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 医学部 医学科 社会医学講座/衛生学
 Division of Environmental and Occupational Health, Department of Social Medicine

教授:
  杉田 稔
講師:
  今井 常彦
■ 概要
1. 疫学的研究、2. 予防医学的実験研究
1. 疫学的研究
a. 日本産米摂取と腎機能・骨密度の関係
カドミウムの環境汚染と腎機能障害・骨密度低下の量反応関係の疫学研究で、量として米中カドミウム濃度の意義が問われている。日本産でややカドミウム濃度の高めの米は一般市場に流通している。そのような米を摂取することが腎機能障害・骨密度低下のリスクになるかという問題に対して、一般住民を対象に疫学研究を実施中である。この研究結果がWHOによる食品中カドミウム濃度の許容値設定の基礎になる。

b. リスクやクライシス管理
高病原性鳥インフルエンザが中国南部・東南アジアではその流行鎮静化の気配もなく、ヒトにも少人数ながら感染して死亡例も少数報告されている。現在そのウィルスはヒトに容易に感染しないが、高病原性を保持したままヒトへの大流行がいつ起こるか分からない。その時の管理・対応に関し研究している。

c. 臨床試験
確率化臨床試験研究を最良の治療方針の選択可能性を目的として、多岐にわたる疾患・障害が対象で、全国の臨床各科と協力して実施している。特に、その計画・解析面の支援に重点が置かれている。現在、胸部外科領域の肺癌や耳鼻咽喉科領域の癌の補助化学療法の投与について中心に研究している。

d. 難病
厚生労働科学研究の難治性疾患克服研究事業の疫学班として、その臨床の血液領域の研究班と連携で全国規模の疫学研究を実施している。

e. 日本社会における格差に起因する健康障害
日本において最近、格差に関する議論が沸騰している。そこで、その経済格差の実状の本質を客観的に把握するとともに、それに起因する健康障害という実害の有無・大きさを推定した。その結果、格差に起因する健康障害の顕在化が検出され、その放置は亡国に直結する程度の大問題であると警告した。

f. 勃起不全の疫学
勃起不全(ED)に関する記述疫学研究をアジア諸国と共同で実施した。その研究で日本のED有病率が他のアジア諸国と比較してかなり高いという結果を得た。その差の原因を理科系の自然科学的手法から検証することはほとんど不可能なので、文科系の帰納法的手法から考察している。また、EDの増悪因子に関する分析疫学研究を学内で実施する計画をしている。

g. 偽造薬の健康リスク
偽造薬の市場流通による健康リスクを、社会問題解決の観点から、研究している。具体的には、そのリスクに関し、その確率と被害の大きさを推定することと、リスクの発生する要因を研究している。また、先進国で偽造薬市場を経済学的に分析して、そこでの健康被害リスクの過小評価と入手簡便性の過大評価が指摘された。なお、偽造財に関する経済学的研究はこれまで、どの学問領域でも全くなされていなかった。
さらに、一般的に偽造・不正財の供給に関しても、増税や入手非簡便性による社会リスクの増加についても、指摘した。

h. 産業保健
職域で、多忙な部署では、その業務負荷が少数の者に過度に集中しやすいことを指摘した。リスク管理の観点から、その対策にも言及した。
また、ポピュレーション・アプローチとしての職域における集団健康教育の有効性を示した。
さらに、職域で、正常眼圧緑内障を対象として、frequency doubling technology perimetryにより視野欠損を測定するスクリーニングに関し研究している。その有効性、実施頻度、コンピュータ使用と緑内障との関係に対する交互作用としての屈折異常に関し論じた。

i. 睫毛エクステンション
美容産業により供給される睫毛エクステンションというサービスによる眼傷害に関し、眼科学領域の研究として、世界で初めて報告した。
1. 疫学的研究、2. 予防医学的実験研究
j. 疫学
遺伝子多型という交互作用により、喫煙による肺がん罹患リスクの大きさに差があると指摘されていた。しかし、この差が時代の変遷により小さくなっていることを指摘し、その原因として社会・経済・環境の変化に言及した。


2. 予防医学的実験研究
a. エタノールの影響
飲酒に関する妥当なバイオマーカーの研究、エタノール長期投与による骨への影響や若年層のアルコール摂取を実験的に研究している。

