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 薬学部 医療薬学教育センター/薬物治療学研究室
 Department of Pharmacology and Therapeutics

教授:
  高原 章
■ 概要
1.薬物によるQT延長リスクの評価
私達は薬物性QT延長症候群のリスクを検出する小動物を用いた評価モデルを考案し、心室の単相性活動電位(MAP)の記録により心筋再分極に与える薬物作用を高精度で研究する手法を確立している。本年度は抗ヒスタミン薬の作用に関して以下の内容を検討した。
抗ヒスタミン薬の中で心電図QT間隔延長や催不整脈作用を示す代表的な薬物としてアステミゾールやテルフェナジンが知られている。近年、hERG遺伝子変異を持つ患者で、ヒドロキシジン服用後に致死性不整脈torsades de pointesが誘発されたことが報告され、長年にわたり使用されてきた第一世代抗ヒスタミン薬の中にもQT間隔延長作用を有する薬物が存在することが明らかとなった。本研究では、小児に対し抗アレルギー薬として汎用されているシプロヘプタジンがモルモット生体位心臓に与える電気薬理学的作用をヒドロキシジンと比較することで検討した。抗ヒスタミン作用を示す用量のヒドロキシジンは心拍数の低下とQT間隔およびMAP持続時間(MAP90)の延長、MAP90の時間的ばらつきの増大を引き起こした。また、右心室ペーシング下においてもMAP90の用量依存的な延長が認められた。一方、抗ヒスタミン作用を十分に示す用量シプロヘプタジンは心電図指標とMAP90に影響を与えなかった。以上の結果は、シプロヘプタジンは、ヒドロキシジンと異なり心筋再分極延長作用を示さないことを示している。
2.心房細動の発生メカニズム
心房への伸展刺激は心房組織に様々な変化を生じさせ、心房細動の発生や維持に関与すると考えられている。本研究では心房に対して慢性的な容量負荷を与えるモデル動物を作製し、心臓の形態的変化、電気生理学的変化および心房細動の持続性について検討した。Wistar系ラットに動静脈瘻の作製手術を行い、術後1ヶ月以上経過した動物における心臓の組織重量、イオンチャネルの遺伝子発現量、体表面心電図、心房の有効不応期および心房細動持続時間を測定し、sham群と比較した。動静脈瘻モデル動物では心房重量の増加と心房組織における線維化が観察された。モデル動物では両心房で IKur(Kv1.5)、Ito(Kv4.2)、IK.ACh(Kir3.1)、IK1(Kir2.2)およびCx43のmRNAが低値であった。また、左房筋活動電位の電位変化が低値であり、再分極が遅延していた。心電図PR間隔とQRS幅の有意な延長、心房内伝導速度の低下および心房の有効不応期の延長が認められた。Burst pacingにより心房細動が誘発され、その持続時間はsham群に比べて有意に長かった。心房に対する慢性容量負荷は心房拡大と心房内伝導遅延等の電気性理学的特性の変化を誘発し、これらの変化が心房細動の持続時間延長に寄与したと考えられた。
3.動物を用いたCAVI計測システムの構築
動脈硬化の発生メカニズム解明や合併症の発生予測には、動脈硬化の程度を経時的に繰り返し計測することは極めて重要であり、非侵襲的で簡便な手法であるCAVI(cardio-ankle vascular index)が注目されている。CAVIの生理学的あるいは病態生理学的な意義に関する研究は臨床の場を中心に進められているが、実験動物を用いたCAVI計測システムが開発されれば、これらの意義の解明に向けてさらなる進展が期待される。私たちの今年度の検討により麻酔ウサギを用いてCAVIの計測が可能になった。今後、CAVIの薬物に対する応答性について調べていく予定である。
■ Keywords
心房細動, QT延長症候群, 心筋イオンチャネル, 心肥大, 高血圧,動脈硬化, CAVI
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  学術研究助成基金助成金 基盤研究(C)  (研究課題番号:24590669)
 研究課題:新しい持続型心房細動モデル動物における心房細動治療標的分子の分析  (研究代表者:高原 章)
 研究補助金:1200000円  (代表)
2.  日本私立学校振興・共済事業団 学術研究振興資金
 研究課題:身近な食品成分の高齢者型筋弛緩不全に対する予防効果 -新規薬理作用の探索と分子基盤の解明-  (研究分担者:高原 章)
 研究補助金:2500000円  (分担)
その他
1.  東邦大学共同研究
 研究課題:慢性心房細動に対する新規治療薬:強力かつ安全な停止薬の開発  (研究分担者:高原 章)
 研究補助金:2500000円  (分担)
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  高原 章 :日本薬学会 学術誌編集委員, 日本薬理学会 代議員・学術評議員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















高原 章   教授
博士(薬学)
   4 2          2
(1)
 8
 
 1
 1
(1)
 1
(1)
 0 4  0 0  0  2
(1)
 0
(0)
 1
(1)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














高原 章   教授
博士(薬学)
  4       2
(1)
 
