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 薬学部 微生物学教室
 Department of Microbiology

教授:
  加藤 文男
准教授:
  安齊 洋次郎
■ 概要
Micromonospora属放線菌の遺伝子操作による新規マクロライド抗生物質の創製
16員環マクロライド抗生物質mycinamicin生合成のkey enzymeであるチトクロームP450酵素MycGをコードする遺伝子mycGの発現に関与するプロモーター領域mycGpについて解析を進めている。mycGの発現にはmycGp領域の100bp程が必要であることを明らかにした。また、mycinamicin生産菌Micromonospora griseorubidaのゲノム解析から、本菌株は他の放線菌菌株と同様に50ほどのシグマ因子をコードする遺伝子をもつことが明らかとなった。現在、mycinamicin生合成遺伝子の発現調節に関わるシグマ因子のスクリーニングを行っている。
16員環マクロライド抗生物質rosamicinの生合成には2種類のチトクロームP450酵素RosC, RosDが関与している。これらP450酵素を発現した大腸菌細胞を用いたbioconversion によるrosamicin生合成中間体の酸化反応を確認し、特にRosCがrosamicinのラクトン環構造protorosanolideに対して3段階の酸化反応を行うことを明らかにした。
16員環マクロライド抗生物質izenamicin生産菌Micromonospora sp. FERM BP-1076にmycinose生合成遺伝子を導入したTPMA0041株の培養液にプロピオン酸を添加することで、高い抗菌活性をもつmycinosyl-izenamicin B2 (TMC-016)を生産する。プロピオン酸はラクトン環の前駆体であり、methylmalonyl-CoAを介してラクトン環に取り込まれる。methylmalonyl-CoAはType-I PKS内のアシルトランスフェラーゼ(AT)領域により取り込まれるが、その基質特異性は個々のAT領域によって異なる。現在、izenamicinおよびrosamicin生合成に関与するType-I PKS内のAT領域の比較を行っている。
Quorum Sensing 阻害を指標とした生理活性物質のスクリーニング
放線菌は、抗生物質、免疫抑制剤、抗がん剤をはじめとする様々な構造の、様々な生理活性を持つ二次代謝産物を生産する菌株が多数含まれる。近年、新規骨格をもつ放線菌由来の生理活性物質の報告が極度に減少している。新たな有用生理活性物質生産菌の分離を目的として、病原性遺伝子の発現に関与する細菌細胞間の情報伝達機構、quorum sensingを阻害する代謝産物生産菌の分離を行った。
Chromobacterium violaceum CV026を用いたグラム陰性細菌のquorum sensing阻害物質生産菌のスクリーニングを行っている。国内土壌より分離した放線菌Streptomyces sp. TOHO209の培養液からpiericidinに類似した新規quorum sensing阻害物質を単離した。その他、放線菌の生産するaureothin類にquorum sensing阻害活性があることを明らかにした。
雨水貯留槽中のミクロフローラとバイオフィルム
世界の人口が急速に増加し、特に、アフリカやアジア諸国での人口の急増により、まもなく70億に達することが予測され、これらの地域では水の需要が増大することは必須であり、水不足の解消は全世界的な問題となっている。その一助として雨水を貯留し有効利用することが検討されている。公衆衛生上の観点から、雨水貯留槽中にはどのようなミクロフローラが形成されているのか、貯留槽に形成されるバイオフィルムと貯留水中の細菌の関連を明らかにするために検討を開始した。都内の雨水貯留槽から貯留水、壁に形成されたバイオフィルムをサンプリングし、浮遊細菌数、バイオフィルム中の生菌数、DGGE法を用いた16SrDNA配列の決定によりミクロフローラの解析を行った。また、実験室でバイオフィルム形成量と浮遊細菌数の関連を測定した結果、バイオフィルム量の増加とともに浮遊細菌数が減少する傾向が認められた。