大震災のため
3. 大震災の影響
2011年3月11日に発生した大震災のため、3月に開催予定であった第81回日本衛生学会総会は中止となり、全演題は紙上発表となった。
■ Keywords
カドミウム、米飯摂取、リスクマネージメント、確率化臨床試験、難病、健康格差、勃起不全、偽造財・薬剤、作業負荷、集団健康教育、正常眼圧緑内障、睫毛エクステンション、交互作用、エタノール
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成22年度厚生労働科学研究費 難治性疾患克服研究事業  (研究課題番号:H17難治一般038)
 研究課題:特定疾患の疫学に関する研究  (研究分担者:永井正規, 杉田稔)
 研究補助金:1000000円  (分担)
2.  平成22年度厚生労働科学研究費 難治性疾患克服研究事業  (研究課題番号:H17難治一般001)
 研究課題:特発性造血障害に関する調査研究  (研究分担者:小澤敬也,杉田稔)
 研究補助金:500000円  (分担)
その他
1.  胸部腫瘍臨床研究機構
 研究課題:高齢者の限局型小細胞肺がんに対するカルボプラチン+イリノテカン併用療法および逐次胸部放射線治療の第Ⅰ/Ⅱ相試験 (TORG0604)  (研究代表者:杉田稔)
 研究補助金:1000000円  (代表)
2.  大鵬薬品
 研究課題:癌患者のおける再発危険因子に関する調査研究  (研究代表者:杉田稔)
 研究補助金:3000000円  (代表)
3.  未成年者飲酒予防基金
 研究課題:長期飲酒の骨影響発現機序 -摂取開始時期について-  (研究代表者:今井常彦)
 研究補助金:600000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  杉田稔 :目黒区地域保健協議会会長
■ 教授・准教授・講師の学会・研究会の役員
1.  今井常彦 :日本衛生学会評議員, 日本産業衛生学会評議員・産業衛生技術部会幹事・教育研修委員長・関東地方会幹事, 日本アルコール・薬物医学会評議員, 日本行動医学会評議員
2.  杉田稔 :日本衛生学会評議員, 日本産業衛生学会評議員, 日本産業精神保健学会評議員, 日本癌病態治療学会世話人, 日本予防医学リスクマネージメント学会評議員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















