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 薬学部 薬理学教室
 Department of Chemical Pharmacology

教授:
  田中 芳夫
講師:
  茅野 大介
■ 概要
1. 薬物受容体に関する研究
薬物受容体を介した反応を詳細に検討することにより,1)薬物受容体機構の解明,および,2)薬物受容体を標的とした治療薬の創薬を指向した基礎研究を行っている。対象とする受容体は,アドレナリン受容体,アセチルコリン受容体,セロトニン受容体,ヒスタミン受容体,オピオイド受容体等々である。現在は主として,アドレナリン受容体(α-,β-アドレナリン受容体)機構に主眼を置いている。
1)β-アドレナリン受容体について
 β-受容体には,β1,β2サブタイプに加え,β3サブタイプの存在が知られている。β3サブタイプは,古典的β-受容体拮抗薬であるプロプラノロールに感受性を示さない性質を持ち,当初,脂肪組織で発見された。当教室では,モルモット消化管平滑筋(盲腸紐,胃底平滑筋,十二指腸平滑筋)の内因性カテコラミンによる弛緩反応に関与するβ-受容体サブタイプの薬理学的性質を追究した結果,高濃度のブプラノロールによって拮抗される性質を示すβ3サブタイプであることを見出している。また,β3サブタイプは,膀胱・血管平滑筋(大動脈平滑筋)にも広範囲に存在することも明らかにしている。
 本年度はさらに,マウス気管平滑筋に発現しているβ-受容体の薬理学的性質の解明を行い,主として発現しているβサブタイプがβ1である可能性を見出した。また,β1以外に,β2とβ3が発現していて弛緩反応に関与する可能性を示す結果も得られているが,これについてはさらに詳細に吟味する予定である。このほか,マウス大動脈平滑筋に発現しているβ-受容体の薬理学的性質の解明についても研究を着手し,ラットの大動脈平滑筋に発現しているβ-受容体とは性質が異なるβ-受容体が発現している可能性を示す結果が得られつつある。

2)α-アドレナリン受容体について
 α-受容体は,α1-受容体とα2-受容体に細分類され,更に,α1-受容体にはα1A-,α1B-,α1D-サブタイプが,α2-受容体にはα2A,α2B,α2Cサブタイプが存在する。
 我々は,薬物受容体理論に基づき,血管系の部位による反応性の違いについて検討してきた。血管反応性の部位差は,受容体への親和性と受容体密度によってある程度は説明可能である。しかし,部位ごとの詳細なサブタイプの相違についての体系的な研究はなされていない。そこで,α1-受容体を介した血管の収縮反応についてこの観点から検討している。ウサギ動脈系について検討した結果,胸部・腹部大動脈ではα1Aとα1B,腎・腸骨動脈ではα1A,α1B,α1D,腸間膜動脈ではα1A,α1B,α1Dに加え,これらのサブタイプのいずれとも異なるタイプ(α1L)の存在の可能性を見出見出した。また,遺伝子改変動物として汎用されるマウスを用いた検討も行い,胸部・上部腹部大動脈,腸間膜動脈ではα1Dが,腎動脈,下部腹部大動脈,腸骨動脈ではα1Aが関与することを明らかにした。
 本年度はさらに,ラット大動脈平滑筋に発現しているα2受容体の薬理学的性質に関する研究にも着手した。その結果,α2受容体が,ある種のカリウムチャネルと共役する可能性を示唆する結果が得られつつあり,今後さらに詳細に吟味する予定にしている。
2. 各種平滑筋の収縮弛緩機序に関する研究
平滑筋の収縮弛緩機序は,個々の平滑筋によりまちまちであり,未だ完全には解明されていない。そこで,収縮弛緩機序解明の一助になるべく,血管・膀胱・気管等の種々の平滑筋を用いて,あらゆる方面からのアプローチを試みている。
1)尿排出機能障害治療薬の作用機序について
 ジスチグミン(Dis)は,手術後や前立腺肥大・糖尿病などの慢性疾患に付随して発症する排尿筋低活動に伴う尿排出機能障害に対して適応される長時間持続性のコリンエステラーゼ(ChE)阻害薬である。排尿困難に対するDisの改善効果は,ChE阻害に基づく副交感神経節後線維-膀胱平滑筋のシナプス間隙におけるアセチルコリン(ACh)の濃度上昇を介した排尿平滑筋の収縮力増強に起因すると推察されてきた。しかし,下部尿路機能に対するDisの作用はこれまでほとんど検討されておらず,臨床的な有効性や有用性を説明する根拠は不十分であった。そこで,この点を詳細に吟味した結果,① Disは膀胱容量を減少させずに排尿反射時の膀胱収縮力のみを顕著に増大させ,その効果に持続性が認められる点で,ネオスチグミンやベタネコールよりも優れた尿排出障害治療薬であること,② Disによる膀胱収縮力増強効果には,尿道抵抗の上昇は関与しないこと,本薬物のChE阻害作用を介したAChによる排尿平滑筋の収縮力の増大によること,を明らかにしてきた。
 本年度はさらに,モルモットとマウスの摘出排尿筋標本に神経電気刺激を与えて発生する収縮反応に対するDisの影響を検討し,Disが,アトロピン感受性の収縮成分(AChを介した収縮成分)に対してのみ増強効果を示すが,α,β-mATP感受性の収縮成分(ATPを介した収縮成分)に対しては影響を与えないことを見出し,Disの膀胱収縮力増強効果が,ChE阻害に基づく副交感神経節後線維-膀胱平滑筋のシナプス間隙におけるAChの濃度上昇を介した排尿平滑筋の収縮力増強に起因することを薬理学的に実証することに成功した。

