現在CAR を対象にヒトとラットの種差も含めて，核移行シグナル（NLS）と核外輸送シグナル（NES）の解析を行っている。これまでに，CAR は核-細胞質間においてシャトリングしていること，またそのシャトリングシグナル（NLS，NES）には種差が存在することを明らかにしている。
3．ヒト乳がん細胞MCF-7 におけるAhR-ER クロストーク
現在用いられている乳がん治療剤タモキシフェンは，乳がん細胞では抗エストロゲン作用を示すが，子宮ではエストロゲン作用を示し，子宮体がんのリスク因子とされている。ER を含む核内レセプターには転写活性化能を担う領域はN，C 両端に1 つずつ存在し，それぞれAF-1，AF-2 と呼ばれている。AhR はER のAF-1 へ結合し，ER 応答性遺伝子発現を修飾することが知られている。このER-AhR クロストークをベースとして，より副作用の少ない乳がん治療薬の開発を目標に，天然物等のスクリーニングを行っている。
■ Keywords
核内レセプター, 異物センサー, 転写調節因子, 核移行シグナル, 核外輸送シグナル, シャトルタン
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  私立大学学術研究高度化推進事業オープンリサーチセンター整備事業
 研究課題：細胞機能制御システムの破綻による老化関連疾患発症の分子機構と予防・治療に関する研究  (研究分担者：井上義雄，中浜隆之，菅野裕一朗（研究代表者：松本宏治郎）))
 研究補助金：3000000円  (分担)
2.  平成20年度文部科学省科学研究費補助金・若手研究（B）  (研究課題番号：20790114)
 研究課題：生体内異物応答レセプターCAR活性化機構の解明とインビトロ評価系の確立  (研究代表者：菅)
 研究補助金：2100000円  (代表)
3.  平成20年度大学院整備重点化経費　研究科特別経費（研究科分）
 研究課題：環境要因の細胞機能に及ぼす影響と細胞応答の機序の解明  (研究分担者：井上義雄、中浜隆之（研究代表者：井手速雄）)
 研究補助金：1000000円  (分担)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  井上義雄 ：厚生労働省・薬剤師試験委員
2.  中濱隆之 ：東邦大学付属東邦中・高等学校・学校薬剤師
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  井上義雄 ：(社)日本薬学会・環境衛生部会・常任世話人／試験法委員長／衛生試験法・註解2010編集幹 事, (社)日本トキシコロジー学会評議員
2.  菅野裕一朗 ：(社)日本薬学会・ファルマシア委員会・トピックス小委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
筆
頭		共
著		筆
頭		共
著		 筆
頭		共
著		筆
頭		共
著		 筆
頭		共
著		 演
者		共
演		演
者		共
演		 演
者		共
演
井上　義雄   教授
薬学博士
     2          
  14
  
  
  
  
中濱　隆之   講師
博士（薬学）
               1
  
  
  
  
  
菅野　裕一朗   講師
博士（薬学）
    2           3
  11
  
  
  
  
計  0／ 2／  0／ 0／  0／  4
(0)		／  0
(0)		／  0
(0)		／
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和
文		英
文		 和
文		英
文		 国
内		国
際
筆
頭		筆
頭 		筆
頭		筆
頭 		筆
頭		 演
者		演
者 		演
者
井上　義雄   教授
薬学博士
          
  
  
