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 医学部 医学科 生化学講座/病態生化学分野
 Department of Biochemistry Division of Pathological Biochemistry

教授:
  中野 裕康
准教授:
  山﨑 創
■ 概要
上皮細胞のバリア機構は、外界からの影響を少なくすることにより生体の恒常性維持に寄与している。感染や組織傷害によってこのバリア機構が破綻すると、病原体成分や、自身の死細胞の成分、および細胞死に伴って生じる活性酸素種などがシグナルとなって周囲の細胞にはたらきかけ、サイトカインなどの液性因子の産生を誘導する。産生された液性因子は更に組織に存在する幹細胞や支持細胞に作用し、組織修復を誘導する。この一連の変化は、癌や慢性炎症、および自己免疫疾患と密接に関連している。
私たちの研究グループでは、生体の恒常性維持機構において、細胞死がどのように関与するか、死細胞から放出される自己成分や酸化ストレスがどのような役割を果たしているかについて、サイトカインの産生や転写因子の活性化に着目した研究を行なっている。
1. 炎症性大腸発がんモデルマウスを用いたインターロイキン-11(IL-11)産生細胞の同定
IL-11はIL-6サイトカインファミリーに属するサイトカインであり、細胞の増殖や分化に関わる遺伝子の発現を誘導する。過去の研究からIL-11は、消化器がん患者の腫瘍部位において発現が亢進しており、発がんモデルマウスを用いた解析から、IL-11 がその腫瘍形成に重要な役割を果たしていることが報告されている。このことから、IL-11は新たな治療標的となりうると考えられるが、発がん過程あるいはがん化した組織においてどのような機構を介して実際にIL-11が産生されているかについては、詳細が不明であった。
我々はIL-11産生細胞およびその産生機構を明らかにする目的で、IL-11遺伝子の転写調節領域に蛍光蛋白質EGFPを導入したレポーターマウスを新たに樹立した。このレポーターマウスを用いてAzoxymethane (AOM) + Dextran sulfate sodium (DSS)投与による炎症性大腸発癌モデルの解析を行った結果、IL-11は腫瘍部位においては主に間質細胞で発現しており、その他少数の骨髄由来細胞や上皮細胞に発現が見られた。一方、前癌病変部位では、間質細胞でのみIL-11の発現が見られた。そこで、炎症時におけるIL-11産生細胞を同定する目的でDSS誘導性大腸炎マウスモデルでの解析を行った結果、大腸上皮細胞の傷害が見られる領域でIL-11は間質細胞に選択的に発現することを見出した。我々は現在、このIL-11の産生機構ならびにIL-11産生細胞の特徴を明らかにすることを目的に研究を進めている。
2. 自然免疫応答における遺伝子発現調節
微生物感染に伴って自然免疫が活性化すると、サイトカインなどの炎症メディエーターや、抗菌タンパク質などの発現が誘導される。私たちは、独自に同定した転写調節因子である「IκBζ」の役割に着目して、自然免疫の活性化時に発現する遺伝子の調節に関する研究を行なっている。これまでに、IκBζが、NF-κB p50サブユニットと結合して、発現制御領域のアクセシビリティを増大させることにより、NF-κB標的遺伝子の発現に必須の役割を果たすことを明らかにしてきた。現在、IκBζが標的遺伝子の発現制御領域に選択的に結合する仕組みや、IκBζの欠損により生じる病態の発症機構の解明を目指している。
■ Keywords
酸化ストレス、IL-11、レポーターマウス、親電子、ROS、修復、腸炎、恒常性、粘膜、サイトカイン、腸管
■ 当該年度の研究費受入状況
1.  平成27年文部科学省科学研究費 新学術領域研究 (国際共同研究加速基金「国際活動支援班」)  (研究課題番号:15K21753)
 研究課題:日豪細胞死研究協議会を核とした細胞死研究国際コミュニテイの形成  (研究分担者:中野 裕康)
 研究補助金:1000000円  (分担)
2.  平成27年日本学術振興会 ひらめき⭐︎ときめきサイエンス〜ようこそ大学の研究室へ〜KAKENHI  (研究課題番号:H27108)
 研究課題:細胞の「死」が生命(いのち)を支えていることを学ぼう  (研究代表者:中野 裕康)
 研究補助金:356000円  (代表)
3.  平成27年度文部科学省科学研究費 新学術領域研究  (研究課題番号:26110003A01)
 研究課題:計画的ネクローシスが担う生体応答機構の解明  (研究代表者:中野 裕康)
 研究補助金:20100000円  (代表)
4.  平成26-28年度文部科学省科学研究費 基盤研究(C)  (研究課題番号:26460397)
 研究課題:炎症性腸疾患におけるインターロイキン11を介した粘膜修復機構の解明  (研究代表者:仁科 隆史)
 研究補助金:1200000円  (代表)
■ 当該年度研究業績数一覧表
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表
和文英文 和文英文 国内国際
















