2008年度
 医学部 医学科 解剖学講座/微細形態学
 Division of Histology and Cell Biology, Department of Anatomy
■ 概要
1.前頭前皮質と視床背内側核(MD 核)間の神経回路・機構の研究
作業記憶などの高次脳機能に深く関わる前頭前皮質と視床背内側核(MD 核)間の神経回路・機構を研究している。両者間における興奮性単シナプス性フィードバック・ループの証明は,この興奮性反響回路が作業(短期)記憶の保持に貢献しているという仮説を大きく後押ししている。現在,この興奮性ループの制御系,特に皮質内抑制性インターニューロンおよび腹側被蓋野の関与について検索中である。
MD 核神経終末は前頭前皮質第I 層または第Ⅲ層のGABA 陽性細胞に終わり,GABA 陽性神経終末はMD 核に線維を送る深層皮質視床細胞細胞体に対称性シナプスを形成して終わる電顕像を多く観察した。以上の結果は,前頭前皮質とMD核間の興奮性反響回路によって保持される作業記憶を皮質内抑制性インターニューロンによるfeedforward およびfeedback inhibition が調整していることを示唆している。さらに,皮質外抑制系として腹側被蓋野からの皮質入力が参画していることも証明した。この腹側被蓋野からの皮質入力の多くは、ドーパミン(DA)作動性であり特異抗体を用いた免疫染色法によって前頭前皮質におけるDA 作動性システムを光顕および電顕的に検索中である。
2.視床背外側核(LD 核)と膨大後野・視覚連合野間の神経回路の研究
視床連合核の1 つであるLD 核は大脳辺縁系に加えて視覚連合野と線維結合を有し,また視覚と関連した皮質下領域とも線維結合を有している。そのためLD 核は視覚情報の中継に関わっていると考えられている。LD 核と大脳辺縁系・視覚連合野間の神経回路の一端を明らかにするために,順行性および逆行性トレーサーを用いて皮質視床路の神経終末の形態と起始細胞の皮質内分布を解析した。
3.器官発生学的研究
心臓流出路中隔形成過程を走査電子顕微鏡を用いて研究している。従来より知られる心臓流出路の中隔形成過程は鳥類をも含めた複数の動物種から得た種々の発生段階をつなぎ合わせたものである。ラット心臓流出路中隔形成過程のすべての記載を目指している。
4.視床におけるムスカリン受容体分布の解析
ラットの視床網様核でのムスカリン受容体サブタイプの分布を電子顕微鏡レベルで解析した。その結果,m2 受容体サブタイプは網様核細胞の遠位樹状突起に密に分布しており,コリン作動性入力はこの受容体を介して視床中継細胞を脱抑制するものと考えられる。
■ Keywords
前頭前皮質, 視床, シナプス, 電子顕微鏡, 腹側被蓋野, 皮質視床路, 動脈幹隆起, 心球隆起, 視床網様核, ムスカリン受容体
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成20年度文部科学省大学院高度化推進特別経費
 研究課題:視床背外側核と膨大後野および視覚連合野間の神経回路網の電顕的研究  (研究代表者:黒田 優)
 研究補助金:2425000円  (代表)
2.  平成20年度文部科学省科学研究費補助金 基盤研究C  (研究課題番号:19500300)
 研究課題:作業記憶神経回路におけるドーパミン作動性入力の分布とシナプス形態  (研究代表者:黒田 優)
 研究補助金:500000円  (代表)
3.  平成20年度東邦大学医学部プロジェクト研究  (研究課題番号:20-14)
 研究課題:カルシウムシグナル伝達におけるリン脂質結合タンパク質PCTP-L複合体の研究  (研究分担者:小田哲子)
 研究補助金:0円  (分担)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  黒田 優 :財団法人大学基準協会判定委員会・相互評価委員会分科会評価委員
■ 当該年度の主催学会・研究会
1.  神経解剖学懇話会シンポジウム  (世話人 : 黒田 優, 金子武嗣 )  ,岡山  2009/03
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  黒田 優 :日本解剖学会評議員・解剖体委員会委員・神経解剖懇話会世話人
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















