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 医学部 医学科 解剖学講座/微細形態学
 Division of Histology and Cell Biology, Department of Anatomy

教授:
  黒田 優
准教授:
  船戸 弘正
講師:
  小田 哲子
■ 概要
体重制御・睡眠・情動行動に関わる神経回路の研究
体重制御、睡眠覚醒行動および情動行動は個体の生命維持に不可欠な行動である。いずれも一見単純な行動に見えるが、ストレス負荷、学習、絶食、睡眠遮断、加齢などの内的または外的要因によって大きく影響を受ける。このことの神経解剖学的基盤は、視床下部-脳幹を中心に大脳から脊髄、さらには末梢組織を含めた複雑な階層的ネットワークであることと考えられているが、詳細は不明である。
私たちはモデル動物として主にマウスを用い、野生型C57BL/6に加え、オレキシンなどの神経ペプチド遺伝子を改変したマウスを導入し検討を加えている。
オレキシンはナルコレプシーの病態形成の中心であるなど、睡眠覚醒行動に大変重要であるだけでなく、摂食行動、体重制御および報酬行動にも深く関与していることが分かっている。
睡眠異常は、気分障害などの病態でも認められるが、なぜ気分障害で睡眠障害を生じるのかは不明である。睡眠に関わる回路に焦点を当てて、ストレス等の環境因子によってどのような変化を生じるのかを、形態学的手法を中心としながら、動物行動学、分子生物学および薬理学の手法も組み合わせて検討している。体重制御に関しては、オレキシン2型受容体を介したシグナルが体重制御に関わっていることから、これらに関わる神経回路の同定を目指している。
GABA作動性神経にGFPを発現させたマウスを用いて抑制性神経のネットワークも合わせて検討している。
また、広義の環境因子が個体行動へ与える影響を検討するためヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)ファミリー分子の発現についても、詳細な組織学的検討を重ねている。
前頭前皮質と視床背内側核(MD 核)間の神経回路・機構の研究
作業記憶などの高次脳機能に深く関わる前頭前皮質と視床背内側核(MD 核)間の神経回路・機構を研究している。
両者間における興奮性単シナプス性フィードバック・ループの証明は,この興奮性反響回路が作業(短期)記憶の
保持に貢献しているという仮説を大きく後押ししている。現在,この興奮性ループの制御系,特に皮質内抑制性イ
ンターニューロンおよび腹側被蓋野の関与について検索中である。
脳の発達を育む性別に適した養育環境の検討
特定の発達段階における養育環境が、脳に与える影響は男女で異なることが報告されている。これは脳発達に適した養育環境が男女で異なることを示唆している。これまで、ラットを対象とした網羅的行動解析、生理学的・生化学的解析を用いて、出生後の環境が、雌雄個体の学習・記憶機能および統合失調症発症に与える性特異的な影響について研究を行ってきた。その結果、空間学習機能と、その神経基盤である海馬のアセチルコリンレベルの性差は思春期後の養育環境の影響によってつくられること明らかにした。また、ストレス不応期中期の母子分離操作は、思春期後に雄性特異的に統合失調様行動を引き起こすこと、そして、その分子基盤に海馬カルシニューリンが関与することを明らかにした。これらの知見は養育環境の影響によって障害された脳発達を回復する創薬シーズを提供する。現在はマウスを対象とした網羅的行動解析、形態学的解析を用いて、高脂肪食給餌が雌雄個体の摂食、睡眠、情動機能に与える性特異的な影響とその分子基盤について研究を行っている。
視床皮質間神経回路の解析
視床内および視床皮質間の神経回路網において、神経線維の結合様式と神経伝達物質あるいはその関連タンパク質の分布を、免疫多重染色法を用いて解析している。本年度からは、視床皮質路における小胞性グルタミン酸トランスポーターのアイソフォーム、VGluT1とVGluT2、の分布を解析している。
■ Keywords
体重, 睡眠覚醒, オレキシン, 視床下部, 報酬系, 性差、環境、発達、前頭前皮質, 視床, 視床皮質路
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(C)  (研究課題番号:22610024)
 研究課題:多面的行動分析によるADHDモデルラットに関する発生学的および神経行動学的研究  (研究分担者:高瀬堅吉)
 研究補助金:100000円  (分担)
2.  文部科学省科学研究費補助金 若手研究(B)  (研究課題番号:23790279)
 研究課題:適応的な情動性、社会性を育む各性に適した養育環境の検討  (研究代表者:高瀬堅吉)
 研究補助金:600000円  (代表)
その他
1.  東邦大学医学部プロジェクト研究  (研究課題番号:24-3)
 研究課題:摂食・睡眠調節神経回路におけるHDACファミリー発現の検討  (研究代表者:高瀬堅吉)
 研究補助金:500000円  (代表)
■ 教授・准教授・講師の公的役職
1.  黒田 優 :財団法人大学基準協会判定委員会・相互評価委員会分科会評価委員
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















黒田 優   教授
医学博士
  2  2          
 
 
 
 
 
船戸 弘正   准教授
博士(医学)
      1        
 
 
 
 
 
小田 哲子   講師
博士(医学)
 1   2          
 1
 
 
 
 
高瀬 堅吉   助教
博士(行動科学)
 1  1 3  2 1       2
(2)
 3
 
 
 
