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 理学部 物理学科 表面物理学教室
 Surface Physics Laboratory
■ 概要
Goethite表面におけるCd吸着形態の観察
粘土鉱物表面上への重金属の吸着は,人体への経路の点から幅広く研究されて来た.吸着メカニズムへの理解は汚染土壌の改善の為の基礎研究として重要となる.我々は粘土鉱物の一種であるゲータイト(α-FeOOH)にカドミウム(Cd)を吸着させ,原子間力顕微鏡(AFM),X線光電子分光法(XPS)による観察を行った.本実験では真空蒸着によりゲータイト表面に決められた被覆率までCdを蒸着し,AFMとXPSにより観察・測定を行った. 
(1) AFM観察
AFM実験では真空中(10-3Pa)にてコンタクトモードを使用し観察を行った. サンプル表面の帯電を抑制するためにカンチレバはAuでコーティングした物を使用し,金属板上に導電性の接着剤であるドータイト用いて,試料台に固定した.サンプルには天然に成長した針状ゲータイト,板状ゲータイト,Cdを蒸着した針状ゲータイトを使用した.
板状ゲータイト壁開面のAFM像では,ゲータイトの8面体ユニットが規則的に配列した(110)面原子像の撮影に成功した. 針状ゲータイト(110)面上のCd蒸着膜の成長過程は,まず,1原子層分Cd蒸着した面上では,c軸方向に沿った細長い島状成長し,さらなる蒸着により[110]方向及び(110)面垂直方向へと成長する事が分かった.
(2) XPS測定
 XPS実験においてX線源にはMgKα(1253.6[eV])を使用した.帯電補正には284.6eVのC1sピークを用いた.ピーク位置を求める為に直線法により,バックグラウンドを差引き,ピーク形状(peak profile)をガウス関数でフィッティングをした.サンプルは板状ゲータイト及びCdを蒸着した板状ゲータイトを使用した.サンプルホルダーに取り付けられる大きさに壁開し,表面帯電を抑える為にステンレス板状に導電性の接着剤を用いて固定しXPS試料室に設置した.01sスペクトルを測定しガウス関数によりOH-とO2-成分に分解した.
 板状ゲータイト壁開面のO1sピークの分析からゲータイトのOH-とO2-のOが確認され、その強度は1:1となった。これはXPS観察領域内には様々な面が含まれている事を示している。Cd蒸着により01sピークは低結合エネルギー側へシフトした.強度比を1:1に固定し,ピークの分解を行ったところOH-とO2-ともにピークシフトを起こしており,Cdは両方に化学結合している事が分かる.さらにOH-とO2-のピークをFeとCd成分(CdO,Cd(OH)2とする)に分解し,OとOHに結合したCdの比を求めると約2:3(Cdを約3層分蒸着)となりOHとの結合が早く進行することが分かった.
二相ステンレス鋼中への水素の拡散と透過の観察
金属中の水素の挙動は,水素による金属素材の劣化,水素貯蔵及び超高真空用材料の観点からも重要な問題となっており,金属内における表面近傍での水素の挙動を直接的・定量的に観察し,水素の存在位置・含有量を明らかにすることが求められる.しかし,固体中の水素の振る舞いを直接観察することは非常に困難であり,あまり例がない.そこで,試料の表面上に湧き出す水素を2次元的に観察することにより,固体中における水素の振る舞いを明らかにすることを本研究の目的としている.
 本研究では走査型電子顕微鏡を使い,走査電子線により脱離する水素イオンを用いて画像化を行い,表面水素濃度分布を観察している.電子顕微鏡試料室内に外部から圧力が変えられる水素溜めを設置し,それに試料であるステンレス薄板を取り付け一方の側を水素に曝し、もう一方の側を観察面とし、拡散・透過してくる水素の2次元分布を観察した.通常表面上の元素分布測定にはSAM(走査型オージェ電子顕微鏡)やEPMA(電子線マイクロアナライザー)が用いられるが,水素に関してはこれらの手法は使えない.そのためESD 法は表面水素分布を直接観察できる唯一の方法と言っても過言ではない.
 試料は厚さ5mmのオーステナイトステンレス鋼で旋盤加工されている。バイトの先端はV字型をしているため,その切削断面は窪んだV字型となり,バイトの送り方向によりV字の一方の面は他面と比較し切削圧力が大きくより加工変態を起こしマルテンサイト化していると考えられる.
