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 理学部 物理学科 表面物理学教室
 Surface Physics Laboratory

教授:
  高木 祥示
理学部博士研究員:
  宮内 直弥
■ 概要
ステンレス薄板を透過する水素の電子衝撃脱離法による観察
金属中の水素の挙動は水素脆化,水素貯蔵,水素透過,核融合の観点から重大な関心が持たれている.本研究室では金属中での水素透過特性を調べるため,ステンレス薄板の片側を重水素雰囲気に曝露し反対側表面上に拡散透過した重水素を走査電子線による電子衝撃脱離イオン像として観察している.使用したステンレス薄板はオーステナイトステンレスであるSUS304に20%の冷間加工を施したマルテンサイト転位を含む2相ステンレスである.薄板の厚さは100μmであり,結晶粒のサイズとほぼ同じである.イオン像は走査電子線と同期した2次元パルス計数システムによるデジタル画像として連続的に取り込まれ,透過現象の実時間観察が可能である.2次電子像による結晶粒構造とイオン像による表面水素濃度分布を試料温度の変化及び透過時間を追って観察することにより,結晶粒界,相,結晶方位による透過特性を明らかにする事ができる.現段階では2次電子像により結晶面方位の差異は判別できない。試料温度を473K,試料背面より2.7×105 Pa の重水素を曝露し,50時間の連続撮影を行った.1枚の撮影時間は400sである.結晶粒の面方位及び試料厚さ方向の粒構造の影響が現れているが,粒構造と水素分布には高い相関が認められた.曝露初期には粒界密度が高い領域の水素濃度が比較的高く,その後,マルテンサイト相の濃度が上昇する.また,オージェ分析によるC,O,Fe,Cr,S,Niの表面分布と水素分布には相関が認められなかった.
ゲータイト(FeOOH)劈開面へのセシウム(Cs)吸着の研究
重金属による土壌汚染は人体への悪影響から幅広く研究されているが,土壌物質表面における重金属の吸着機構の理解は汚染土壌の浄化のための基礎研究として重要である.昨年度,土壌鉱物の1種であるゲータイトのCd吸着サイトを同定するため,X線光電子分光法(XPS)と原子間力顕微鏡(AFM)による観察を行った.今年度はゲータイトにCsを蒸着し,同様の研究を行った.
(1) AFMによるゲータイト劈開面の同定
 原子間力顕微鏡(AFM)を用いて土壌鉱物であるゲータイト劈開面の観察を行った.天然に結晶成長したゲータイトを大気中で劈開後AFM試料台に取り付け、真空排気し(~1×10-3 Pa )、AFM観察を行った.ゲータイトは1個のFe3+を各々3個のO2-とOH-が取り囲む8面体が稜を共有しc軸方向に2列シート状に配列している.走査範囲15μm×15μmの画像にはc軸方向に伸びた幅0.5 nm~1.0 nm 程度の単結晶と考えられる針状ゲータイトが束状に凝集している.単結晶と考えられる表面上の段差のヒストグラムを取ると4.78±0.58Å間隔で頻度が高くなり,その間隔の段差が優位に存在することを示している.この段差はb軸方向の周期性の半分に相当している.ゲータイトの結晶構造よりb軸方向には連結した2個の8面体と同じ長さの空隙が交互に並んでおり,劈開面の主要面は(010)であることを示している.
(2) XPSによるCs吸着状態の観察
 主要面が(010)であるゲータイト劈開面にCsを真空蒸着し,XPSによりその結合状態を観察した.観察した光電子スペクトルはゲータイトのO1sとCs3d3/2,5/2である.Cs膜厚を0, 9, 15, 21, 27, 36, 42Åと変化させ,光電子の化学シフトを測定した.O1sスペクトルはゲータイトの組成より結合エネルギー527.7 eV に観測されたO2-と530.1 eV に観測されたOH-に由来する2つのピークにより構成される.前者のO2-に由来するピークはCs膜厚が21Åまで増加するにつれて525.7 eV まで低エネルギー側にシフトし、その後は一定値をとる.それに対し,OH-に由来するピークはCs膜厚の増加に対して変化を示さなかった.これよりCs原子はO2-サイトに選択的に吸着することが分かる.Cs3d3/2,5/2スペクトルはAu基板上に蒸着したpure Csの結合エネルギー(Cs3d3/2:740.4 eV,Cs3d5/2:726.5 eV)と比較すると,9ÅからCs3d3/2,5/2ともに約1.5 eV 低く,27Å迄Cs3d3/2:738.9.4 eV,Cs3d5/2:724.9 eV(平均)とほぼ一定値を示し,吸着したCsはゲータイト表面原子と結合していることを示している.
■ Keywords
hydrogen permeation, stainless steel, ESD, goethite, Cs, adsorption, XPS, AFM
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  核融合科学研究所 一般共同研究
 研究課題:ステンレス薄板を透過する水素の電子衝撃脱離法による計測  (研究代表者:髙木祥示)
 研究補助金:243000円  (代表)
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















高木 祥示   教授
工学
              
 2
 
 2
 
 2
宮内 直弥
理学
              1
 2
 1
 1
 1
 1
 0 0  0 0  0  1
(0)
 1
(0)
 1
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














高木 祥示   教授
工学
         
 
 
宮内 直弥
理学
         1
 1
 1
 0 0  0 0  0  1
(0)
 1
(0)
 1
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会