中野 裕康   教授
  1  1    1      
 7
(6)
 1
 
 
 
山﨑 創   准教授
 1  1           1
 1
 
 
 
 
仁科 隆史   助教
              4
(4)
 2
(2)
 
 
 
 
 1 1  0 1  0  5
(4)
 1
(0)
 0
(0)
研究者名 刊行論文 著書 その他 学会発表 その他
発表














中野 裕康   教授
     1    
 1
 
山﨑 創   准教授
 1 1       1
 
 
仁科 隆史   助教
         4
(4)
 
 
 1 1  0 1  0  5
(4)
 1
(0)
 0
(0)
(  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会 (  ):発表数中の特別講演、招請講演、宿題報告、会長講演、基調講演、受賞講演、教育講演(セミナー、レクチャーを含む)、シンポジウム、パネル(ラウンドテーブル)ディスカッション、ワークショップ、公開講座、講習会
■ 刊行論文
原著
1. Soh Yamazaki, Shizuo Akira, Hideki Sumimoto:  Glucocorticoid augments lipopolysaccharide-induced activation of the IκBζ-dependent genes encoding the anti-microbial glycoproteins lipolicain 2 and pentraxin 3.  Journal of Biochemistry  157 (5) :399 -410 , 2015
2. Tsuchiya Y, Murai S, Yamashita S:  Dual inhibition of Cdc2 protein kinase activation during apoptosis in Xenopus egg extracts.  The FEBS journal  282 (7) :1256 -1270 , 2015
総説及び解説
1. 進藤綾大、中野裕康:  ネクロプトーシスによる生体応答制御機構.  臨床免疫・アレルギー科  63 (5) :401 -405 , 2015
2. 山崎 創:  核内因子IκBζによる炎症の制御.  臨床免疫・アレルギー科  63 (5) :466 -471 , 2015
3. Tsuchiya Y, Nakabayashi O, Nakano H:  FLIP the Switch: Regulation of Apoptosis and Necroptosis by cFLIP.  International Journal of Molecular Sciences  16 (12) :30321 -30341 , 2015
■ 学会発表
国内学会
1. ◎中野裕康: cFLIPによる細胞死制御.  日本薬学会第136 年会,  横浜市,  2016/03
2. ◎仁科隆史, 出口裕, 三上哲夫, 中野裕康: インターロイキン(IL)-11レポーターマウスを用いた炎症性大腸発癌モデルにおけるIL-11産生細胞の解析.  第12回 4学部合同学術集会,  東京,  2016/03
3. ◎仁科隆史, 出口裕, 三上哲夫, 中野裕康: 炎症性大腸発がんモデルを用いたインターロイキン(IL)-11 産生細胞の同定.  第147回東邦医学会例会,  東京,  2016/02
4. 神田 朗, 山﨑 創, 住本 英樹: 核タンパク質IκBζはアンキリンリピートドメインのNおよびC末端領域を介してLcn2遺伝子プロモーター上でNF-κB p50と転写活性化複合体を形成する.  第38回日本分子生物学会年会・第88回日本生化学会大会 合同大会,  神戸ポートアイランド,  2015/12
5. ◎出口裕, 仁科隆史, 大塚正人, 中村衣里, 小島裕子, 三上哲夫, 多田昇弘, 中野裕康: 大腸がんの発症と進行におけるInterleukin-11の産生細胞の免疫組織化学的解析.  第38回 日本分子生物学会大会 第88回 日本生化学会大会 合同大会,  神戸,  2015/12
6. ◎小島裕子, 仁科隆史, 中野裕康, 八木田秀雄, 竹田和由: がん細胞特異的細胞死誘導分子の局在に着目した分子標的がん治療の新たな展開.  第38回 日本分子生物学会大会 第88回 日本生化学会大会 合同大会,  神戸,  2015/12
