カタギリ ナオユキ   Katagiri Naoyuki
  片桐 直之
   所属   東邦大学  医学部 医学科(佐倉病院)
   職種   准教授
論文種別 総説
言語種別 日本語
査読の有無 査読なし
招待の有無 招待あり
表題 精神病の発症に抗う脳内変化
掲載誌名 正式名:日本医事新報
ISSNコード:03859215
掲載区分国内
出版社 日本医事新報社
巻・号・頁 4912,3-3頁
著者・共著者 片桐直之, 水野雅文
担当区分 筆頭著者
発行年月 2018/06
概要 近年、統合失調症などの精神病は、早期に治療を受けるほど症状の悪化が防げ、回復も早まり、社会復帰できる可能性も増すことが明らかになっている。さらに、精神病が発症する前段階である精神病発症危険状態(At risk mental state; ARMS)からの介入により、発症さえも予防できる可能性が示唆されている。
 精神病の発症閾値下の精神病症状を呈するARMS症例のうち約30%が精神病へと移行するが(ARMS発症群)、既に同群の脳内では、発症前から様々な病的変化が生じることが知られている。
一方、ARMS群のうち約70%を超える、精神病へと移行しないことから偽陽性群とも呼ばれるARMS非発症群であったとしても、実際には、40%あまりの人において、2年間経過しても閾値下の精神病症状や不調感が続き、社会復帰することも困難で、様々な苦痛に苛まれていることが明らかになっている。
そこで、筆者らは、ARMS非発症群の脳内変化につき研究を進めてきた。統合失調症では、脳内の神経ネットワークを担う神経線維の束である大脳白質の障害が報告されてきたことから、MRIを用いARMS非発症群の白質の統合性の指標とされるFractional anisotropy (FA)値を調べた。その結果、非発症群では健常群に比べ脳梁のFA値が有意に低下していた(図)。これは、ARMS群のうち非発症群(偽陽性群)でも白質にアブノーマリティーが生じていることを示唆する結果であった。
一方、非発症群に一年間適切な介入を行ったところ、閾値下の精神病症状は改善し、さらに脳梁のFA値の増加も症状の改善と有意に相関した。この結果は、ARMS非発症群への早期介入が閾値下の精神病症状の回復に貢献するだけでなく、その回復には白質の統合性の改善が寄与することを示唆するものであった。
これは、ARMSにおける閾値下の精神病症状の改善や精神病発症が阻止される過程(レジリエンス)を生物学的側面より示した希望的な発見である可能性があり、その後の筆者らの研究を進める原動力となっている。