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 薬学部 生物物理学教室
 Department of Biophysics

教授:
  長濱 辰文
講師:
  成末 憲治
■ 概要
研究概要
当研究室ではアメフラシという海産の軟体動物を用い、摂食行動を発現させる中枢メカニズムを調べている。この動物の脳はニューロン数が非常に少なく、細胞体が大きいことから神経生理学的研究にはたいへん適している。アメフラシは海藻を食べるが、これまで好きな海藻や嫌いな海藻を与えた時におこる摂食、吐き出しなどの食物嗜好性行動を発現させる中枢メカニズムの研究を進めてきた。また、これまでの成果をもとに、アメフラシの老化に伴う摂食障害の発現メカニズムの研究も行っている。さらに、この動物の単純な神経系を利用し、神経科学分野で利用可能な研究用ツールの開発も行っている。
老化に伴う摂食障害発現のメカニズムの解明、およびその薬物治療の試み
関東以南の太平洋沿岸に生息するアメフラシ(Aplysia kurodai)は主に6〜7月に産卵し、その後、親は死んでしまうことから寿命は約1年と考えられている。そこで老化の研究にはたいへん適した動物である。その摂食行動を見ると、三浦半島や房総半島に生息するものでは6月下旬〜7月頃に食物摂取量が大きく減少することがこれまで観察されている。そこで私達の研究室では、このような摂食障害を引き起こすメカニズムを中枢系や末梢系のレベルから探っている。
神経科学研究用ツールの開発
クラミドモナスから単離されたチャンネルロドプシン2(ChR2)は、青色光で活性化されるカチオンチャンネルタンパク質である。このChR2を中枢の特定のニューロンに発現させると、そのニューロンを青色光で刺激することにより興奮させることが可能になる。そこでChR2遺伝子を発現ベクター(pNEX)に組込み、アメフラシニューロンへの遺伝子導入を行った。アメフラシの口球神経節内に存在するMAニューロンは摂食時の口の運動パターン形成で重要な役割を果たしていると考えられており、様々な運動ニューロンに情報を送っている。そこで、MAにChR2を発現させ、MAの光照射に伴う運動ニューロンの応答を調べた。電気生理学実験ではほとんどの運動ニューロンで抑制性のシナプス応答が見られるのに対し、青色光刺激では脱分極性応答が主に発現した。この理由として、遺伝子導入によりChR2は細胞全体に発現していることから、広い領域の光刺激ではMAの活動電位の伝導が抑制され軸索末端まで伝わっていない可能性が考えられた。そこで、青色レーザー光源を用いたビーム径(10μm)の小さい光刺激をMA細胞体の一部に与えたところ、予想されるほとんどのニューロンでIPSPを記録することができた。さらに本実験では、MA細胞体に長時間の強い光刺激やレーザービームを与えるとリズミカルな応答がMAやその他のニューロンに誘発されることがわかり、MAは潜在的にこのような能力があることが予想された。本研究の結果、ChR2法では適切な光刺激を行わないと本来の生理現象とは異なる応答が得られる危険性があることが示唆された。今後もChR2発現ニューロンの光刺激法についての問題点、注意点を単純な中枢神経系であるアメフラシを用いて詳しく調べていくつもりである。
■ Keywords
アメフラシ, 食物嗜好性, 老化, 摂食障害, アルツハイマー症, アミロイドβ, 薬物治療, 産卵ホルモン, チャンネルロドプシン2, 遺伝子導入, 光制御
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  基盤研究(C)  (研究課題番号:21570082)
 研究課題:光活性化興奮能の移植による単一ニューロンの行動レベルでの機能探究  (研究代表者:長濱辰文)
 研究補助金:500000円  (代表)
2.  基盤研究(B)  (研究課題番号:23300180)
 研究課題:分子インプリント高分子を使った神経システム内D-アミノ酸挙動解析ツールの開発  (研究分担者:長濱辰文)
 研究補助金:500000円  (分担)
3.  若手研究(B)  (研究課題番号:22770070)
 研究課題:摂食行動と産卵行動のスイッチに関わる中枢神経回路の機能解析  (研究代表者:成末憲治)
 研究補助金:700000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  長濱辰文 :薬学部ハラスメント対策委員会委員長
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















長濱辰文   教授
薬学博士
    1  1        
 7
 
 1
 
 
成末憲治   講師
博士(理学)
   1 1          1
 3
 1
 
 
 
 0 1  1 0  0  1
(0)
 1
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














長濱辰文   教授
薬学博士
    1     
 
 
成末憲治   講師
博士(理学)
  1       1
 1
 
 0 1  1 0  0  1
(0)
 1
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Goromaru-Shinkai Michiko, Nishiguchi Yoshikazu, Narusuye Kenji, Nakazawa Katsue:  Development of method for measurement of visible absorption spectrum using pigments extracted from colored vesitable.  Medical and Biology  155 (4) :169-174 , 2011
2. Narusuye K, Nagahama T:  Distinct activity changes in jaw-opening and jaw-closing motor neurons induced by egg laying hormone in Aplysia kurodai.  The Journal of Physiological Sciences  62 Suppl. 1 :S106-S106 , 2012
■ 著書
1. 和田善親,瀧澤誠,中川弘一,長濱辰文,溝口則行:    薬学生のための基礎シリーズ3「基礎物理学」  1-234.  培風館,  東京、日本, 2011
■ 学会発表
国内学会
1. ◎成末憲治, 長濱辰文: 産卵ホルモンによるアメフラシ開口運動ニューロンと閉口運動ニューロンの活動変化の相違.  第89回日本生理学会大会,  松本,  2012/03
2. ◎五郎丸(新海)美智子, 西口慶一, 成末憲治, 長濱辰文: 薬学部基礎生物実習の実践例;ゾウリムシを使ってマンニトールの利尿作用を理解する.  日本薬学会第132年会,  札幌,  2012/03
3. ◎浜口亜也,福澤翔太,塚本航也,石神昭人,高橋良哉,長濱辰文: アメフラシ中枢におけるアミロイドベータ様物質の沈着とAPPの存在.  日本薬学会第132年会,  札幌,  2012/03
4. ◎石渡智博, 島田達也, 北野俊介, 成末憲治, 長濱辰文: アメフラシ後触角の海藻におい刺激に対する神経応答.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋,  2011/10
5. ◎島田達也, 成末憲治, 長濱辰文: 海藻味刺激によるアメフラシ味神経応答への老化の影響.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋,  2011/10
6. ◎浜口亜也,福澤翔太,石神昭人,高橋良哉,長濱辰文: アメフラシのアミロイドベータ様物質の老化に伴う中枢への沈着と分布の変化.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋,  2011/10
7. ◎輿石英里,坂田美紀,浜口亜也,長濱辰文: チオフラビンによるアメフラシAβ様物質の染色と定量.  第55回日本薬学会関東支部大会,  船橋,  2011/10
国際学会
1. ◎Narusuye K, Nagahama T: Activity changes of buccal motor neurons induced by egg laying hormone contribute to the feeding suppression in Aplysia kurodai.  8th International Congress of Comparative Physiology and Biochemistry (ICCPB2011),  Nagoya, Japan,  2011/06
  :Corresponding Author
  :本学研究者