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 薬学部 生化学教室
 Department of Biochemistry

教授:
  髙橋 良哉
■ 概要
老化および老化関連疾患の発症メカニズムとその制御
本教室では「老化および老化関連疾患の発症メカニズムとその制御」を主テーマとし、「中高齢期からの食餌制限の有益性とリスク」および「老化の進行速度に与える内外因子」について研究を行っている。
1.「老齢期における食餌制限などの有益作用」に関する研究:サルコペニアと食餌制限
中高齢期からの食餌制限の有効性に関する研究は、ヒトへのアプローチを考えた場合、有用な情報を与えてくれる。これまでに私達は中高齢期からの食餌制限は老齢ラット・マウスの組織に蓄積した熱不安定異常酵素蓄積量やミトコンドリアのカルボニル化酸化修飾タンパク質量を低下させること明らかにした。また、異常タンパク質分解酵素であるプロテアソーム活性が食餌制限により若齢レベルまで回復することを見出した。さらに、老齢動物のタンパク尿症が食餌制限で改善することも見出した。しかし、中高齢期からの食餌制限は加齢に伴う筋肉量低下(サルコペニア)をさらに加速する可能性がある。そこで、次に私達は高齢期からの食餌制限がラット後肢筋の重量や線維タイプに与える影響について調べた。食餌制限(約3ヶ月間)により体重は約30%低下した。自由摂食群のヒラメ筋および腓腹筋の重量は28月齢から31月齢の3ヶ月間で有意に減少していたが、食餌制限による影響は認められなかった。ヒラメ筋と腓腹筋のType II線維の数や総面積は若齢と比べ老齢で低下していたが、食餌制限の大きな影響は認められなかった。Type II線維のサブタイプはヒラメ筋および腓腹筋で加齢変化を示したが、その加齢変化に対して食餌制限はほとんど影響を与えていなかった。このように高齢期からの食餌制限は調べた範囲ではラットの骨格筋の加齢変化に対して大きな影響を与えないことがわかった。
2.「老齢期における食餌制限などの有益作用」に関する研究:腎機能と食餌制限
ラットの加齢に伴うアルブミン尿症は糸球体基底膜の透過性の亢進や近位尿細管におけるアルブミン再吸収能の低下により発症すると考えられている。これまでに私達は老齢ラットの近位尿細管細胞にアルブミンが蓄積していることを見出した。アルブミンの蓄積は、近位尿細管におけるアルブミン再吸収の増加やアルブミンの分解速度および再利用活性が低下している可能性が考えられる。これらの可能性を調べるために私達は老若ラット腎におけるアルブミンの分解活性および近位尿細管におけるアルブミン取り込みについて調べた。FITC標識アルブミンの分解速度には老若で有意な差は認められなかった。次に近位尿細管におけるアルブミン取り込みについて蛍光標識アルブミンを用いて調べた。蛍光標識アルブミン尾静脈投与5分後、アルブミンは老若の近位尿細管細胞に顆粒として観察されたが、老齢では若齢と比べ顆粒の数が多く、サイズも大きかった。老齢では近位尿細管におけるアルブミンの取り込み量が増加している可能性が考えられた。アルブミン分解活性には老若間で差が認められなかったため、老齢ではアルブミンの再利用活性が低下している可能性が示唆される。今後、食餌制限によるトランスサイトーシス活性化機構およびそれに対する加齢の影響について研究を行う予定である。
3.「老化促進モデルマウスSAMP8の遺伝子多型と促進老化」に関する研究
老化促進モデルマウス(SAM) P8 系の遺伝子発現の加齢変化解析から促進現象が離乳期以降にはじまることを見出した。促進老化が離乳期前後に発現する遺伝子の異常による可能性が考えられたことより、離乳前後動物のプロテオーム解析を行った。その結果、SAMP8とSAMR1のアグマチナーゼ遺伝子に1アミノ酸残基の置換を伴う塩基置換が存在することを見出した。アグマチナーゼはアルギニンの脱炭酸化物であるアグマチンをプトレシンと尿素に分解する酵素である。アグマチンはポリアミン生合成中間体であり、神経伝達物質としても機能していると考えられている。アグマチナーゼmRNA発現量はSAMP8とSAMR1両系統ともに肝臓で最も高く、脳、小腸、腎臓、精巣にも発現が認められた。肺ではほとんど発現していなかった。一方、肝臓におけるアグマチナーゼのタンパク質発現量は、両系統共に加齢に伴い低下したが、その発現量はSAMR1と比べSAMP8でどの月齢でも相対的に高い傾向にあった。アミノ酸置換によりアグマチナーゼの細胞内安定性が変化している可能性がある。今後は変異アグマチナーゼのタンパク質分解に対する感受性や分子活性について調べる予定である。
4.「老化促進モデルマウスSAMP8に対する高脂肪食の影響」に関する研究
食事に起因する老化関連疾患研究における老化促進モデルマウス(SAM)の有用性について明らかにする研究の一環として、高脂肪食がSAMR1/Ta, SAMP8 Ta, C57BL/6J, DBA/2の4系統のマウスの成長や脂肪蓄積に与える影響を調べた。その結果、高脂肪食による体重増加に系統差が認められ、SAMP8が最も高い増加を示した。血糖値については、SAMP8で高脂肪食摂食による著しい上昇が認められた。また、脂肪蓄積量に関しては、SAMP8は皮下脂肪が、SAMR1は内臓脂肪が多く蓄積する傾向が認められた。肝重量の増加および肝脂肪の蓄積は、SAMP8で認められた。さらに、HPLCによる肝臓組織中遊離脂肪酸量の分析の結果、高脂肪食負荷後の脂肪酸種の分布に系統差が認められた。以上のように、高脂肪食負荷による肥満にマウス系統差が認められた。特にSAMP8の高脂肪食に対する感受性は、他の系統と比べて高いことがわかった。SAMP8の脂質の消化・吸収を含めた脂質代謝系に何らかの異常があるものと考えられる。
■ Keywords
老化, 食事制限, サルコペニア、脂質代謝, 高脂肪食, 老化促進モデルマウス, 一塩基多型
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  髙橋 良哉 :日本基礎老化学会 理事・評議員, 日本生化学会関東支部 幹事, 日本微量元素学会 評議員, 老化促進モデルマウスSAM研究協議会 評議員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















