<<< 前 2011年度 | 2012年度 | 2013年度 次 >>>
 薬学部 医療薬学教育センター/臨床薬剤学研究室
 Department of Clinical Pharmaceutics

教授:
  大林 雅彦
講師:
  石川 稚佳子
■ 概要
HPLCによるパロキセチンの血中濃度測定法の検討
本研究では、SSRI であるパロキセチン(PAR) について、病院での日常業務として実施可能なHPLC による簡便で迅速な血中濃度測定法の検討を目的とした。検討の結果、移動相は50mM リン酸緩衝液(pH6.0):アセトニトリル:メタノール=60:35:5(v/v)とした。試料の前処理には固相抽出法を用い、抽出から測定までの時間が一検体あたり25 分以内と簡便かつ迅速な測定法となった。また、0.3~3μg/mL の範囲で検量線を作成したところ、R=0.9987 と良好な直線性が得られた。日内変動は2%以下であり再現性の高い測定法と言える。固相抽出カラム、分析カラムともにC18 カラムを用いて始めた結果、固相抽出カラムを保持力の弱いC8 カラムに変えたことにより、抽出率が向上した。今後は、さらに固相抽出カラムをC2、分析カラムをC8 に変更することにより、さらに優れた分析が可能であることが示唆された。
PK-PD 理論に基づいたメロペネムの投与方法に関する検討
メロペネム(MEPM) は腎排泄型の薬剤であるため、画一的な投与方法では高い有効性が得られない。そのため、腎機能や体重、MIC を考慮した投与に関する明確な指標を作成し、適切な投与設計を行うことが必要である。高い有効性を得るためには通常の投与方法よりも投与量や投与回数を増やすことが必要だと考えられるが、これが適用できる腎機能の範囲を明らかにすることが今後必要である。有効性のカットオフ値は40%T>MIC と推定され、現在の静菌的効果の目標値よりも高い値となったため目標値の再検討が必要であると示唆された。しかし、本研究では症例数が少なく、今後さらに症例数を増やし有効性、安全性を確保できる適切な投与方法の検討を行うことが必要である。
ガン性疼痛におけるアセトアミノフェン大量投与の有効性と安全性
アセトアミノフェン(APAP) は、古き良き薬として見直されつつある。しかし、鎮痛効果は弱いという臨床経験から、癌性疼痛に用いられることは少なく、拡大用量の必要性に疑問を抱いている医師も少なくない。本研究により、約9 割の患者に疼痛の改善がみられ、癌性疼痛に対してAPAPは有効であること、用量が多いほど鎮痛効果が期待できることが示唆された。また、1 日投与量3000mg 群では、4000mg 群に比べ朝の疼痛が多く見られ、APAPの薬物動態からも、1 日4 回投与が望ましく、積極的に拡大用量を医師に提言する必要があると考える。がん末期患者は日々全身状態が低下することも多く、安全なAPAP の投与量を設定することは困難であるが、本研究において、1 日投与量4000 mg 以下では重篤な問題は起きず、拡大用量内であれば、安全に用いることができると考えられる。APAP の肝障害について、γ-GTP を問題に挙げている論文は少ないが、本研究では、用量に関わらず有意に上昇することが明らかとなった。また、昨年FDA から警告が出されたという事実もあり、医療者は薬剤特性を理解し、肝酵素だけでなくγ-GTP を含め、肝機能悪化に注意し、定期的な肝機能のモニタリングが必要であると言える。
バレニクリンとニコチンパッチによる禁煙治療効果の比較と治療後のアンケート調査
禁煙は様々な疾患に有効な予防法であり、禁煙外来は禁煙チャレンジを成功させるために重要な役割を担っている。バレニクリンを用いた禁煙治療はニコチンを摂取しないというメリットがあり、従来のニコチンパッチでの治療と比較し成功率が高く、また1 年間持続禁煙率も高いことから、バレニクリンは禁煙治療において画期的な薬であるといえる。しかし、バレニクリンには副作用として嘔気の発現が多く、内服が困難になっているケースも見られるため、嘔気をコントロールできれば成功率上昇とQOL の改善が見込まれる可能性がある。薬の効果のみならず、医師、看護師、さらに薬剤師による禁煙支援もまた重要であり、真の意味での禁煙を達成するためには、1 つのチームとして今後さらに積極的な支援をしていく必要があると考える。
フルコナゾールの使用実態調査とPK-PD 理論に基づいた適正使用に関する検討
