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 薬学部 薬理学教室
 Department of Chemical Pharmacology

教授:
  田中 芳夫
講師:
  茅野 大介
助教:
  小原 圭将
■ 概要
1. n-3系多価不飽和脂肪酸の血管の収縮機能に対する影響の検討
ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は,魚油に多く含有されるn-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)で,アテローム性動脈硬化症や高血圧症などの循環器系疾患に対して予防・改善効果を発揮することが報告されている。これらの効果には,DHAやEPAによる血小板凝集抑制や血管拡張が関与すると考えられているが,その詳細は必ずも十分には解明されているとは言い難い。特に,血管の収縮・弛緩機能に対するDHAやEPAの即時的影響を検討した研究は意外なほど,高濃度を用いても,得られる弛緩作用はそれほど強力とはいえない報告が多い。
 このような背景を踏まえ,我々は,n-3系PUFAの循環系に対する保護効果の一端を明らかにすることを目指して研究に着手し,その結果,DHAがトロンボキサンA2(TXA2)受容体(TP受容体)アゴニストにより収縮させた血管を強力に弛緩させるという現象を偶然にも見出した。
 本年度は,上述したDHAの血管作用をさらに追究し,血管内皮の役割を明らかにするとともに,その普遍性を検証することにした。
1)血管内皮の役割について
 ラットの胸部大動脈,腸間膜動脈を用いてDHAの血管弛緩作用を検討した。DHA(10-5 M)は,いずれの血管標本でも,TP受容体アゴニストであるU46619により収縮させた標本を強力に弛緩させた。DHAの弛緩作用は内皮保持標本,内皮剥離標本の両者で認められ,インドメタシン(Indo)やNω-ニトロ-L-アルギニン(L-NNA)によって影響を受けなかった。ノルアドレナリン(NA)により収縮させた腸間膜動脈の内皮保持標本では,アセチルコリン(ACh)はIndoとL-NNAに抵抗性を示し,カリブドトキシン(ChTX)とアパミンの同時処置により抑制される弛緩反応を誘発したが,DHAはそのような弛緩作用を示さなかった。
 以上の結果から,TP受容体アゴニストで収縮させた血管でもたらされるDHAによる弛緩反応は,プロスタサイクリン(PGI2),NO,内皮由来過分極因子(EDHF)などの内皮由来弛緩因子を介したものではなく,血管平滑筋に対する直接的な作用を介したものであることが明らかとなった。
2)TP受容体アゴニストで収縮させた標本を選択的に弛緩させる可能性
 DHAは,U46619で収縮させた胸部大動脈標本のほか,PGFで収縮させた標本も10-5 M以下の濃度で強力に弛緩させた。しかし,フェニレフリン(PE),高カリウム(80 mM KCl)溶液で収縮させた標本はほとんど弛緩させなかった。腸間膜動脈でも同様の結果であった。U46619とPGFによる収縮反応は,DHA(10-5 M)を前処置することによっても著明に抑制された。しかし,PEや高カリウムによる収縮反応のほか,NA,セロトニン(5-HT)による収縮反応は,DHAの前処置により有意に抑制されなかった。
 以上の結果から,DHAがTP受容体,FP受容体などのプロスタノイド受容体アゴニストにより収縮させた血管標本を強力に弛緩させることが明らかとなり,これがDHAの循環保護効果の一端を担う可能性が強く示唆された。
2. 尿排出機能障害治療薬の作用機序について