2)血管平滑筋におけるβ-受容体を介した弛緩反応の機序解析
 当教室ではこれまで,血管平滑筋や消化管平滑筋,気管平滑筋のβ-受容体を介した弛緩反応の機序解析に取り組んできた。その結果,β1-受容体,β2-受容体,3-受容体いずれの場合も,受容体刺激を介した平滑筋の弛緩反応にある種のカリウムチャネル(Kチャネル)の活性化が関与する可能性を示してきた。
 本年度は,ラット胸部大動脈とラット腸間膜動脈でのβ-受容体を介した弛緩反応に対するKチャネルの役割を検討し,電位依存性Kチャネルや内向き整流性Kチャネルが関与する可能性を示唆する結果を得た。今後,マウスの各種平滑筋でのβ-受容体を介した弛緩反応におけるKチャネルの役割を検討するとともに,関与するKチャネルの分子種について薬理学的に検討する予定にしている。
■ Keywords
薬物受容体, 薬物受容体機構, α-アドレナリン受容体, β-アドレナリン受容体, β3-アドレナリン受容体, 消化管平滑筋, 膀胱平滑筋, 血管平滑筋, 平滑筋の収縮弛緩機序, Kチャネル, 下部尿路機能障害, ジスチグミン臭化物, 不飽和脂肪酸
■ 特許
1.  染井正徳, 重信弘毅, 田中芳夫 :インドール誘導体を有効成分とするα2受容体遮断剤及び血管拡張剤  ―特許第3964417号  (2007/06/01登録)
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成23年度科学研究費 基盤研究(C)  (研究課題番号:23590116)
 研究課題:n-3系多価不飽和脂肪酸の意外な作用:血管弛緩に関わる新しい機序  (研究代表者:田中芳夫)
 研究補助金:1700000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  田中芳夫 :「薬学生・薬剤師のための知っておきたい医薬品選600」編集委員
■ 当該年度の主催学会・研究会
1.  第53回日本平滑筋学会総会  (会長代理 : 日本平滑筋学会 )  ,東京(ゆうぽうと)  2011/08
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  田中芳夫 :日本薬理学会学術評議員・代議員, 日本平滑筋学会評議員, Recent Patents on Cardiovascular Drug Discovery, Editorial Advisory Board
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















