<<< 前 2010年度 | 2011年度 | 2012年度
 医学部 医学科 化学研究室
 Department of Chemistry

教授:
  加藤 修司
准教授:
  大胡 惠樹
  加藤 尚之
講師:
  池崎 章
■ 概要
1. ポルフィリン金属錯体を用いたヘム蛋白質の機能解明
ヘム蛋白質の作用機構を明らかにするため、種々のヘムモデル錯体を合成し、NMR. EPR, Mössbauer, SQUID, X線結晶構造解析などの手法を駆使して研究を進めている. 
i) ポルフィリン鉄錯体の電子状態に関する研究(本学理学部化学科高橋 正教授との共同研究):軸配位子の配位子場、ポルフィリン環の非平面化、環周辺置換基の電子的効果、溶媒との水素結合などを利用し、新規な電子状態を示すヘムモデル錯体の合成を試みている。昨年度報告したdxy軌道にスピンを持つ新規な中間スピン錯体について、「鉄の電子配置と錯体の物性」との関係を明らかにするための研究を進ている。
ii) クロリン鉄錯体の電子状態に関する研究 (フランス、レンヌ大学、Simonneaux 博士との共同研究):クロリン鉄錯体はグリーンヘムとよばれる一群の蛋白質の活性中心に存在し、自然界における多様な反応に深く関わっているが、その作用機構については不明な点が多い. そこでクロリン錯体合成研究の先駆者の一人であるSimonneaux博士 (フランス、CNRS)らと共同して、クロリン鉄錯体の電子状態を明らかにするための研究を進めている. 
iii) ポルフィリン異性体の電子状態に関する研究(千葉大学薬学部根矢教授との共同研究):環状テトラピロールに
は自然界に存在するポルフィリンの他に、ポルフィセンなど自然界には存在しない異性体がある. 環構造の変化が錯体の電子状態や反応性にどのような影響を与えるかを明らかにするため、根矢教授(千葉大学)と共同で研究を進めている.
iv)ヘム蛋白質の活性中心に関する研究(千葉大学、根矢三郎教授グループとの共同研究):ポルフィリンmeso-炭素を13C(98%)で標識したヘムで再構成したヘムタンパク質を合成し,meso-炭素の化学シフトや緩和時間から活性部位における鉄-タンパク質間の相互作用を詳細に検討している。現在,ミオグロビンのデオキシ体、オキシ体、アジド付加体などの測定に成功している。今後この手法をヘモグロビンやヘムオキシゲナーゼに適用し,これらのヘム蛋白質の作用機構を詳細に検討する予定である。
v)シトクロームc’モデル錯体の合成と性質(本学理学部化学科高橋 正教授との共同研究):シトクロームc’はヒスチジンを軸配位子として持つ5配位錯体であり、鉄(III)のスピン状態がpH、温度、水素結合などにより容易に変化する興味深い蛋白質であるが、そのモデルとなる軸位にイミダゾールを持つ5-配位ポルフィリン鉄錯体の単離は極めて困難であった。今回、サドル型に変形したポルフィリン鉄錯体を用いることにより、いくつかのモノイミダゾール錯体の合成に成功した。NMR. EPR, Mössbauer, X線結晶構造解析の結果、この錯体のスピン状態は温度変化に伴い中間スピン(S=3/2)から高スピンおよび低スピンに変化する極めて特異な性質を持つことが明らかになった。現在、構造とスピン状態の関連性を本学理学部化学科高橋正教授らと共同で詳細に検討している。
vi) ポルフィリン鉄(III)ラジカルカチオンの合成と性質(ノルウエー、トロムソ大学、A. Ghosh教授らとの共同研究):ポルフィリンラジカルカチオンはシトクロームP450,カタラーゼ、ペルオキシダーゼなどの酸化酵素における活性中間体と関わる重要な分子種である。ポルフィリン環上のラジカルは中心の鉄イオンと相互作用し、様々な電子状態を示す錯体を形成する。軸配位子の性質を利用することにより、常磁性(S=1)と反磁性(S=0)を示す二種類のラジカルカチオンの合成に初めて成功した。反磁性錯体については、ヘム理論研究の第一人者であるGhosh教授(ノルウエー)らと共同で、詳細に電子状態の検討を行っている。
4. ポルフィリン金属錯体を用いた「スピン制御触媒」の構築:
酸化触媒として広く用いられているポルフィリン-マンガンおよび鉄錯体を合成し、その酸化触媒能がマンガンや鉄の電子配置により異なることを示すための研究を行っている. もしこのような錯体が合成されれば、「スピン制御触媒」という、これまでには無い新たな研究分野に発展し得る.
5. パルサー法による温泉水中のレジオネラ属菌の検出に対する検討
温泉に生息するLegionella の研究を微生物・感染症学教室と共同で行っている。温泉水中のレジオネラ属菌の検出では,一般にWYOα寒天平板を用いた培養法が用いられている.しかし,この方法は,確実に生きていて増殖能を持っているレジオネラ属菌は検出できるが,培地に他の共存する細菌の生育を抑制する成分を添加するため,自身もその成分により多少ダメージを受け,実際の菌数よりも検出菌数は減少する.また検出には8〜10日を要するために現状を把握するのには必ずしも適していない.そこでこれまでの遺伝学的な方法と異なり,生菌のみが短時間で検出できるパルサー法(PALSAR: probe alternation link self-assembly reaction)に着目し,様々な泉質を有する温泉水中に生息するレジオネラ属菌の検出に応用できるかどうか明らかにするために,温泉水を用いて基礎的実験を行い,パルサー法,Realtime-PCR法,培養法およびATP法によるレジオネラ属菌の検出結果について比較検討を行い,パルサー法の有効性について評価を行なっている.
6. 温泉水中のLegionella Pneumophilaの生存条件に関する基礎的研究
温泉に生息するLegionella の研究を微生物・感染症学教室と共同で行っている。これまでに温泉の泉温およびpH とL.pneumophila のVNC 移行性への関係,温泉への環境中からの汚染経路の解明として,特に温泉周辺土壌におけるL.pneumophila との関係,さらに,循環式温泉を導入している施設での新たな殺菌剤として銀に着目し,温泉水中に生息するL. pneumophila とその宿主であるAcanthamoeba に対する銀殺菌の効果について明らかにするために研究を行ってきた。本年度は,引き続き銀殺菌について検討を行うとともに,新たな殺菌剤として銅に着目し,L. pneumophila とその宿主であるAcanthamoeba に対する銅殺菌の効果についても実験室的に検討を行っている。
■ Keywords
ポルフィリン, ヘム, 電子状態, スピン状態, 高原子価鉄錯体, スピン制御触媒, NMR, EPR, Mossbauer, レジオネラ属菌, 温泉, 殺菌作用, アメーバ
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  文部科学省科学研究費 若手研究(B)  (研究課題番号:21750175)
 研究課題:特異な軌道間相互作用を利用したスピン制御触媒の構築  (研究代表者:池崎 章)
 研究補助金:600000円  (代表)
その他
1.  平成24年度医学部医学科プロジェクト研究  (研究課題番号:24-8)
 研究課題:金属タンパク質における新規活性中間体のモデル研究  (研究代表者:池崎 章)
 研究補助金:500000円  (代表)
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