髙橋 良哉   教授
薬学博士
              4
(1)
 10
 2
(1)
 1
 3
(3)
 
大寺 恵子   助教
博士(薬学)
              3
 6
 1
 1
 
 
 0 0  0 0  0  7
(1)
 3
(1)
 3
(3)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














髙橋 良哉   教授
薬学博士
         4
(1)
 2
(1)
 3
(3)
大寺 恵子   助教
博士(薬学)
         3
 1
 
 0 0  0 0  0  7
(1)
 3
(1)
 3
(3)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 学会発表
国内学会
1. ◎高橋良哉, 戸辺慎也, 大寺恵子: 中高齢期からの食餌制限が加齢に伴うサルコペニア進行に与える影響.  日本薬学会第132年会,  札幌,  2012/03
2. ◎大寺恵子, 高橋良哉: 腎尿細管アルブミン再吸収:加齢の影響.  日本薬学会第132年会,  札幌,  2012/03
3. ◎那和雪乃, 岡田容子, 廣井朋子, 高橋良哉, 松井宏晃: ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞におけるβ1アドレナリン受容体遺伝子発現調節機構:NF-Y・Sp1の協調作用を促進する仲介因子C/EBPαの機能.  第34回日本分子生物学会年会,  横浜,  2011/12
4. ◎高橋良哉: 中高齢期からの食餌制限の有益性とリスク.  第33回日本基礎老化学会シンポジウム,  野田,  2011/10
5. ◎王冠男, 大寺恵子, 高橋良哉: 老化促進モデルマウスP8系とR1系のアグマチナーゼの組織別発現と肝臓における加齢変化.  第33回日本基礎老化学会シンポジウム,  野田,  2011/10
6. ◎王冠男, 大寺恵子, 高橋良哉: アグマチナーゼの遺伝子多型と遺伝子発現の加齢変化.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋,  2011/10
7. ◎今井 雅之, 鈴木 英治, 中越 正道, 奥野 友哉梨, 高橋 良哉, 横山 祐作: アルツハイマー病治療薬を指向したアミロイドβ凝集阻害剤:ジアリールベンゾフランの誘導体.  第55回日本薬学会関東支部大会,  千葉,  2011/10
8. ◎王冠男, 大寺恵子, 高橋良哉: 老化促進モデルマウスP8系とR1系の肝臓におけるアグマチナーゼ量の加齢変化.  第26回老化促進モデルマウス(SAM)研究協議会研究発表会,  岐阜,  2011/07
9. ◎高橋良哉, 王冠男, 大寺恵子: 老化促進モデルマウスSAMP8とSAMR1のアグマチナーゼ遺伝子多型と遺伝子発現の加齢変化.  平成23年度 日本生化学会関東支部例会,  東京,  2011/06
10. ◎大寺恵子, 戸辺慎也, 高橋良哉: 老齢ラット骨格筋の加齢変化に対する食餌制限の影響.  平成23年度 日本生化学会関東支部例会,  東京,  2011/06
11. ◎王冠男, 大寺恵子, 高橋良哉: 老化促進モデルマウスSAMP8とSAMR1系の肝アグマチナーゼの発現量の加齢変化.  第34回日本基礎老化学会,  東京,  2011/06
12. ◎大寺恵子, 戸辺慎也, 高橋良哉: 高齢期からの食餌制限がラット骨格筋の加齢変化に与える影響.  第34回日本基礎老化学会,  東京,  2011/06
国際学会
1. ◎Takahashi R: Dietary restriction initiated late in life: advantages and disadvantages.  2011 International Gerontology Conference,  Seoul, Korea,  2011/11
2. ◎Odera K, Takahashi R: Accumulation of albumin in the renal proximal tubular cells of old rats.  9th Asia / Oceania Congress of Geriatrics and Gerontology,  Melbourne, Australia,  2011/10
3. ◎Takahashi R, Tobe S, Odera K: Effect of dietary restriction initiated from old on the degenerative loss of skeletal muscle mass with age.  9th Asia / Oceania Congress of Geriatrics and Gerontology,  Melbourne, Australia,  2011/10
その他
1. ◎高橋良哉: 老化を防ぐ-ちょっとしたことから始めよう-.  葛飾区 『2011シニアフェア』 記念講演,  東京,  2011/09
2. ◎高橋良哉: 老化: いつから?止められる?戻れる?.  2011年度 東邦大学理学部鶴風会総会講演会,  東京,  2011/06
3. ◎高橋良哉: 老化を防ぐ: 「老化と環境」-基礎研究の立場から-.  第51回東邦大学薬学部公開講座,  船橋,  2011/05
  :Corresponding Author
  :本学研究者