田中 芳夫   教授
博士(薬学)
 1  1    1       1
 6
 
 
 
 
茅野 大介   講師
博士(薬学)
              
 8
 
 
 
 
 1 1  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














田中 芳夫   教授
博士(薬学)
 1 1       1
 
 
茅野 大介   講師
博士(薬学)
         
 
 
 1 1  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Tanaka Y, Takahashi H, Shibata S, Namiki K, Kimura S, Koike K, Kasuya Y.:  Functional analysis of guinea pig beta1-adrenoceptor.  Journal of Receptors and Signal Transduction  31 (6) :785-790 , 2011
総説及び解説
1. 田中芳夫:  β受容体の臓器分布と生理活性.  ICUとCCU  35 (10) :785-790 , 2011
■ 著書
1. 青木 伸、青木 隆など:    薬学用語辞典  1-535.  東京化学同人,  文京区(東京都), 2012
■ 学会発表
国内学会
1. ◎飯干 祐里, 重松 舞衣, 茅野 大介, 田中 芳夫: 腸間膜動脈の弛緩反応に関わるbeta-アドレナリン受容体サブタイプとKチャネルとの共役の可能性の検討.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋市(東邦大学薬学部),  2011/10
2. ◎佐野 慶行, 椎名 俊介, 茅野 大介, 田中 芳夫: β-受容体を介したラット胸部大動脈の弛緩反応に対するKチャネルの役割に関する基礎的検討.  第13回応用薬理シンポジウム,  船橋市(日本大学薬学部8号館),  2011/09
3. ◎小林 由里菜, 小原 圭将, 茅野 大介, 田中 芳夫: 排尿筋の収縮反応に対するジスチグミン臭化物の影響-アセチルコリンならびにATPを介した収縮成分に対する効果の検討-.  第13回応用薬理シンポジウム,  船橋市(日本大学薬学部8号館),  2011/09
4. ◎飯干 祐里, 重松 舞衣, 茅野 大介, 田中 芳夫: ラット腸間膜動脈のβ-受容体を介した弛緩反応機序.  第13回応用薬理シンポジウム,  船橋市(日本大学薬学部8号館),  2011/09
5. ◎佐藤 恭輔, 小林 友也, 茅野 大介, 田中 芳夫: ドコサヘキサエン酸(DHA)の血管収縮抑制に関わる機序の解明を目指した基礎的検討-エイコサノイド受容体を介した収縮に対する選択的抑制の可能性の再検証-.  第53回日本平滑筋学会総会,  東京(ゆうぽうと),  2011/08
6. ◎小原 圭将, 小林 由里菜, 茅野 大介, 田中 芳夫: ジスチグミンの膀胱収縮機能に対する増強効果の検討-神経電気刺激による収縮反応に対する影響と薬剤誘発性排尿障害に対する改善効果-.  第53回日本平滑筋学会総会,  東京(ゆうぽうと),  2011/08
7. ◎田中 芳夫, 重松 舞衣, 小林 由里菜, 飯干 祐里, 佐野 慶行, 粕谷 善俊, 茅野 大介: β-アドレナリン受容体(β-ADR)サブタイプの薬理学的同定と交感神経の化学的除神経の影響-ラット腸間膜動脈での検討-.  第124回日本薬理学会関東部会,  東京,  2011/06
8. ◎北澤紀幸, 茅野大介, 増田秀樹, 後藤洋子, 渡邉泰雄: ラット大動脈リング標本を用いたキバナオウギ抽出物の血管弛緩作用とその機序の解明.  第13回応用薬理シンポジウム,  船橋市(日本大学薬学部8号館),  2011/09
  :Corresponding Author
  :本学研究者