加藤 修司   教授
博士(理学)
    1          
 
 
 
 
 
大胡 惠樹   准教授
博士(理学)
   2           5
(4)
 
 3
(1)
 
 
 
加藤 尚之   准教授
博士(医学)
              2
 2
 
 
 
 
池﨑 章   講師
博士(理学)
   1 2          2
 1
 1
 3
(1)
 
 
 0 3  0 0  0  9
(4)
 4
(1)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














加藤 修司   教授
博士(理学)
         
 
 
大胡 惠樹   准教授
博士(理学)
  2       5
(4)
 3
(1)
 
加藤 尚之   准教授
博士(医学)
         2
 
 
池﨑 章   講師
博士(理学)
  1       2
 1
 
 0 3  0 0  0  9
(4)
 4
(1)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Ikezaki A, Takahashi M, Nakamura M:  Equilibrium between Fe(IV) Porphyrin and Fe(III) Porphyrin Radical Cation: New Insight into the Electronic Structure of High-Valent Iron Porphyrin Complexes. (Inside Front Cover).  Chemical Communications  49 (30) :3098 -3100 , 2013
2. Kurahashi S, Ikeue T, Sugimori T, Takahashi M , Mikuriya M, Handa M, Ikezaki A , Nakamura M:  Formation and Characterization of Five- and Six-coordinate Iron(III) Corrolazine Complexes.  Journal of Porphyrins and Phthalocyanines  16 :518-529 , 2012
3. Wren S W, Vogelhuber K M, Garver J M, Kato S, Sheps L, Bierbaum V M, Lineberger W C:  C-H Bond Strengths and Acidities in Aromatic Systems: Effects of Nitrogen Incorporation in Mono-, Di-, and Triazines.  Journal of The American Chemical Society  134 :6584 -6595 , 2012
4. Y. Ohgo, M. Takahashi, S. Neya, M. Nakamura, K. Takahashi, Y. Namatame, H. Konaka, H. Mori, D. Hashizume:  A Less Common Spin-crossover Process Observed in the Six-coordinated Model Heme Complexes.  Polyhedron  66 :60 -64 , 2013
総説及び解説
1. Y. Ohgo, M. Takahashi, K. Takahashi, Y. Namatame, H. Konaka, H. Mori, S. Neya, S. Hayami, D. Hashizume, M. Nakamura:  Manipulation of the heme electronic structure by external stimuli and ligand field.  Hyperfine Interactions  206 :23-33 , 2012
2. Nakamura M, Ikezaki A, Takahashi M:  Metal-Porphyrin Orbital Interactions in Paramagnetic Iron Complexes Having Planar and Deformed Porphyrin Ring. (Front Cover).  Journal of the Chinese Chemical Society  60 (1) :9-21 , 2013
■ 学会発表
国内学会
1. ◎大胡惠樹: 生体とマテリアルに対する融合的アプローチ.  東北大学卓越大学院研究会 「金属錯体の固体物性最前線 —金属錯体と固体物性物理と生物物性の連携新領域を目指してー」,  仙台,日本,  2013/02
2. ◎大胡惠樹: 外場応答ヘムモデルによる生体とマテリアルへのアプローチ.  分子研研究会 「生物物質科学の展望」,  岡崎,日本,  2013/01
3. ◎倉橋悟志, 池上崇久, 杉森保, 池崎章, 半田真, 御厨正博, 中村幹夫: オクタキス(4-t-ブチルフェニル)ポルフィラジンの鉄錯体における軸配位効果.  2012年 日本化学会西日本大会,  佐賀市,  2012/11
4. ◎池崎 章: ヘムの新規高原子価反応中間体の構築:ヘムタンパク質の機能解明モデル.  第66回東邦医学会総会,  東京,  2012/11
5. ◎大胡 惠樹, 木村尚次郎,生天目 由起子, 小中 尚, 橋爪大輔, 根矢 三郎: 粉末及び結晶におけるポルフィリン鉄錯体の磁気挙動.  日本結晶学会,  仙台,日本,  2012/10
6. ◎大野章,加藤尚之,嵯峨知生,山口惠三,舘田一博: 循環温泉水、冷却塔水および臨床由来の各Legionella pneumophila SG1 subgroupおよび病原性の相違.  第61回日本感染症学会東日本地方会,  東京都,  2012/10