7. ◎仁科隆史, 出口裕, 大塚正人, 中村衣里, 小島裕子, 三上哲夫, 多田昇弘, 中野裕康: インターロイキン(IL)-11レポ-ターマウスを用いた炎症性大腸発がんモデルにおけるIL-11産生細胞の解析.  第38回日本分子生物学会年会、第88回日本生化学会大会 合同大会,  神戸,  2015/12
8. ◎進藤綾大、大村谷昌樹、駒澤幸子、三宅早苗、小池正人、内山安男、荒木喜美、中野裕康: 細胞死亢進マウスを用いた新たな代償性増殖に関与する因子の同定.  第38回日本分子生物学会年会・第88回日本生化学会大会 合同大会,  神戸,  2015/12
9. ◎朴雪花, 三宅早苗, 小池正人, 角田宗一郎, 内山安男, 中野裕康: 表皮特異的Cflip欠損マウスはTNFa非依存性に皮膚炎を発症する.  第38回日本分子生物学会年会・第88回日本生化学会大会 合同大会,  神戸市,  2015/12
10. ◎三宅早苗、朴雪花、小池正人、角田宗一郎、内山安男、中野裕康: 表皮特異的cFlip欠損マウスの表皮細胞はアポトーシスが亢進するとともに分化異常を呈する.  第24回日本Cell Death学会学術集会,  大阪、日本,  2015/07
11. ◎中野裕康: 細胞死亢進マウスを用いた代償性増殖に関与する因子の同定.  第24回日本Cell Death学会学術集会,  大阪市,  2015/07
12. ◎仁科隆史, 出口裕, 大塚正人, 中村衣里, 小島裕子, 多田昇弘, 中野裕康: インターロイキン(IL)-11を介した生体の恒常性維持機構の解析.  第15回日本蛋白質科学会年会,  徳島,  2015/06
13. ◎中野裕康: Targeted integration of CFLIPs on the X chromosome in mice results in identification of genes that promote compensatory proliferation.  第44回日本免疫学会,  札幌市,  2015/12
14. Soh Yamazaki, Shizuo Akira, Hideki Sumimoto: Glucocorticoid augments lipopolysaccharide-induced activation of the IκBζ-dependent genes encoding the anti-microbial glycoproteins lipocalin 2 and pentraxin 3 in macrophages.  がん免疫療法・マクロファージ国際会議,  東京大学伊藤国際学術研究センター,  2015/07
国際学会
1. ◎Nakano, H.: Targeted integration of CFLIPs on the X chromosome in mice results in identification of genes that promote compensatory proliferation.  Japan Australia Cell Death Meeting,  Melbourne, Australia,  2015/10
2. ◎Piao X, Miyake S, Komazawa-Sakon S, Koike M, Uchiyama Y, Nakano, H.: Deletion of Cflip in the epidermis results in TNFR1-dependent and independent lethal dermatitis.  Japan Australia Cell Death Meeting,  Melbourne, Australia,  2015/10
3. ◎Nakano H, Ohmuraya M, Komazawa-Sakon S, Miyake S, Murai S, Araki K, Shindo R.: Targeted integration of human cFLIPs gene on X chromosome results in RIPK3-dependent apoptosis and necroptosis.  15th International TNF conference,  Ghent, Belgium,  2015/05
  :Corresponding Author
  :本学研究者