 1
(1)
 0 4  0 0  0  2
(1)
 0
(0)
 1
(1)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Takahara A, Takeda K, Hagiwara M, Tanaka H:  Electrophysiological effects of the antiarrhythmic drug bepridil on the guinea-pig pulmonary vein myocardium.  Biological & pharmaceutical bulletin  36 (2) :311-315 , 2013
2. Yamamoto T, Niwa S, Tokumasu M, Onishi T, Ohno S, Hagiwara M, Koganei H, Fujita S, Takeda T, Saitou Y, Iwayama S, Takahara A, Iwata S, Shoji M:  Discovery and evaluation of selective N-type calcium channel blockers: 6-unsubstituted-1,4-dihydropyridine-5-carboxylic acid derivatives.  Bioorganic & medicinal chemistry letters  22 (11) :3639-3642 , 2012
3. Takahara A , Takeda K, Tsuneoka Y, Hagiwara M, Namekata I, Tanaka H:  Electrophysiological effects of the class Ic antiarrhythmic drug pilsicainide on the guinea-pig pulmonary vein myocardium.  Journal of pharmacological sciences  118 (4) :506 -511 , 2012
4. Takahara A, Fujiwara K, Ohtsuki A, Oka T, Namekata I, Tanaka H:  Effects of antitussive drug cloperastine on ventricular repolarization in halothane-anesthetized guinea pigs.  Journal of pharmacological sciences  120 (3) :165 -175 , 2012
総説及び解説
1. Kohji Shirai, Junji Utino, Atsuhito Saiki, Kei Endo, Masahiro Ohira, Daiji Nagayama, Ichiro Tatsuno, Kazuhiro Shimizu, Mao Takahashi, Akira Takahara:  Evaluation of Blood Pressure Control using a New Arterial Stiffness Parameter, Cardio-ankle Vascular Index (CAVI).  Current Hypertension Reviews  9 (1) :66 -75 , 2013
その他
1. Takahara A:  Establishment of CAVI measurement system of a rabbit and its applications.  CAVI Now & Future  1 :56-58 , 2012
■ 学会発表
国内学会
1. ◎北原健, 中村裕二, 恒岡弥生, 赤羽悟美, 田中光, 山崎浩史, 高原章, 山崎純一, 池田隆徳, 杉山篤: オセルタミビルの心血行動態および電気生理学的作用.  第86回日本薬理学会年会,  福岡,  2013/03
2. ◎八木 啓太, 江沢 亜耶, 福本 真理江, 恒岡 弥生, 濱口 正悟, 長谷川 健志, 久世 哲郎, 千葉 俊樹, 灘 みづき, 行方 衣由紀, 田中 光, 高原 章: 動静脈瘻ラットにおける心房リモデリングの電気生理学的特徴.  第86回日本薬理学会年会,  福岡,  2013/03
3. ◎新沼 多美, 原田 英里, 高原 章: The L/N-type Ca2+ Channel Blocker Cilnidipine Effectively Suppressed the Cardiac Histological Remodeling and Dysfunction in the High-salt-fed Rats.  第77回日本循環器学会学術集会,  横浜,  2013/03
4. ◎高原 章: 循環器系に対するイヌを用いた薬理評価の特徴と意義.  第4回日本安全性薬理研究会,  東京,  2013/02
5. ◎八木 啓太, 高原 章: 動静脈瘻による慢性容量負荷が心房の電気生理学的特性に与える影響.  第29回日本心電学会学術集会,  千葉,  2012/10
6. ◎高原 章, 藤原 香織, 岡 貴之, 大槻 篤史, 行方 衣由紀, 田中 光: 鎮咳薬クロペラスチンのhERG Kチャネルおよび心電図QT間隔に対する作用.  第29回日本心電学会学術集会,  千葉,  2012/10
7. ◎荻原 琢男, 萩原 美帆子, 高原 章: 脳虚血時におけるシルニジピンの脳内移行性に対するP糖タンパク質の関与.  第35回日本高血圧学会総会,  名古屋,  2012/09
8. ◎大室 直樹, 藤原 香織, 高原 章: シプロヘプタジンの心臓電気薬理学的作用:ハロセン麻酔モルモットモデルによる検討.  第126回日本薬理学会関東部会,  東京,  2012/07
9. ◎萩原 美帆子, 米山 史陽, 高原 章: 心房の再分極終末相に対するピルジカイニドの作用:ハロセン麻酔ウサギモデルによる検討.  第126回日本薬理学会関東部会,  東京,  2012/07
10. ◎Toshimitsu Motegi, Shinobu Takimoto, Mihoko Hagiwara, Yoko Idota, Kaori Morimoto, Akira Takahara, Takuo Ogihara: Participation of P-glycoprotein to the brain distribution of cilnidipine at ischemia.  日本薬物動態学会第27回年会,  東京,  2012/11
国際学会
1. ◎Shirai K, Takahashi M, Shimizu K, Saiki A, Takahara A: Blood presure –independent Arterial Stiffness, Cardio-Ankle Vascular Index and its clinical Application.  Artery12,  Vienna, Austria,  2012/10
その他
1. ◎杉山篤, 高原章: 慢性心房細動に対する新規治療薬:強力かつ安全な停止薬の開発.  第9回東邦大学4学部合同学術集会,  千葉,  2013/03
2. ◎高原 章: 「第4世代カルシウム拮抗剤、シルニジピン開発の心」―CAVIによる検証―.  第12回CAVI談話会,  佐倉,  2012/04
  :Corresponding Author
  :本学研究者