前年度分離したバイオフィルム形成能の高い細菌BF2と緑膿菌を用いて、実験室でバイオフィルム形成に伴う浮遊細菌数の減少を調べた結果、浮遊細菌中の緑膿菌数はバイオフィルム量の増加に伴い減少し、バイオフィルム中の緑膿菌数の増加が認められた。また、バイオフィルム形成を促進する低分子物質についても検討を行い、ある金属イオンにバイオフィルム形成促進効果がある事を明らかにした。
放線菌のセシウム移送系に関する研究
2011年の福島第一原子力発電所事故で放出された放射性Csによる環境汚染は東日本大震災により発生した多くの問題の中でも最も深刻な問題の1つである。放射性Csによる農作物等の汚染は、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故でも同様に確認され、特に野生キノコへの放射性Csの蓄積量は他の周辺植物と比べてより高い値であった。我々は土壌細菌である放線菌がキノコと同様に細胞内にCsを蓄積することを明らかにし、放線菌におけるCs蓄積経路を解明するためにKチャネル、K移送系のCs蓄積への影響を検討している。放線菌のモデル菌株の1つであるStreptomyces lividans TK24はK移送系としてTrk移送系、Kdp移送系、KチャネルとしてKcsAをコードする遺伝子、更にkcsAの類似配列をもつkcsA2遺伝子などを保持する。一方、キノコ生育土壌から分離した放線菌Streptomyces sp. K202のゲノム解析を行ったところ、Trk移送系、Kdp移送系の遺伝子は確認出来たが、Kチャネルをコードする遺伝子はkcsA2遺伝子のみであった。現在、S. lividans TK24およびStreptomyces sp. K202のkcsA2遺伝子などのK移送に関わると推定される遺伝子の欠損株を作成し、それら変異株のCs蓄積への影響を検討している。
臨床分離緑膿菌のキノロン耐性に関する研究
医療施設における院内感染症の原因菌として多剤耐性緑膿菌が問題となっている。特に緑膿菌感染症に汎用されてきたニューキノロン系抗菌薬シプロフロキサシンに耐性を持つ緑膿菌が問題となっている。緑膿菌臨床分離株約300株についてシプロフロキサシン、パズフロキサシン、アミカシン、メロペネムにたいする感受性を測定した。入院患者由来の緑膿菌株では多くのキノロン耐性株が存在することを確認した。PCRにより耐性株のgyrA, parCを増幅し、その塩基配列を決定した結果、耐性株の多くがgyrAだけ、またはgyrAparCにアミノ酸置換を伴う変異を持つことが明らかとなった。更に、高度耐性株では、排出ポンプの調節遺伝子にも変異が認められ、複数の変異の重なりが高度な耐性を持つことが明らかになった。分離した高度耐性株はキノロン系薬剤以外の薬剤に対する耐性も同時に獲得している。現在、それら薬剤に対する耐性機構についての解析を行っている。
■ Keywords
放線菌, マクロライド, Micromonospora, セシウム, カリウム移送系, バイオフィルム, quorum sensing, Pseudomonas aeruginosa, 多剤耐性
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  公益財団法人 発酵研究所 平成24年度一般研究助成 (助成期間:平成24年4月~平成26年3月)
 研究課題:放線菌のセシウム蓄積に関する研究  (研究代表者:安齊洋次郎)
 研究補助金:3000000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  加藤文男 :日本放線菌学会 理事
2.  安齊洋次郎 :日本放線菌学会 学術企画委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