黒田 優   教授
医学博士
    1  1        
 2
 
 
 
 
五十嵐 広明   講師
医学博士
    1          
 2
 
 
 
 
小田 哲子   講師
博士(医学)
    1          
 1
 
 
 
 
横藤田 純子   助教
博士(医学)
   1           1
 
 
 
 
 
 0 1  1 0  0  1
(0)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














黒田 優   教授
医学博士
    1     
 
 
五十嵐 広明   講師
医学博士
         
 
 
小田 哲子   講師
博士(医学)
         
 
 
横藤田 純子   助教
博士(医学)
  1       1
 
 
 0 1  1 0  0  1
(0)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Mitsushima D, Takase K, Funabashi T, Kimura F:  Gonadal steroids maintain 24-h acetylcholine release in the hippocampus: organizational and activational effects in behaving rats.  Journal of Neuroscience  29 :3808-3815 , 2009
2. Takase K, Mitsushima D, Yagami T, Kimura F:  Sex-specific 24-h acetylcholine release profile in the medial prefrontal cortex: simultaneous measurement of spontaneous locomotor activity in behaving rats.  Neuroscience  159 :7-15 , 2009
3. Yokofujita J, Oda S, Igarashi H, Sato F, Kuroda M:  Synaptic characteristics between cortical cells in the rat prefrontal cortex and axon terminals from the ventral tegmental area that utilize different neurotransmitters.  The International Journal of Neuroscience  118 :1443-1459 , 2008
総説及び解説
1. Mitsushima D, Takase K, Funabashi T, Kimura F:  Activational and organizational effects of gonadal steroids on sex-specific acetylcholine release in the dorsal hippocampus.  Journal of Neuroendocrinology  21 :400-405 , 2009
■ 著書
1. 高久史麿, 佐藤二美、小田哲子他:    ステッドマン ポケット医学略語辞典  1-526.  メジカルビュー社,  東京, 2009
2. 黒田 優:  嗅神経 他19用語.  医学書院医学大辞典  619 他.  医学書院,  東京、日本, 2009
■ 学会発表
国内学会
1. ◎横藤田純子, 小田哲子, 五十嵐広明, 黒田 優: 異なる神経伝達物質を利用するラット腹側被蓋野投射線維と前頭前野細胞間のシナプス形態について.  第114回日本解剖学会総会・全国学術集会,  岡山,  2009/03
2. ◎Jitsuki S, Takase K, Takahashi T: Serotonin facilitates AMPA receptor trafficking in the developing barrel cortex of rats with visual deprivation.  日本神経科学学会主催 第31回日本神経科学大会,  東京、日本,  2008/07
3. ◎Miyazaki T, Takase K, Mitsushima D, Takahashi T: Social isolation disrupts experience-driven synaptic delivery of AMPA receptors in developing rat barrel cortex via glucocorticoid.  日本神経科学学会主催 第31回日本神経科学大会,  東京、日本,  2008/07
4. ◎Yagami T, Takase K: A possible involvement of 15-deoxy-Δ12,14-prostaglandin J2 in amyloidosis.  日本神経科学学会主催 第31回日本神経科学大会,  東京、日本,  2008/07
5. ◎北村 衛, 片桐由紀子, 渋井幸裕, 福田雄介, 宋 晶子, 渡辺慎一郎, 松江陽一, 竹下直樹, 佐々木由香, 五十嵐広明, 黒田 優, 佐藤嘉兵, 森田峰人: ガラス化法により凍結融解したマウス胚盤胞の透明帯の走査電子顕微鏡による観察.  第49回日本哺乳動物卵子学会,  名古屋,  2008/05
その他
1. ◎高瀬堅吉: 養育環境・生活環境によってつくられる高次脳機能の性差.  日本行動科学学会主催 第25回ウィンターカンファレンス, シンポジウム,  長野、日本,  2009/03
  :Corresponding Author
  :本学研究者