中濱　隆之   講師
博士（薬学）
          1
  
  
菅野　裕一朗   講師
博士（薬学）
   2       3
  
  
計  0 2  0 0  0  4
(0)		  0
(0)		  0
(0)
(  )：発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  )：発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Kanno Y†, Takane Y, Takizawa Y, Inouye Y＊†：  Suppressive effect of aryl hydrocarbon receptor repressor on transcriptional activity of estrogen receptor alpha by protein-protein interaction in stably and transiently expressing cell lines.  Molecular and cellular endocrinology  291 ：87-91 , 2008
総説及び解説
1. Kanno Y＊†, Inouye Y†：  Molecular Basis of the Intracellular Localization and Function of the Constitutive Androstane Receptor (CAR).  Journal of Health Science  54 (2) ：261-266 , 2008
■ 学会発表
国内学会
1. ◎菅野　裕一朗, 井上　義雄： CAR 変異体を用いたhuman CAR リガンドスクリーニング系の確立と評価②.  日本薬学会第129年会,  京都,  2009/03
2. ◎張　淑芸, 菅野　裕一朗, 井上　義雄： 芳香族炭化水素受容体リプレッサー (AhRR) によるエストロゲン受容体 (ER) の転
写活性の抑制機構.  日本薬学会129年会,  京都,  2009/03
3. ◎彦坂　律子, 張　淑芸, 菅野　裕一朗, 加藤　恵介, 秋田　弘幸, 井上　義雄： 新規合成ステロイド化合物の性ホルモン受容体への影響.  日本薬学会129年会,  京都,  2009/03
4. ◎中濱　隆之, 菅野　裕一朗, 井上　義雄： 乳がん細胞におけるフラボノイド類の細胞周期への影響.  日本薬学会　第129年会,  京都,  2009/03
5. ◎深山　靖夫, 菅野　裕一朗, 安藤　美奈, 井上　義雄： 核内レセプターCARのPB応答性核移行における微小管の役割.  第81回日本生化学会大会・第31回日本分子生物学会年会合同大会,  神戸,  2008/12
6. ◎菅野　裕一朗, 井上　義雄： The mechanism of spontaneous nuclear translocation of nuclear receptor CAR in cultured cell line.  第81回日本生化学会大会・第31回日本分子生物学会年会合同大会,  神戸,  2008/12
7. ◎菅野　裕一朗, 井上　義雄： 核内レセプターCARの核移行メカニズムの解析.  フォーラム2008　衛生薬学・環境トキシコロジー,  熊本,  2008/10
8. ◎深山　靖夫, 石山　千晶, 菅野　裕一朗, 井上　義雄： ラット小腸IEC6細胞のCAR安定発現株を用いたCARの新規標的遺伝子スクリーニング.  フォーラム2008　衛生薬学環境トキシコロジー,  熊本,  2008/10
9. ◎張　淑芸, 菅野　裕一朗, 高根　優介, 中浜　隆之, 井上　義雄： 芳香族炭化水素受容体リプレッサー(AhRR)とエストロゲン受容体(ER)のクロストーク.  フォーラム2008　衛生薬学環境トキシコロジー,  熊本,  2008/10
10. ◎彦坂　律子, 菅野　裕一朗, 鈴木　孝典, 中濱　隆之, 井上　義雄： ヒト乳がんMCF-7細胞に対するタモキシフェンとAhRリガンドの併用の影響.  フォーラム2008　衛生薬学環境トキシコロジー,  熊本,  2008/10
11. ◎櫻井　恵, 菅野　裕一朗, 井上　義雄： Arylhydrocarbon receptor repressor(AhRR)によるE2F1の転写活性化能に対する影響.  フォーラム2008　衛生薬学環境トキシコロジー,  熊本,  2008/10
12. ◎宮崎　友佳里, 菅野　裕一朗, 井上　義雄： Constitutive Androstane Receptor (CAR) の核移行メカニズム.  日本薬学会129年会,  京都,  2009/03
その他
1. ◎深山　靖夫,　菅野　裕一朗,　安藤　美奈,　井上　義雄： PB刺激による核内レセプターCARの核移行における微小管の役割.  日本薬学会129年会,  京都,  2009/03
2. ◎宮崎　友佳里, 菅野　裕一朗, 井上　義雄： Steroid and xenobiotic receptor (SXR)の細胞内局在シグナル.  フォーラム2008　衛生薬学環境トキシコロジー,  熊本,  2008/10
  ＊：Corresponding Author
  †：本学研究者