杉田 稔   教授
医学博士
 2 4 2 8       2 3  3
 8
 
 2
 
 2
(4)
今井 常彦   講師
医学博士
      1        
 
 3
 7
 
 
 2 2  1 0  2  3
(0)
 3
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














杉田 稔   教授
医学博士
 2 2     2  3
 
 
今井 常彦   講師
医学博士
    1     
 3
 
 2 2  1 0  2  3
(0)
 3
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. 杉田稔+:  アメリカ覇権終焉の後: ドル暴落後の世界.  W'Waves  16 (1) :16-26 , 2010
2. 瓜田純久, 今井常彦, 三浦康之, 渡辺利泰, 高地良介, 鷲澤尚宏, 佐仲雅樹, 島田長人, 中嶋均, 金子弘真, 杉本元信:  Ethanol-feeding ratにおける酢酸・グルコース代謝の変化.  消化と吸収  32 (2) :169-173 , 2010
3. 佐々木春明, 永尾光一, 石井延久, 杉田稔, 丸茂健:  インターネットを介した偽造ED医薬品4社合同調査.  日本性機能学会雑誌  25 (1) :19-28 , 2010
4. Tatemichi M, Nakano T, Hayashi T, Tanaka K, Hiro H, Miyamoto T, Aratake M, Nishinoue N, Yamazaki A, Nakadate T, Sugita M:  Symptoms related to glaucomatous visual field abnormalities among male Japanese workers in a population-based setting.  Acta Ophthalmologica  :(E-pub) PMID:20809905 , 2010
5. Sugita M, Miyakawa M:  Economic analysis of use of counterfeit drugs: health impairment risk of counterfeit phosphodiesterase type 5 inhibitor (PDE5I) taken as an example.  Environmental Health and Preventive Medicine  15 (4) :244-251 , 2010
6. Osada M, Izuno T, Kobayashi M, Sugita M:  Relationship between environmental exposure to cadmium and bone metabolism in a non-polluted area of Japan.  Environmental Health and Preventive Medicine  :(E-pub) DOI: 10.1007/s12199-010-0204-8 , 2011
7. Ito-Hebe N, Wada H, Matsumoto M, Fujimura Y, Murata M, Izuno T, Sugita M, Ikeda Y:  Second National Questionnaire Survey of TMA.  International Journal of Hematology  92 (1) :68-75 , 2010
8. Nishiwaki Y, Michikawa T, Eto N, Takebayashi T.:  Body mass index misclassification due to kyphotic posture in Japanese community-dwelling adults aged 65 years and older.  J Gerontol A Biol Sci Med Sci  66 (3) :326-31 , 2011
9. Yamazaki A, Tatemichi M, Nakano T, Aatake M, Nakadate T, Sugita M:  Age-secific prevalence of glaucoma is determined by the presence of refractive errors among Japanese worker.  Showa University Journal of Medical Sciences  22 (4) :229-237 , 2010
総説及び解説
1. 杉田稔, 岩崎泰雄:  医学研究におけるバイアス排除の意義と危険性.  東邦医学会雑誌  57 (6) :397-398 , 2010
2. Okazaki I, Sugita M, Matsuki H, Billah SMG, Watanabe T:  Additional candidates to conventional genes susceptible for lung cancer and changing trend in Japan (Review).  Oncology Reports  23 (6) :1493-1500 , 2010
■ 著書
1. 今井常彦:  衛生学・公衆衛生学.  柔道整復師国家試験傾向と対策 柔道整復師教育研究会監修  249-292.  南江堂,  東京, 2010
■ 学会発表
国内学会
1. ◎山崎明, 立道昌幸, 中野匡, 中館俊夫, 杉田稔: 視野検査の実施時期についての検討: 職域における年齢別緑内障有病率.  第81回日本衛生学会総会,  東京,  2011/03
2. ◎杉田稔: 疾病リスク低減対策で誘発された対抗リスクの増大: risk-risk trade-offの理論的考察.  第81回日本衛生学会総会,  東京,  2011/03
3. ◎西埜植規秀, 立道昌幸, 荒武美保, 山崎明, 福田洋, 杉田稔: ポピュレーションアプローチとしての職域における35歳時の集団健康教育の効果.  第81回日本衛生学会総会,  東京,  2011/03
4. ◎島田直樹, 大津忠弘, 白澤貴子, 落合裕隆, 星野祐美, 小風暁, 中尾眞二, 小澤敬也, 永井正規, 杉田稔: 臨床調査個人票からみた再生不良性貧血の治療状況.  第81回日本衛生学会総会,  東京,  2011/03