 試料を室温から300 ℃まで昇温しながら水素の脱離イオン像を撮影し,表面近傍における水素拡散の様子を観察した.その結果,温度の上昇に伴い切削圧力の大きい面で吸蔵されていた水素濃度が上昇し約150℃で最大となり減少するが,切削圧力の低い面では濃度の上昇は見られず約120℃から減少した.表面水素濃度は主にバルクからの湧き出しと真空中への熱脱離のバランスで決まると考えると,比較的低温から原子密度の薄いマルテンサイト相からの湧き出しが起こることが分かった.約250℃から両面とも水素濃度は上昇し始め,水素曝露面からの水素透過を示唆している
酸化マグネシューム(001)へのメタノール吸着の観察
MgO(001)面は気体吸着が起こりにくいこともあり蒸着用の基板として使われている.本研究では洗浄用にも使われるメタノールの吸着状態を調べるために,大気中劈開した(001)面を超高真空中で600℃加熱清浄化した後,室温でメタノールを最大10000Lまで曝露した.吸着状態を観察するために,電子衝撃脱離法を用い脱離イオンの放出角度分布を測定した.電子線の入射角は法線方向から45°である.脱離イオンの質量はパルス電子線を使用し,イオンが検出器に到達する飛行時間を測定することにより決定した.イオンの脱離時のエネルギー幅が数eVあるため,質量分解能が悪く,質量の同定には4重極質量分析計のデータも併用した.また,電子線の入射方位を変えることにより劈開時に生じたステップ(高欠陥密度部)が吸着に及ぼす影響を調べた.ステップは試料面全体にわたって1方向に走っているわけではないが、大局的にステップに沿う方向から直角方向まで入射方位角を変えて照射した.ステップサイトからの脱離子はステップに直角に電子線を入射した場合その幾何学的配置の為,平行に入射した場合と比較すると収量が顕著に低下する.CH3OHは入射方位により収量がほとんど変化せず,メタノール分子としての吸着・脱離は主にテラスサイト((001)面)で起こっている.放出極角も他の脱離子と比較しブロードに分布し,他の脱離子とは異なっている.脱離子は、曝露量により種類と収量は変化するが,基本的にH, H2, CHn(=0~3), O, OH, H2O, COHn(n=0~4)である.特にCOHnの脱離量は他の脱離子と比較すると少ない.10000Lの曝露で検出された脱離子はH, H2,CH, CH2, CH3, O,OH, H2O, CO, COH, CH3OHであった.CH3OH以外は入射方位により収量が異なり主にステップサイトから脱離する事を示している.メタノール分子の脱離と併せて考えると,ステップサイトではメタノール分子は解離吸着していることが分かる.
■ Keywords
hydrogen, permeability, stainless, goethite, Cd, XPS, AFM, ESDIAD, MgO
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















高木 祥示   教授
工学博士
              1
 1
 
 
 
 
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研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














高木 祥示   教授
工学博士
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(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 学会発表
国際学会
1. Akiko N Itakura, Saransh Shin, Shoji Takagi, Tetsuji Gotoh,: surface stress generation during hydrogen irradiation on metal surfaces.  15th international conference on thin film,  Kyoto Japan,  2011/11
2. Shoji Takagi, Shinji Suzuki, Tetsuji Gotoh, Yoshiharu Murase, Masahiro Tosa, Akiko N Itakura: measurement of hydrogen permeability of stainless steel membrane.  15th international conference on thin films,  Kyoto Japan,  2011/11
  :Corresponding Author
  :本学研究者