ジスチグミン(Dis)は,手術後や前立腺肥大・糖尿病などの慢性疾患に付随して発症する排尿筋低活動に伴う尿排出機能障害に対して適応される長時間持続性のコリンエステラーゼ(ChE)阻害薬である。排尿困難に対するDisの改善効果は,ChE阻害に基づく副交感神経節後線維-膀胱平滑筋のシナプス間隙におけるアセチルコリン(ACh)の濃度上昇を介した排尿平滑筋の収縮力増強に起因すると推察されてきた。しかし,下部尿路機能に対するDisの作用はこれまでほとんど検討されておらず,臨床的な有効性や有用性を説明する根拠は不十分であった。
 そこで,我々は,Disの膀胱運動に対する影響ならびにその機序を明らかにする目的で実験を進め,これまでに以下の点を明らかにしてきた。
① Disは膀胱容量を減少させずに排尿反射時の膀胱収縮力のみを顕著に増大させ,その効果に持続性が認められる点で,ネオスチグミンよりも優れた尿排出障害治療薬である。
② Disによる膀胱収縮力増強効果には尿道抵抗の上昇は関与せず,本薬物のChE阻害作用を介したAChによる排尿平滑筋の収縮力の増大によるものである。
③ Disの膀胱収縮力増強効果は,ChE阻害に基づく副交感神経節後線維-膀胱平滑筋のシナプス間隙におけるAChの濃度上昇を介した排尿平滑筋の収縮力増強に起因するものである(摘出排尿筋標本に神経電気刺激を与えて発生する収縮反応の解析結果より)。
 本年度は,摘出膀胱標本の収縮反応測定実験,シストメトリー法を利用した膀胱運動測定実験の結果から,ジスチグミンとベタネコールの作用を比較し,作用持続性や排尿反射時の膀胱収縮力の増大効果の点から,ジスチグミンがベタネコールよりも優れた尿排出障害治療薬であることを見出した。
■ Keywords
薬物受容体, 薬物受容体機構, α-アドレナリン受容体, β-アドレナリン受容体, β3-アドレナリン受容体, 消化管平滑筋, 膀胱平滑筋, 血管平滑筋, 平滑筋の収縮弛緩機序, Kチャネル, 下部尿路機能障害, ジスチグミン臭化物, 多価不飽和脂肪酸
■ 特許
1.  染井正徳, 重信弘毅, 田中芳夫 :インドール誘導体を有効成分とするα2受容体遮断剤及び血管拡張剤  ―特許第3964417号  (2007/06/01登録)
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成25年度科学研究費 基盤研究(C)  (研究課題番号:23590116)
 研究課題:n-3系多価不飽和脂肪酸の意外な作用:血管弛緩に関わる新しい機序  (研究代表者:田中芳夫)
 研究補助金:1200000円  (代表)
その他
1.  東邦大学薬学部奨励研究
 研究課題:高血圧時におけるドコサヘキサエン酸の降圧作用とその機序に関する研究  (研究代表者:茅野大介)
 研究補助金:500000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  田中芳夫 :「薬学生・薬剤師のための知っておきたい医薬品選600」編集委員
2.  田中芳夫 :JPS Advisor
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  田中芳夫 :日本薬理学会: 学術評議員・代議員・JPS Advisor, 日本平滑筋学会: 評議員・編集委員, Recent Patents on Cardiovascular Drug Discovery: Editorial Advisory Board
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