5. ◎杉田稔+, 島田直樹, 中尾眞二, 永井正規, 小澤敬也: 再生不良性貧血に関する疫学研究(平成20-22年度).  厚労科研難治性疾患克服研究事業22年度 「特発性造血障害に関する研究」 報告会,  東京,  2011/02
6. ◎三浦康之, 鷲澤尚宏, 瓜田純久, 今井常彦, 赤坂喜清, 西村千秋, 金子弘真: 70%肝切除ラットにおける術後早期の13C呼気試験の検討.  第17回外科浸襲とサイトカイン研究会,  千葉,  2010/12
7. ◎上野正浩, 久手英二, 杉田稔: 小児の新型インフルエンザ感染の臨床疫学的特徴.  第42回日本小児感染症学会総会・学術集会,  仙台,  2010/11
8. ◎天野由紀, 杉田稔, 杉本由佳: 全国のまつ毛エクステンションによる眼傷害と接着剤成分の検討(全国のまつ毛エクステ眼傷害).  第64回日本臨床眼科学会,  神戸,  2010/11
9. ◎瓜田純久, 今井常彦, 杉本元信: 超硬水は体重増加を抑制する.  JDDW2010,  横浜,  2010/10
10. ◎蛯名恵理子, 瓜田純久, 今井常彦: 酢酸吸収代謝の加齢変化と飲酒、女性ホルモンの影響.  JDDW2010,  横浜,  2010/10
11. ◎杉田稔: 偽造医薬品の消費による健康被害リスクの低減対策.  第69回日本公衆衛生学会,  東京,  2010/10
12. ◎杉田稔: 高病原性新型H5N1インフルエンザに対する抗インフルエンザウィルス剤の備蓄・緊急大量生産・予防投与による社会システム崩壊防止戦略.  第69回日本公衆衛生学会,  東京,  2010/10
13. ◎天野由紀, 杉本由佳, 杉田稔: まつ毛エクステンションの実態調査.  第69回日本公衆衛生学会,  東京,  2010/10
14. ◎天野由紀, 杉田稔, 杉本由佳, 青山陽子, 小坂潤子, 天野史朗: まつ毛エクステンションによる眼傷害の検討.  第47回日本眼感染症学会, 第44回日本眼炎症学会, 第53回日本コンタクトレンズ゙学会総会,  東京,  2010/07
15. ◎瓜田純久, 今井常彦, 渡辺利泰, 三浦康之, 蛯名恵理子, 定本清美, 清水功雄, 金子弘真, 杉本元信: 13C-ウルソデオキシコール酸を用いた呼気試験の試み.  第2回日本胆膵病態生理研究会,  弘前,  2010/06
16. ◎今井常彦,太田久吉、佐藤 勉、大本美彌子、武田秀勝: 長期飲酒の血清、尿、体毛中ミネラルへの影響.  第83回日本産業衛生学会,  福井,  2010/05
17. ◎新村敦子, 寒川裕, 真船浩介, 杉田稔, 柴岡三智, 多田昭子: システム開発業務の特性を踏まえたストレス調査票の開発.  第83回日本産業衛生学会,  福井,  2010/05
18. ◎今井常彦、大本美彌子: 飲酒量に及ぼす飲酒開始時期及び卵巣摘出の影響について.  第80回日本衛生学会総会,  仙台,  2010/04
19. ◎飯泉恭一、立道昌幸、今井常彦,中館俊夫: 飲酒が乳がんの発生や増殖に係わる分子機構の検討.  第80回日本衛生学会総会,  仙台,  2010/04
国際学会
1. ◎Sasaki H, Nagao K+, Ishii N+, Sugita M, Marumo K: A four-company sponsored survey on counterfeit erectile dysfunction drugs obtained via the Internet.  The 14th World Meeting of the International Society for Sexual Medicine,  Seoul, Korea,  2010/09
2. ◎Sasaki N, Moriya J, Sugita M, Horie S: Promoting occupational health activities at companies that operate many small geographically scattered sites.  The 21st Japan China Korea Joint Conference on Occupational Health,  Utsunomiya,Japan,  2010/06
その他
1. ◎島田直樹, 杉田稔, 中尾眞二, 永井正規, 小澤敬也: 臨床調査個人票からみた再生不良性貧血の治療状況.  再生不良性貧血に関する疫学研究(平成20-22年度) 厚労科研難治性疾患克服研究事業22年度 「特発性造血障害に関する研究」 報告会,  東京,  2011/02
2. ◎冨山佳昭, 藤村欣吾, 倉田善之, 桑名正隆, 降旗謙一, 松原由美子, 宮川義隆, 高蓋寿朗, 柏木浩和, 野村昌作, 杉田稔, 島田直樹: ITPサブグループ.  厚労科研難治性疾患克服研究事業22年度 「血液凝固異常症に関する調査研究」 報告会,  東京,  2011/01
3. ◎島田直樹, 杉田稔, 中尾眞二, 小澤敬也, 永井正規: 臨床調査個人票からみた再生不良性貧血の治療状況.  厚労科研難治性疾患克服研究事業22年度 「特定疾患の疫学に関する研究」 報告会,  川越,  2010/12
4. ◎瓜田純久、今井常彦、渡辺利泰、清水功雄、大本美彌子、中嶋 均、杉本元信
: Ethanol-feeding rat における13C-ウルソデオキシコール酸呼気試験の検討.  第45回日本アルコール・薬物医学会総会,  小倉,  2010/10
5. ◎今井常彦、石川文雄、瓜田純久、大本美彌子: 飲酒の次世代影響 - 妊娠・哺乳中の飲酒が仔獣の飲酒量に与える影響.  第45回日本アルコール・薬物医学会総会,  小倉,  2010/10
6. ◎石川文雄、桑原 卓、田中ゆり子、岡田弥生、今井常彦、百瀬弥寿徳、垣内史堂、近藤元就: 多発性硬化症モデルマウスに対するエタノール作用について.  第45回日本アルコール・薬物医学会総会,  小倉,  2010/10
7. ◎杉田稔: 企業経営者が求めるヘルシーカンパニー創造における産業医の役割.  第12回東邦大学医師会産業医研修会,  東京,  2010/09
8. ◎瓜田純久、今井常彦、渡辺利泰、中嶋 均、松崎淳人、松橋正和、大本美彌子、杉本元信: 光干渉断層計によるEthanol-feeding rat 眼底画像診断の試み.  第45回日本アルコール・薬物医学会総会,  小倉,  2010/10
9. ◎冨山佳昭, 藤村欣吾, 倉田善之, 桑名正隆, 降旗謙一, 松原由美子, 宮川義隆, 高蓋寿朗, 柏木浩和, 野村昌作, 杉田稔, 島田直樹: ITPサブグループ.  厚労科研難治性疾患克服研究事業22年度 「血液凝固異常症に関する調査研究」 報告会,  東京,  2010/07
  :Corresponding Author
  :本学研究者