トリアゾール系の抗真菌薬であるフルコナゾール(FLCZ)はカンジダ症、クリプトコッカス症の第1 選択薬である。添付文書によれば、FLCZ はカンジダ症に50~100mg を投与する。現在、FLCZ は添付文書通りの用法・用量では投与量不足であるとの報告がある。しかし、FLCZ 投与の際の明確な投与基準は存在しない。そこで、PK-PD 理論に基づいたFLCZの適正使用に関する検討を行った。FLCZ のAUC/MIC は有効群が無効群より高い値を示した(P=0.0809)。Dose/MIC およびDose/kg/MIC においても有効群が無効群より有意に高い値を示した(P =0.054)。しかし、AUC、Cmax、Dose は有効群と無効群で有意な差は無かった。結論として、FLCZ 投与の際にはMIC 測定が重要である。また、Dose/kg/MIC を指標として患者ごとに適正な投与が出来ると考えられる。その際、Dose/kg/MIC がおよそ13~15L/kg になるように投与すべきであると考えられた。
患者と薬剤師それぞれに尋ねた“薬剤師のこと、どう思う?”~日本とフランスの薬局において~
調査結果から、かかりつけ薬局の重要性について、日本では患者の90 %が、フランスでは88 %が理解していたということがわかった。薬局を選択する理由としては、フランスでは「保険の登録がされている」ことが最も大きな要因としてあげられたが、日本では「病院に近い」と立地条件を理由に選択している患者が最も多く、88 %を占めていた。これは、欧米では医薬分業が1240 年から開始されており、古い時代から既に医療システムの基本となっていたが、日本では欧米より歴史が浅く、1871 年から開始され1)、医薬分業の普及が遅かったために、このような違いが現れたと考えられる。
釣藤鈎含有の漢方薬におけるアルドース還元酵素阻害作用の検討
糖尿病性合併症や認知症は患者のQOL を低下させるものであり、その予防は非常に重要である。今回AR 阻害作用において、抑肝散や釣藤散が牛車腎気丸や八味地黄丸とほぼ同等の活性を有していることを示すことが出来た。認知機能改善が大規模試験で示されている漢方薬でこのような結果が得られたため、糖尿病性合併症にも予防効果があると示唆される。今後認知症と糖尿病性合併症により効果的な漢方薬や生薬を探索するために、AR 阻害作用のみならず、AGEs 阻害作用も検討していく必要があると考える。
慢性心不全患者へのカルベジロール投与による心機能改善効果の個体差について
カルベジロールは慢性心不全治療において有用性が認められ、その使用頻度は激増してきている。しかし、カルベジロールは個々の適正使用が難しいことが知られており、導入時薬剤の忍容性に合わせて注意深く投与量を設定しなければならない。また、導入後、心機能改善効果が発現するresponder群と、効果が発現しないまたは発現しても効果が弱いnon-responder群の存在が認められており、臨床現場で大きな問題となっている。本研究により、responder群で、心機能改善に伴いHtが有意に低下していることが明らかになり、カルベジロールとの関連性が十分うかがえる。このことから、心エコーを実施することが難しい患者に、心機能改善を反映する指標としてHtを用いることができる可能性がある。しかし、Htの低下に規則性を見つけることが出来なかったため、今後心機能と関係の深い血液粘度の測定を実施し、心機能改善の関係を検討する必要があると考える。
■ Keywords
パロキセチン、HPLC、バレニクリン、禁煙治療、カルベジロール、心不全、アセトアミノフェン、大量投与、癌性疼痛、メロペネム、PK-PD、漢方薬、アルドース還元酵素、フルコナゾール
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















大林 雅彦   教授
       1       
 
 
 
 
 
石川 稚佳子   講師
              
 1
 
 
 
 
 0 0  0 0  0  0
(0)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














大林 雅彦   教授
         
 
 
石川 稚佳子   講師
         
 
 
 0 0  0 0  0  0
(0)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 著書
1. 大林 雅彦ほか:    第97回薬剤師国家試験解答・解説  245-305.  評言社,  東京, 2012
  :Corresponding Author
  :本学研究者