加藤 文男   教授
薬学博士
    5   1       
 7
 
 
 
 
安齊 洋次郎   准教授
博士(農学)
   1 3   1       
 7
 
 
 1
 
福本 敦   助教
博士(生命科学)
              1
 3
 
 
 
 
 0 1  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 1
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














加藤 文男   教授
薬学博士
         
 
 
安齊 洋次郎   准教授
博士(農学)
  1       
 
 1
福本 敦   助教
博士(生命科学)
         1
 
 
 0 1  0 0  0  1
(0)
 0
(0)
 1
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Anzai Y, Tsukada S, Sakai A, Masuda R, Harada C, Domeki A, Li S, Kinoshita K, Sherman DH, Kato F:  Function of the cytochrome P450 enzymes MycCI and MycG in Micromonospora griseorubida, a producer of the macrolide antibiotic mycinamicin.  Antimicrobial agents and chemotherapy  56 (7) :3648-3656 , 2012
2. Iizaka Y, Higashi N, Ishida M, Oiwa R, Ichikawa Y, Takeda M, Anzai Y, Kato F.:  Function of cytochrome P450 enzymes RosC and RosD in the biosynthesis of rosamicin macrolide antibiotic produced by Micromonospora rosaria.  Antimicrobial agents and chemotherapy  57 :1529-1531 , 2013
3. Sakai A, Mitsumori A, Furukawa M, Kinoshita K, Anzai Y, Kato F:  Production of a hybrid 16-membered macrolide antibiotic by genetic engineering of Micromonospora sp. TPMA0041.  Journal of industrial microbiology & biotechnology  39 (11) :1693–1701 , 2012
4. Li S, Tietz DR, Rutaganira FU, Kells PM, Anzai Y, Kato F, Pochapsky TC, Sherman DH, Podust LM:  Substrate recognition by the multifunctional cytochrome P450 MycG in mycinamicin hydroxylation and epoxidation reactions.  The Journal of biological chemistry  287 (45) :37880-37890 , 2012
■ 著書
1. 安齊洋次郎, 井上義雄, 加藤文男 他:    第6版 薬科微生物学  1-333.  丸善出版株式会社,  東京, 2013
■ 学会発表
国内学会
1. ◎酒井彩美, 福本敦, 安齊洋次郎, 加藤文男: 遺伝子組換えMicromonospora sp. TPMA0041によるmycinosyl-izenamicinの生産.  日本薬学会 第133年会,  横浜,  2013/03
2. ◎大岡和広, 福本敦, 石原陵, 島田かな子, 山中智恵, 安齊洋次郎, 加藤文男: 放線菌が産生するQuorum sensing阻害物質のスクリーニングについて(1).  日本薬学会 第133年会,  横浜,  2013/03
3. ◎飯坂洋平, 東徳子, 李巍, 安齊洋次郎, 加藤文男rosC欠損変異株Micromonospora rosaria TPMA0054へのmycinose生合成遺伝子の導入による新規マクロライド抗生物質の生産.  日本薬学会 第133年会,  横浜,  2013/03
4. ◎福本敦, 大岡和広, 山中智恵, 島田かな子, 石原陵, 安齊洋次郎, 加藤文男: 放線菌が産生するQuorum sensing阻害物質のスクリーニングについて(2).  日本薬学会 第133年会,  横浜,  2013/03
5. ◎酒井彩美, 三森暁, 會田香緒里, 木下健司, 安齊洋次郎, 加藤文男: 遺伝子組換えMicromonospora sp. TPMA0041 によるmycinosyl-izenamicin の生産.  第27回 日本放線菌学会大会,  東京,  2012/09
6. ◎大岡和広, 福本敦, 杉紗也子, 島田かな子, 山中智恵, 石原陵, 安齊洋次郎, 加藤文男: 放線菌が産生するQuorum sensing 阻害物質のスクリーニングについて.  第27回 日本放線菌学会大会,  東京,  2012/09
7. ◎飯坂洋平, 市河由美, 武田萌加, 東徳子, 安齊洋次郎, 加藤文男: cytochrome P450 タンパクRosC、RosD のin vitro によるRosamicin 生合成中間体変換試験.  第27回 日本放線菌学会大会,  東京,  2012/09
その他
1. ◎安齊洋次郎: 遺伝子組換え放線菌による有用生物活性物質の生産.  千葉エリア産学官連携オープンフォーラム2012,  習志野,  2012/07
  :Corresponding Author
  :本学研究者