 
横藤田 純子   助教
博士(医学)
              
 
 
 
 
 
 2 1  3 0  0  2
(2)
 0
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














黒田 優   教授
医学博士
         
 
 
船戸 弘正   准教授
博士(医学)
    1     
 
 
小田 哲子   講師
博士(医学)
 1        
 
 
高瀬 堅吉   助教
博士(行動科学)
 1 1  2     2
(2)
 
 
横藤田 純子   助教
博士(医学)
         
 
 
 2 1  3 0  0  2
(2)
 0
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Takase K, Yamamoto Y, Yagami T:  Maternal deprivation in the middle of a stress hyporesponsive period decreases hippocampal calcineurin expression and causes abnormal social and cognitive behaviours in adult male Wistar rats: Relevance to negative symptoms of schizophrenia.  Behavioural brain research  232 :306 -315 , 2012
2. Ito M, Yamanashi Y, Toyoda Y, Izumi-Nakaseko H, Oda S, Sugiyama A, Kuroda M , Suzuki H, Takada T, Adachi-Akahane S:  Disruption of Stard10 gene alters the PPARα-mediated bile acid homeostasis.  Biochimica et biophysica acta - Molecular and Cell Biology of Lipids  1831 (2) :459-468 , 2013
3. Morimoto S, Ito M, Oda S, Sugiyama A, Kuroda M, Adachi-Akahane S:  Spinal Mechanism Underlying the Antiallodynic Effect of Gabapentin Studied in the Mouse Spinal Nerve Ligation Model.  Journal of pharmacological sciences  118 (4) :455 -466 , 2012
4. Kikuchi T, Tan H, Mihara T, Uchimoto K, Mitsushima D, Takase K, Morita S, Goto T, Andoh T, Kamiya Y:  Effects of volatile anesthetics on the circadian rhythms of rat hippocampal acetylcholine release and locomotor activity.  Neuroscience  237 :151 -160 , 2013
5. Miyazaki T, Takase K, Nakajima W, Tada H, Ohya D, Sano A, Goto T, Hirase H, Malinow R, Takahashi T:  Disrupted cortical function underlies behavior dysfunction due to social isolation.  The Journal of clinical investigation  122 :2690 -2701 , 2012
総説及び解説
1. 高瀬堅吉、黒田優:  視床とコリン作動性ネットワーク.  Clinical Neuroscience  30 (6) :655 -657 , 2012
2. 小田哲子、 黒田 優:  視床-単なる中継核ではない:解剖学的基礎.  Clinical Neuroscience  31 (1) :20 -23 , 2013
3. Yagami T, Yamamoto Y, Kohma H, Takase K:  Arachidonate cascade in the intensive insulin therapy for critically Ill patients with sepsis: Roles of prostaglandins on hyperglycemia-impaired immunity.  Letters in drug design & discovery  9 :557 -567 , 2012
■ 著書
1. 船戸弘正:  精神神経内分泌学と精神神経免疫学.  「現代臨床精神医学」第12版  55-57.  金原出版,  東京, 2013
2. 高瀬堅吉、近藤保彦:  神経・生理領域.  心理学検定公式問題集 2012年度版  288-323.  実務教育出版,  東京, 2012
3. 高瀬堅吉、近藤保彦:  神経・生理領域.  心理学検定公式問題集 2013年度版  288-323.  実務教育出版,  東京, 2013
4. 高瀬堅吉、柳井修一:    トランスジェニック・ノックアウトマウスの行動解析  1-407.  西村書店,  新潟, 2012
■ 学会発表
国内学会
1. ◎Miyazaki T, Takase K, Takahashi T: 社会的隔離による大脳皮質機能異常のメカニズム.  第90回日本生理学会大会,  東京、日本,  2013/03
2. ◎高瀬堅吉: 行動医学のコアカリキュラム提案に向けたJABSの取り組みと求められる役割.  第20回日本行動医学会学術総会,  京都、日本,  2013/03
3. ◎伊藤雅方 , 小田哲子: 脂質転移タンパク質STARD10の分子複合体による脂質代謝調節機構の解明.  第141回東邦医学会例会,  東京,  2013/02
4. ◎吉田さちね、Gianluca Esposito、恒岡洋右、大西竜子、神谷和作、星野幹雄、菊水健史、加藤忠史、黒田公美: 仔マウスが親に運ばれる時に示す輸送反応の発達とその制御機構.  第35回日本神経科学大会,  名古屋、日本,  2012/09
5. ◎高瀬堅吉: 動物モデルからヒトの行動原理を解明する研究の最前線-心理学における動物実験の意義-.  日本心理学会第76回大会,  横浜、日本,  2012/09
6. ◎Iwai A, Miyazaki T, Takase K, Takahashi T: LTP-like potentiation occurs in lateral amygdala during fear me memory extinction.  日本神経科学学会主催 第35回日本神経科学大会,  名古屋、日本,  2012/09
7. ◎Sugioka K, Takase K, Setsu T, Imai H: A developmental neurobehavioral study in microencephalic rats with abnormal brain neurogenesis induced by prenatal methylazoxymethanol (MAM) treatment (the 2nd report: PPI and fear conditioning experiments).  日本神経科学学会主催 第35回日本神経科学大会,  名古屋、日本,  2012/09
  :Corresponding Author
  :本学研究者