田中 芳夫   教授
  1  2          
 8
 
 
 
 1
茅野 大介   講師
  1  2          1
 7
 
 
 
 1
小原 圭将   助教
 1   2          3
 5
 
 
 
 1
 1 0  0 0  0  4
(0)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














田中 芳夫   教授
         
 
 
茅野 大介   講師
         1
 
 
小原 圭将   助教
 1        3
 
 
 1 0  0 0  0  4
(0)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. 小原圭将, 相川直己, 佐藤恭輔, 茅野大介, 田中芳夫:  モルモット下部尿路の収縮機能に対するジスチグミンとベタネコールの作用の比較.  応用薬理  85 (5/6) :101 -114 , 2013
2. Sato K, Chino D, Nishioka N, Kanai K, Aoki M, Obara K, Miyauchi S, Tanaka Y.:  Pharmacological Evidence Showing Significant Roles for Potassium Channels and CYP Epoxygenase Metabolites in the Relaxant Effects of Docosahexaenoic Acid on the Rat Aorta Contracted with U46619.  Biological & Pharmaceutical Bulletin  37 (3) :394 -403 , 2014
3. Sato K, Chino D, Kobayashi T, Obara K, Miyauchi S, Tanaka Y.:  Selective and potent inhibitory effect of docosahexaenoic acid (DHA) on U46619-induced contraction in rat aorta.  Journal of Smooth Muscle Research  49 :63 -77 , 2013
■ 学会発表
国内学会
1. ◎小原圭将, 片寄亜耶, 金木瑛理子, 佐藤恭輔, 茅野大介, 田中芳夫: モルモット膀胱収縮機能に対するジスチグミンの長時間持続性増強効果-コリンエステラーゼ(ChE)阻害効果ならびに血漿中濃度との関連性-.  第87回日本薬理学会年会,  仙台国際センター(仙台市、宮城),  2014/03
2. ◎佐藤恭輔, 西岡菜々子, 金井啓祐, 青木美歌, 小原圭将, 茅野大介, 田中芳夫: ドコサヘキサエン酸(DHA)の血管弛緩作用の機序に関する研究-K+チャネルとCYP依存性エポキシゲナーゼ代謝物の関与の可能性-.  第87回日本薬理学会年会,  仙台国際センター(仙台市、宮城),  2014/03
3. ◎佐藤恭輔, 中村聡妙, 小原圭将, 茅野大介, 田中芳夫: 不飽和脂肪酸によるTP受容体選択的血管収縮抑制とその機序に関する基礎的検討.  第57回日本薬学会関東支部大会,  帝京大学板橋キャンパス(板橋、東京),  2013/10
4. ◎上野明恵, 友松拓哉, 宇野準二, 佐藤恭輔, 小原圭将, 茅野大介, 田中芳夫: マウス血管の弛緩反応に関与するアドレナリンβ受容体の薬理学的性質.  第57回日本薬学会関東支部大会,  帝京大学板橋キャンパス(板橋、東京),  2013/10
5. ◎倉野 海, 茅野大介, 佐藤恭輔, 小原圭将, 増田秀樹, 後藤洋子, 西村 修, 田中芳夫: キバナオウギ葉部抽出物の血管弛緩作用とその機序に関する研究.  第57回日本薬学会関東支部大会,  帝京大学板橋キャンパス(板橋、東京),  2013/10
6. ◎小原圭将, 片寄亜耶, 金木瑛理子, 佐藤恭輔, 茅野大介, 田中芳夫: ジスチグミンによる長時間持続性の膀胱収縮機能増強効果-コリンエステラーゼ(ChE)阻害ならびに血中濃度との関連性-.  第129回日本薬理学会関東部会,  順天堂大学本郷キャンパス(文京区、東京),  2013/10
7. ◎小原圭将, 片寄亜耶, 金木瑛理子, 佐藤恭輔, 茅野大介, 田中芳夫: ジスチグミンによる膀胱収縮機能の長時間持続性増強効果とコリンエステラーゼ(ChE)活性阻害作用の関連性の検討.  第55回日本平滑筋学会総会,  旭川市大雪クリスタルホール(旭川市、北海道),  2013/08
8. ◎茅野大介, 石川雄也, 友松拓哉, 上野明恵, 椎名俊介, 宇野準二, 佐藤恭輔, 小原圭将, 田中芳夫: マウス平滑筋のプロプラノロール(Prop)感受性(typical)β-アドレナリン受容体(β-ADR)の薬理学的性質.  第55回日本平滑筋学会総会,  旭川市大雪クリスタルホール(旭川市、北海道),  2013/08
その他
1. ◎佐藤恭輔, 西岡菜々子, 金井啓祐, 青木美歌, 小原圭将, 茅野大介, 田中芳夫: ドコサヘキサエン酸(DHA)の血管弛緩作用とその機序に関する薬理学的検討.  第7回先端分子薬理研究会,  東京慈恵会医科大学(港区、東京),  2013/12
  :Corresponding Author
  :本学研究者