7. ◎加藤尚之, 大野章, 原口浩幸, 高橋雅子, 布藤聡: 新パルサー法についての検討.  日本温泉科学会第65回大会,  北海道登別市,  2012/09
8. ◎大野章,嵯峨知生,舘田一博,加藤尚之: 温泉, 冷却塔,臨床由来の各Legionella pneumophila SG1のsubtypeおよび病原性の相違.  日本温泉科学会第65回大会,  北海道登別市,  2012/09
9. ◎加藤尚之, 齋藤宏治, 大野章: 温泉でのレジオネラおよびアメーバに対する消毒方法の検討.  日本防菌防黴学会第39回年次大会,  東京,  2012/09
10. ◎大胡惠樹: 外部刺激応答型錯体を追跡する様々なアプローチ.  錯体化学若手の会夏の学校2012,  神戸,日本,  2012/08
11. ◎大胡惠樹: 外部刺激応答型ヘムモデルの構造と物性.  分子研研究会 レーザー分光および磁気測定による分子構造探求の新展開,  岡崎,日本,  2012/07
12. ◎Ikezaki A, Takahashi M, Nakamura M: Novel Spin Equilibrium between an Iron(III) Porphyrin Radical Cation State and an Iron(IV) Porphyrin State.  錯体化学会第62回討論会,  富山,  2012/09
国際学会
1. ◎Ohgo Y, Takahashi K, Takahashi M, Namatame Y, Konaka H, Mori H, Neya S, Hashizume D: Peculiarity in the Spin-crossover Process of Model Heme Complexes.  ICMM2012,  Orland, USA,  2012/10
2. ◎Ikezaki A, Takahashi M, Nakamura M: Novel Spin Equilibrium between Iron(IV) Porphyrin and Iron(III) Porphyrin Radical Cation.  Seventh International Conference on Porphyrins and Phthalocyanines (ICPP-7),  Jeju, Korea,  2012/07
3. ◎Kurahashi S, Ikeue T, Sugimori T, Takahashi M, Mikuriya M, Handa M, Ikezaki A, Nakamura M: Effects of axial ligands on the coordination and electronic structure of Iron(III) octakis(4-t-butylphenyl)corrolazine complexes.  Seventh International Conference on Porphyrins and Phthalocyanines (ICPP-7),  Jeju, Korea,  2012/07
4. ◎Niibori Y, Ikezaki A, Nakamura M: Methodology to determine the NMR chemical shifts of carbon atoms with radical character: A case of
low-spin bis(tert-butylisocyanide) complex of (meso-tetrapropylporphyrinato)iron(III).  Seventh International Conference on Porphyrins and Phthalocyanines (ICPP-7),  Jeju, Korea,  2012/07
5. ◎Y. Ohgo, K. Takahashi, M. Takahashi, Y. Namatame, H. Konaka, S. Kimura, D. Hashizume, H. Mori, and S. Neya: Unusual Response to the External Stimuli in Model Heme Complexes.  MOLMAT2012,  Barcelona, Spain,  2012/07
6. ◎Nakamura M, Ikezaki A, Takahashi M: Control of Heme Electronic Structure by Means of Axial Ligands and Porphyrin Conformation.  7th International Conference on Porphyrin and Phthalocyanines,  Jeju, Korea,  2012/07
7. ◎Y. Ohgo, K. Takahashi, M. Takahashi, Y. Namatame, H. Konaka, H. Mori, S. Neya, S. Hayami, D. Hashizume, and M. Nakamura: Structural Characterization and Physicochemical Properties in the Biomimetic Spin-Crossover Materials.  7th INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON HIGH-TECH POLYMER MATERIALS (HTPM-VII),  Xi'an, China,  2012/06
  :Corresponding Author
  :本学研究者